四章 第16話 朝比奈尾道の希望
「よお、来たぞ」
「尾道くん、久しぶりー!」
重いがなり声と快活な高音が図書館の中に響く。まあ周りが周りなので声は少し抑えられているが。
「おお、久しぶり」
軽く手を上げ返事をする。確か花見の時に会ったので三ヶ月ぶりくらいか。
図書館にやって来たのは片桐景介と安達すみれ。俺の元同級生でまあ彼らには色々と手助けしたもんだ。
ちなみに今はその甲斐があったのか二人はカップルだ。俺としてはリア充作りを促進してしまったのは失策だったが、まあ思いが結ばれるというのは素晴らしいことなのだろう。知らんけど。
「待たせてごめんね〜」
「全然いいよ。忙しいみたいだし」
「まあ全然いいよね。春野ちゃんは尾道くんと話せるし」
「ちょ、ちょっとそれは……」
そんな会話を繰り広げながら二人は俺たちの対面に座る。真正面が片桐でその隣が安達といった感じだ。
だがこの会話を聞くと、どうやら春に起こったアレを知ってるみたいだ。まったく……憂鬱になるよ。
「それでどうなの? 尾道くん」
「別になんとも思ってねぇよ」
俺がつっけんどんに答えるとニヤニヤと安達が笑い出す。
出たよ。リア充の嫌いな生態なんていくらでも出てくるが、特にきついのがこれだ。自分の方が恋に優位だと思い込んで他人のそういう問題に首を突っ込んでくるパターン。
別に安達だからウザイということもないのだが、単純にこの手のやつは見下されてる感じがモロに出てウザイ。とりあえずリア充がウザイし。
どうやって回避しようかなーと思っていると
「そのくらいにしとけ。本題はそこじゃねぇし」
意外にも片桐が助け船を出す。ありがたいと思いそれに乗る。
「そうだ。学校で何やってたかは知らんが、もう遅い時間だし早めに終わらせるぞ」
「ていうかもうここ閉まるよね」
安達に冷静に返され壁掛け時計を確認する。気づいたら辺りは暗くなっており、図書館の閉館時間の十分前だ。
ほとんどの人が図書館からいなくなっており、司書の方が残った俺らをチラチラと見ている。
はあ、とため息を吐きながら立ち上がる。
「場所を変えるぞ」
閉館手前の図書館を出て、行く当てを考えながらふらふらと道を歩く。
「どこに行こうか」
「ファミレスとかでいいんじゃね。ほら駅前の」
「えー。あそこ遠いし、前行った時、店員さんが感じ悪かった」
「そうだったか? まあお前が嫌なら変えるけど。じゃあいつもの学校近くの……」
片桐と安達で色々と話し合って決めている。特に口出しすることもないので、それに任せて後についていく。
「結構時間かかりそうだね」
春野が隣に並びながら声を掛けてくる。
「まあ予想外にな。もっと手早く終わると思ったんだが……」
「学生は忙しいのだよ。すみれは生徒会だし、片桐くんも委員会やってるし」
ふふんと笑い胸を張る。なぜお前が得意そうなんだ……。
「お前は暇なんだな。今日もすぐ来たし」
「勉強してるから暇じゃないんだけどなぁ……。尾道くんの方が5時で仕事終わりだから暇でしょ」
「そうだな。部活、委員会活動という残業もないし、宿題という持ち帰り残業もない」
「しかも職場ならお金貰えるんだよね……」
そんな会話をしていると学校が滅茶苦茶ブラックな場所に感じてきた。
まあそれはカフェ「三ツ星」が比較てホワイトな職場であるから前提なのだが。夜空の暴言さえスルーできるようになればいい職場だ。やばい。最後が鬼門すぎる。
「着いたぞ」
片桐が立ち止まり後からついてきていた俺たちに声をかける。どうやら目的地も無事決まって着いたらしい。
「やっぱこのファミレスなんだな」
「ああ、懐かしいだろ」
ニカッと歯を見せて片桐が笑う。それに少しだけ違和感を覚える。だがすぐに気を取り直し、ファミレスの蛍光色の強い看板を見上げる。
