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二章 第21話 安達すみれに教えてもらおう!

  「はい、そこの公式間違ってるよ。せめて公式だけはちゃんと覚えておこう」


  「えぇと、ここの証明はユーグリット使うのがいいかな」


  「あーこの場合は置き字じゃなくて普通に読むんだよね……」


  安達すみれがファミレスの喧騒に負けず、声を出しながら俺たちの勉強の間違いをどんどん指摘する。

  テスト一週間前ということで安達すみれの勉強会inファミレスが行われていた。メンバーは安達、俺、春野、片桐の四人。ちなみに主催者は一応、春野ということになっているが、計画をしたのは俺だ。だが俺は猛烈に後悔している。

  安達の指導が厳しすぎる。俺は褒められて伸びるタイプなのにこんなに言われちゃうと……ダイブしたくなる、一度きりの。

  正直こんだけしたらもう赤点回避できそうなんだよね……。俺、地頭だけはいいし。だが安達は緩めてくれる気配はない。

 

  「ほら、尾道ちゃん、シャーペン止まってるよ。ここままじゃ0点まっしぐらだよ!」

 

  「いや……お前厳しすぎない? 俺、100点取るつもりはないんすけど……」

 

  赤点回避さえできれば十分。60,70取れるならもう御の字だ。なのにこの仕打ち。目標のないやつに目標以上を求められるのはきつすぎる。次からサボっちゃうよ?

 

  「でも意外と尾道ちゃん、要領いいんだよなあ。なんか一人でやっても大丈夫そうだよね?」


  「ふっ、当然だ。いつもそうだからな」


  勉強が団体戦とか言ってるやつは糞だ。勉強は個人戦に決まっている。なら俺が最強。

  何のために点数をつけ、順位で比較し、入試で入学者を選別するのか。なぜそんな点数とかいう一つの物差しでしかないものに一喜一憂するのか。

  それは人間が他人を蹴落として生きていく生き物だからだ。蹴落とすことが本懐の人間に団体戦などできるはずがない。それでも団体戦だと言うのなら、そう宣ったやつは後で後悔するだろうな。

  受験は戦争。最後に合格したやつが正義だ。団体戦だと思って受験し、落ちたやつは周りを裏切り者と思っているかもしれないが敗者の言葉を耳を貸すやつなどいない。

 

  「ならちょっと手伝ってよ。この二人ちょっと……やばい……」

 

  すごい言いにくそうに仕事を押し付けてくる。春野と片桐に配慮する前に俺に配慮してくれませんかね……?

 

  「尾道くん、ちょっと教えて……ください」

 

  春野がおずおずと切り出してくる。安達の方が頭がいいから適任だと思うが、この際仕方ない。

 

  「何やってんの?」

 

  「物理を……」


  そう言って今まで書いていたノートを見せてくる。するとおのずと悩んでいる部分がわかる。あー、ここは見方を変えないとダメだな。とりあえず指摘しとくか。

 

  「ここは見方を変えるんだよ」

 

  「というとどんな風に?」


  「どんな風にか。それは……あれだよ。ええっと、ここを中心? として考えて……」


  俺が拙いながらも必死に教えているのに春野はポカンとして口を開いている。……うん、まあこうなるよな。


  「なんでわからないの?」

 

  あ、やっちまった。勉強中に言われると最もいらつく言葉ランキング一位のやつ。

  問題の解法は何一つ教えないのに、自分の実力だけ見せびらかす。言われた人にとっては百害あって一理なしだ。


  「え……、酷くない?」

 

  明らかに困惑してる。いや、ホント悪い。これ俺のせいだわ……。


  「春野、悪い……」

 

  俺が謝っても春野は変わらず、全く動かない。そこに安達が割って入る。

 

  「もーう。尾道ちゃんは教え方下手だなあ。そんなんじゃ手に入れられるものも手に入れられないよ!」

 

  「は? 何言って……」

 

  言葉を止まったのは春野があまりにもガチガチになっているからだろう。

 

  「何だよ、この状態……」

 

  今まで黙々と勉強をしていた片桐が口を開く。だけどこうなるよな……。俺もそう思うもん……。


  「はあ……、尾道ちゃん、もう教えなくていいから一人で勉強してて」


  「はい……、すんませんでした……」


  なんか最近ずっと謝ってる気がする。もしかしたらこの中で序列最下位の可能性がある。くそ、片桐には勝ってると思ったのに……。

  ていうかなんで勉強会開いてんのに一人で勉強してんの? 俺のぼっちスキルは人混みの中でも発動できるってこと? 能力発動条件なしとか最強スキルだろ。

 

  「い、いや! わかる、わかるよ! この鉄球を中心にして考えるってことでしょ!?」

 

  「全然違うんですけど……」

 

  それは箱B中心で考えるんだ。そこからの説明は無理。

  あまりにも春野のフォローが無意味、というか春野まで赤っ恥をかくようなミスをしたため、またもや微妙な雰囲気になる。ファミレスとかいう超フリースタイルのたまり場でも明らかに浮くほどだ。

 

  「そういや安達さんは大丈夫なのか? テスト一週間前だけど」


  片桐が珍しくフォローをする。しかも意中の相手に上手く会話を振るとはこいつもちょっと成長したな。

 

