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二章 第17話 安達すみれは頑張りすぎる

  『第一試合目、E組対A組の試合を始めます』

 

  先生のアナウンスがかかる。さっそくうちのクラス、E組の出番だ。

  うちの学校は一学年8クラスとなっているので、それを二つに分け、4クラスで総当たりの予選を行い、上位二チームが決勝トーナメント進出という形になる。

  当然のことながら進出ラインは2勝で、更に付け加えるなら一戦目に勝たないといきなり崖っぷちだ。そのためここは勝っておきたいところ。


  まずは第一クオーターに出場する女子が五人並ぶ。一クオーターは球技大会のルールでは五分。勢いづけという意味ではここで優位に立てば後が楽になる。

  先ほどの円陣で士気が上がったかと言われれば、はっきりとはわからない。だが足取りは先ほどよりしっかりしている気がする。

  だが確信が欲しいなと思っていると


  「よーし。勝つぞー!」


  安達の快活な声がする。周りもそれにつられたのか、少し雰囲気がよくなる。……いけるか?

  ぴぃーと笛が鳴る。どうやら見る限り安達がジャンプボールをするらしい。

  完全なる静寂。誰もが固唾を飲んで、この一瞬を焼き付けようとするのがよくわかる。その静寂を掻ききるようにボールが宙を舞う。

 

  「うお!」


  隣にいた片桐が声を上げる。いや、実際、俺も驚いた。声には出なかったが。

  安達は相手選手を全く寄せ付けない高さで、ボールを味方へ弾き飛ばした。


  「パス!」

 

  安達が地上に降りてすぐ言うとそこにパスが通る。ドリブルで敵を突破。一気にレイアップで点を決める。正に電光石火だった。

 

  「安達やばすぎね?」


  片桐になんとなく話を振るが、呆然として俺の言葉が聞こえた様子はない。代わりに春野が答えた。

 

  「そうだね……。中学でバレーの県選抜とは聞いたけど、バスケもできるとは……」


  こうして会話している間にも点がボコスコ入っていく。スコアはとっくに10点差がついていた。

  確かに見た感じA組の守備もザラで未だ安達にはマークが一人だ。だがそうしているのは安達が既にA組の心を折ってしまったからだろう。

  もうどうしようもない。その雰囲気が滲み出ていた。

  逆に熱狂していくのはこちらE組サイド。あまり高くなかった士気も徐々に上がっていくのが感じる。

  その中でむしろ熱が下がっていく人間がいる。無論、俺。と言いたいところだが、今回は俺だけじゃなかった。それは片桐でボソッと呟く。

 

  「まずいよな……」


  その通りだ。このまま行けば片桐がいいところは見せられない。自分より劣っている人間を見て、好きになったりしないだろう。

  それを考えると片桐は相当、頑張らなければいけない。まあ、これに関しては対策のしようがないこともないんだが。

  もう一つの懸念。それは体力面だ。ここまでパフォーマンスがいいと疲れが溜まる。それは戦いが後になるほどきつくなることを示していた。

  だがそうした懸念をしているうちに第一クオーターが終わる。安達がこちらに向かってくる。


  「いやー張り切っちゃたよ、はは、はあ……」


  「すみれ! すごいよ! 一人で14点取っちゃうしさー」

 

  安達は微笑を浮かべている。どうやら春野に褒められたことが嬉しいらしい。


  「もっと本当は取りたかったけどね! 20点くらい!」

 

  スコアボードを見ると18―4。安達のおかげでなにかすごいことが起きなければ勝ったも同然だろう。

 

  「安達さん、これ」

 

  片桐が安達に何か差し出すのが見える。どうやらタオルとドリンクらしい。

 

  「おっ、サンキュ。片桐くん、気ぃ利くねー」


  安達に褒められ、まんざらかと思ったが、全然そんなことはなく、珍しく真面目くさった顔をしていた。

 

  「どうしたんだよ、お前」


  「いや、別に……」

 