言われると確かに懐かしいかもしれない。前に行ったのは確か勉強会の時だろうか。
学校近くのファミレスなんて自分の家からは少し遠いし、それにここは多くの学生が利用するので今の俺にはまったく需要がないのだ。
店内に入ると前と同じように騒がしい。ファミレスなので当然といえば当然なのだが、このなんというか青春のフレッシュな感じは……。
「なんか酔うな……」
「酔うってどういうこと!?」
春野が驚愕している。だが俺にも言い分はあるのだ。
「いや、なんかキラキラとした感じに当てられるというか……」
「あ、でも、その気持ちなんとなく分かる」
安達が俺の言葉に乗る。分かる人には分かるらしい。
その騒がしい店内で店員さんに案内されボックス席に座る。先ほどの図書館と同じ配置だ。
お水を運んできた店員さんに全員がドリンクバーだけを頼む。夕食時だが食事を取るつもりはないらしい。
「それで話したいことって?」
ドリンクバーを各々取ってきてから安達が口を開く。俺と春野が目を合わせる。春野がこくっと頷く。どうやら俺に任せるつもりらしい。
「あー、じゃあまず……」
そこからは意見を求める問題について説明をする。全部話すと長いので所々はしょってはいるものの、大分時間がかかってしまった。
「……って感じなんだが何かあるか?」
一応話し終わって、乾いた唇を舐める。
「ふうん。なんか凄いね」
「お前っていっつもめんどうなことに首突っ込んでんだな」
「俺は別に感想が聞きたいわけじゃないんだけどな……」
安達と片桐がその場の所感を語ったことに思わず辟易する。だけどまあ彼らは話を聞くまでは無関係だし、なんなら今も第三者であることには変わらない。
「いや〜だって……ねぇ?」
「お前ってめんどくさがりとか言うけど、実はお節介なオカンなのか?」
口々にそんなことを言う。
失礼な話だと思う。こっちは結構真面目に話してるつもりなのに、こういうことを言われるのは。だが心当たりがないこともないので思わず黙ってしまう。
それでも黙っていても何も始まらないと思い、丁寧に言葉を紡ぐ。
「……まあ、なんて言うんだろうな。今回はいつもとはちょっと違うんだよ」
心なしか重々しい口調になってしまった。店内は騒がしいのにこのテーブルだけが影を落としたように静かになる。
「それは優しさってこと?」
「……ああ、まあ、そうなんじゃないか?」
安達の返しに一応賛同はするが、優しさという言葉だけではどうも腑に落ちない。
夜空からの依頼という形でやってはいるものの、安達や片桐のような依頼を受けたからやる訳ではない。もっと別の感情が内包されている。
答えにはなんとなく当たりはつく。それでもこの場でそれを出すのはなんとなく気が引けた。それに優しさというのも間違ってはいないし。
「まあ、そんなことはどうでもいい。さっさと対策を話すぞ」
片桐がパンパンと手を叩き、次へと促す。夜空に会ったこともない人間ならこのくらいの反応が妥当だろう。
だからこの時間の意味は夜空にあったのではない。きっと俺にあったのだ。
彼らを助けた時と同じだ。俺も本当の意味では彼らとは無関係だったからその助ける理由を見つけるのに非常に苦労している。
おそらく彼らも同じことを思ったのだろう。夜空とは何も関係ない。その中で助ける理由を模索したのだ。そして俺に白羽の矢が当たった訳だ。
俺の返答は彼らのお眼鏡に敵ったのか。その答えはこうして話を意見を出そうとする姿勢に現れているはずだ。
俺は密かに希望を持つ。彼らなら、俺と彼らならきっと夜空を助けられるはずだと。
最終回に向けて伏線ばらまきが進んでいますが、それを回収するのは当て嵌めていくパズルのようでなんか楽しいです。是非、最後までよろしくお願いします。




