四章 第9話 星合夜空にバースデープレゼントを
フォークで既に五等分された春野特製誕生日ケーキを切り分ける。
見た目は苺がのったただのホールケーキという感じなのだが、春野は飽きさせないように計算してか、中にはパイナップルやらオレンジやらが入っていてかなり手が込んでいる。
そうなると感想やらを言い合って盛り上がりそうなプログラムのはずなのに皆、無言で食べ進めていく。
「……このケーキ結構美味しいな」
無言は全然耐えられるのだが、何か感想がないと春野が可哀想だと思い口を開く。
「ん。ありがとー」
ごく簡単に春野がお礼を口にした。だがすぐに間が空く。
「……あー、この中にフルーツ入ってるのは凝ってるな」
「あ、それね。普通に食べたらつまらないだろうし、工夫してみたんだよー」
「そのおかげで飽きないな」
「……」
再び黙々とケーキを食べる時間が始まる。あんま会話振るの苦手でも頑張ってみたのにこれはないわ……。
あまりにも報われないために軽くため息をつくと
「なんかすげぇ会話下手だね、尾道先輩」
「大丈夫だ。自覚してる。けど何も喋らないのも問題だろ」
「だけど姉ちゃんに話振るのは……ねぇ」
夏樹はニヤニヤしながら俺にそう言ってくる。俺と春野の間に何かあったのは分かっている風だが一応訊いてみる。
「お前……どこまで知ってる?」
「誰から聞いたとかはないけど大体わかる」
「春野……お前……」
じとっと春野の方を見るがすぐに目を逸らす。バレた自覚はあるらしい。
おそらく態度で分かってしまったとかいう感じだろう。まあ、あの時泣いてたしな。気付いてもおかしくはない。
「何のことを話しているの?」
この中で話に取り残されているのは夜空だけ。訳も分からず周りを見やっている。
流成さんも聞いていないはずだが、そこは空気の読める大人。何かを察したのか笑顔を湛え黙ったままだ。今はそれも逆にうざいのだが。
「いや、大したことじゃ」
「そうそう! 全然大したことじゃないお!」
噛んだな。春野を見やると思い切り口元を押さえている。夜空はそれに対し訝しげな視線を送るがやがて外す。
夜空はその後もケーキを食べ進めるが時折、首を傾げたり手を顎にやったりしている。だが答えが出る雰囲気がなく一旦、安心する。
「さ、さてケーキも食べたし、プレゼント渡しのお時間でーす」
春野の軽快な司会で夜空の誕生日パーティーは進行していく。まあ、今のは少し自分の失敗を掻き消すような感じもあったが。
「ええっと、じゃあ……まず流成さんから」
ちょっと詰まったな。今まで軽快だったからそれがよく目立つ。だがその気持ちは分からんでもない。
俺も春野もかなり緊張しているのだ。俺たちの選んだ誕生日プレゼントに喜んでくれるか。そのことばかり考えてしまう。セレクトは間違っていないはずなのだが、なまじかハードルは高そうだ。
「僕からか。まあいつも通りこれかな」
流成さんはゴソゴソとポケットを探り、やがて夜空に小さな封筒を渡す。夜空はい落ち着いた表情でお礼を言いながらそれを受け取る。
その光景を見て恐る恐る春野が訊く。
「それは一体……?」
「図書カードだよ。5000円の」
何気なしに流成さんが語りかける。
俺はそれを聞いてなるほど、と納得する。これ正答の内の一つではなかろうか。
流成さんはきっと毎年夜空に何らかの誕生日プレゼントを用意しているのだろう。毎年だと選ぶのは大変だし、そういった点で図書カードは手堅い。夜空の自主性を重んじるいいプレゼントだ。
「ほあー、そんなプレゼントもアリか。私、そんなの贈られたことないし考えなかったなあ」
春野は感心したような声を上げる。
「そりゃあ姉ちゃん、図書カード貰っても本買わないから喜ばないじゃん」