  「それはバッチリだね。あたし、テスト週間だからって勉強時間変えたりしないから。いつもと同じくらいしかやってない」


  ははん。頭いいやつのセリフだ。頭いいやつは自分に課した使命を必ずやりきる。特に勉強はテスト前だからとかではなく、生活のサイクルに組み込んでやっているのだ。


  「よく普段、勉強する暇あるな」


  「まあ、限られた時間でどうにかやってるよ」


  俺が訊くとたははと笑いながら答える。

  限られた時間。これに俺は少し引っ掛かりを覚える。こいつって多分、運動部じゃないよな。春野が球技大会の時、安達は中学の時、バレーを()()()()と言っていたからだ。

  今が運動部ならしていたなんて過去形にしないし、そっちの方の部活を優先して言うだろう。


  まあ、部活なんてやってなくても時間というのは案外、早く過ぎ去るものだ。現に俺なんて家でのゲーム、アニメ観賞、読書(ラノベ、漫画)だけで大抵、一日が潰れる。少し前はイレギュラーもあったけど。

  つまり安達が言う限られた時間というのも、こういう時間を入れた上での言葉なのだと勝手に解釈する。都合が良すぎるかな……。

 

  「すげぇな。俺なんてゲームだけで一日使っちまうぜ」


  片桐が安達にちゃんと返す。前のあのgdgdな片桐はどこへやら……。いなくなってしまうと悲しいもんだな。どうでもいいけど。


  「あー、わかる。好きなことやると気づいたら一日経っちゃうんだよね」

 

  春野、お前じゃないんだよ……。というか言ったよね、片桐が安達を狙ってること。春野は優しいからどんな言葉でも拾おうとするけど、拾わない優しさもあるんだよ? 滑った時とか。

 

  「へぇ……、くっくっ」

 

  そんな俺の心の声など聞こえるはずもなく、ただ安達が笑いを噛み殺しながら、バンバンと春野の肩を叩いている。そんなに面白かった? これ。


  「ま、まあゲームは男子好きだよね。夏樹も一日中やってるし、尾道君も家来たらそんな感じでしょ?」

 

  「そうだな。夏樹はゲーム選びも上手いし、手に入れるのも早いからついにやりすぎちまう」

 

  最近は新作の格ゲーをやらしてもらっているが、これがキャラの攻撃法が独特すぎて超面白い。流石夏樹。だけどちょっと手加減してくれませんかね……?

 

  「え……? 夏樹って誰?」

 

  「ん? ああ、私の弟。弟妹多いんだよ、私」


  まあ、そうだな。子供だけで四人いるとは今時、珍しい。だけどあんまり春野が姉って感じしねぇな。


  「てことは家にね……へぇ……。……やるじゃん」

 

  なんか安達がぶつぶつ言ってるがよく聞こえん。というかこういうの多くね? 次から聞こえるようにしてほしい。

  だがこのままだと片桐が会話に入れんな。これじゃ何のために勉強会開いてるかわからないし話振るか。

 

  「お前ゲームっていって何すんの?」


  「あ? ああ、基本ゲーセンで格ゲーとかシューティングしてるな」

 

  お……おう。俺はすごいライトな感じで片桐の趣向を訊いたんだが意外にヘビーなのが返ってきた。

  俺も普通にその二つはするし、むしろ好きなんだがゲーセンでやるというのはなんか……ガチ勢だ。見た目も相まってめっちゃ強そうに見える。

  けど女子ウケは悪いよなあ……。まずゲーセンってのが、煙草臭そうなイメージあるし。最近はそんなこともないんだが、詳しくない人にはわからんよな。


  「ゲーセンでやってるんだあ。じゃあクレーンゲームとかも得意?」

 

  安達は無邪気に訊いてくる。おっ、意外に好反応。ていうかこの女子二人は基本、優しいんだよな……。こんなむさ苦しくてクズ系男子二人にもちゃんと反応してくれるし。

 

  「あー……、まあ得意だよ」


  絶対、嘘だ。格ゲーとクレーンゲームは全然違う。ゲーセンでゲームするからゲームが得意になるわけではなく、ゲーセンでしたゲームだけ圧倒的に上手くなる。つまりそこに因果関係はない。

  きっと今日から超練習するんだろうな。その光景を思い浮かべるとそれだけでほっこりする。


  「おー! じゃあ今度……」

 

  え、まさかこんなに上手くいくとは。片桐、ここは断るなよ。だがその続きはぷっつり切れ、安達は遠い目をしている。へ……どうしたの?


  「勉強しよ」

 

  その一言だけ言って安達はかりかりと勉強を始める。……まあ、ちょっと話しすぎたな。勉強会の目的は当然ながら、勉強をすること。

  だが不自然だよな。春野もポカンとしてるし、片桐に至っては魂が抜かれたようになっている。逆に言えばそこまでして隠したい何かがあるということだ。


  安達もこっちの身になってほしいよな。こんな反応を見せられると春野は友達として、片桐は思い人として心配する。こういう俺もちょっと……。

  なぜかはずっとわからなかった。どうして安達とは接点があまりないのにこうして共に勉強をしているのかを。

  星合夜空とちょっと似てるんだ。勉強も運動も出来て完璧。なのにわずかに悲しさを帯びてるところが。

  なら俺は――。

 

  助けなければならない。夜空に何もできずに逃げたのだ。もうここで逃げることなんて、出来ない。

勉強会ですか……。したことありませんね。勉強は尾道と同じように個人戦と思っているので。

でもこんな勉強会があるならリア充ぽくてイラつきますね。

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