「確かに。本嫌いにはブタに真珠だもんな」
俺は本をそれなりに読むので図書カードを貰えば、それなりに嬉しいだろうがそれは読書の習慣がある人だけだ。
「うっ……。べ、別に換金すればいいだけだし!」
「プレゼントの意味よ……」
夜空は頭を抱えながらそう言う。そうだな。どうせ換金するなら5000円の現金渡すか商品券で十分だからな。
「ま、換金しても全然いいと思って贈ってるけどね」
最後に流成さんがそう締める。つまり換金するのも想定の上ということだ。本当に抜け目のないプレゼントだと思う。
「じゃあ次は夏樹……」
「持ってきてないけど?」
何の罪悪感も感じてない風にはっきりと伝える。
「いや、お前。ここにいる意義よ……」
「しゃあないじゃん。姉ちゃんに誘われたの今日だし、星合さん好きそうなの分かんないし」
正論には正論なのだが、よく手ぶらで来れたなとは思う。だが夏樹にも言い分があるらしく
「ていうか昨日、それでもいいって言ったよね?」
更なる追い討ち。春野は「うっ……」と唸り声を上げる。どうやら春野は直前で援軍を頼んだらしい。まあその選択は失敗だろうが。
「確かに言ったね……。じゃあ次は私らの番か」
そう言ってゴソゴソと鞄の中から俺たちが選んだ誕生日プレゼントを取り出してくる。
「はい、これ。私と尾道くんから」
「ありがとう。開けていい?」
夜空がそう尋ねてくる。俺たちはそれを首肯し、綺麗に包装された袋を開けられていく。やがて箱が露出して、それも丁寧な手つきで開ける。
「これは……スニーカー?」
夜空が箱に入ったそれを眺めながら呟く。
俺たちの誕生日プレゼントは某有名スポーツ用品メーカーのローカットスニーカーで配色は夜空に合うように落ち着いたグレーをしている。
「そそ。色は私が選んで、スニーカーって案は尾道くんが」
「へー。スニーカーね。センスいいじゃん」
「本当にそう思ってんのか?」
夏樹がいつになく褒めているので、思わず疑うように言ってしまう。
「今ので俺に対する信用度が見えた気がするけど……。スニーカー贈るのは中々センスいいと思うよ。ま、勇気は要るけど」
完璧に見透かされている。そうなのだ。スニーカーという案が浮かんだ時は我ながら名案だとも思ったが、そこからが厳しかった。
どんなデザインなら夜空に似合うかや喜んでくれるかなど色んなことをどうしても考えてしまう。
なので早く感想を言ってほしいところなのだが、夜空は未だに貰ったスニーカーを眺めているだけだ。
「……何か感想は?」
「そうね。スニーカーを贈るなんて珍しいと思うわ。デザインも好きだし、ありがとう」
いつも通りの少し口角を上げる薄い笑みを夜空は湛える。こういう表情を見たのは久しぶりな気がする。
「お、おう。どういたしまして」
「どういたしまして!」
にししと春野も笑う。肩の荷も下りて一安心というところだろう。そういう俺も似たような気持ちだ。
ふと窓の外を眺めた。夕暮れの日が差し込んでいる。空には雲が一つもないおかげで遮るものがなく、思わず目を細める。
確か今週の天気はこの地域は概ね快晴で、このままいけば梅雨は問題なく明けるそうだ。
いよいよ夏が始まるという感じがする。流成さんが言うには書き入れ時の勝負の夏だ。
気分一転して頑張らなければ。この店にまつわる問題もあるし。それを解決する勇気を俺はこの誕生日会、ひいては日常の中々で貰った気がする。
12月は少ししか投稿できなかったのですが、その元凶?は全てこの話です。なんかもう色々上手くいってなくて、書いては消し書いては消しということをしてました。この部分を書き上げるのに二週間……。スランプってホントにあるんですね……