  小声で訊くと小声で返ってくる。どうやら単純な心配をしていたらしい。……ふーん。案外ちゃんとしてるじゃん。


  第二クオーターは互角だった。士気が上がったクラスメイトを止めるのは、意気消沈した人間には役目が重すぎたがA組もなんとか食らいつき、点を入れては点を入れ返す展開になっていた

  第三クオーター。安達が築いたリードのおかけでほとんど勝利は確実なのだが、ここで粘りを見せんとばかりにA組も食らいつく。流れを断ち切った方がいいと思った。


  「尾道くん」


  試合に行く春野が話しかけてくる。

 

  「なんだ?」

 

  「見ててね、私を」


  ニコッと笑いそう言う。思わず目線を逸らしてしまう。

 

  「……はよ、行け。始まるぞ」

 

  「うん、そうだね!」


  それだけ言って春野はスタスタとコートへ行く。くそ。なんであんな照れ隠しの言葉しか出ないんだ、俺。


  「そこーボール確保ー!」「前にパス送ってー」「相手来るよ! 下がって!」「まいちゃん、ナイス!」

 

  春野のよく通る声が体育館中に響く。ちらと見ると隣のコートの人間もこちらの試合を眺めている。そのくらい春野は目立っていた。

  だが同時にそのくらい春野の指示がよく通ってることを意味する。そのおかげで声から流れをこちらに戻すことができた。

  先ほど感じた春野の成長は間違ってなかった。それが今こうして活躍している。それは単純に凄いと思うし、確かな力を手に入れたのだなと思う。

  やがて第三クオーターが終わりとてとてと春野がこちらに戻ってくる。


  「見てた?」


  「ああ、見てた。やっぱお前は凄いよ。間違いない」


  今度は照れずに言えた。だけど春野は照れているのか体をくねくねとし


  「いやーそうかなーえへへ」

 

  「やっぱ前言撤回」

 

  「なんで!?」

 

  謙遜の欠片も感じない。これがヒーローインタビューならアンチからボロクソに言われるレベル。まずそのにやにや笑いやめろ。

 

  しかも春野はこうして褒めると思い上がる。だから褒めたくないのだ。褒め甲斐がない。

  俺は本当に凄いと思ったら褒めるし、それに抵抗もない。だがそれで「自分、やっぱ凄いっしょ?」みたいな顔されると何故か怒りが湧くのだ。

  褒められて謙遜するのは日本人の美徳だ。ぜひ、皆さん徹底してやってほしい。

  ここまで考えて褒められる人間が悪いんじゃなくて、褒める俺が性格が悪いことに気づく。褒めるの向いてねぇわ……。


  そして第四クオーター。俺はここ担当だが、何人かここに配備されているため休ませてもらうことにする。やっぱ休息は大事。休息しかしてないけどね!

  ということで片桐の試合を落ち着いて見ることにする。


  だがそれは結局、見るに値しなかった。

  確かに片桐はバスケがそこそこ得意というのは間違ってなかった。パスが来ればドリブルで突破、シュート。逆にディフェンスが激しい時は冷静にパス回し。

  全然、下手ではない。けれど凄く……地味だった。先ほどの安達のような勢いやスーパープレーなどなく、ただ基礎に徹している。それは見る人が見れば上手いのかもしれないが、かっこいいとは微塵も思わないだろう。

  そうこうしてる内に試合が終わる。スコアは51―24。うちの圧勝だった。

 

  「片桐……」

 

  戻ってくる片桐に声をかける。

 

  「大丈夫だ。俺も考えてやってる」

 

  その声は自信に満ち溢れて、特に不安は感じさせなかった。いや、感じさせないように片桐が言ったのかもしれない。だから俺は何も言えなくなる。ああ、とかそうだな、とか曖昧な相づちになったと思う。

 

  結果的にE組は危なげなく三連勝を飾った。安達の圧倒的バスケスキル、春野の指揮能力、片桐のいぶし銀的働きのおかげだと言っておこう。

  だが安達と春野はクラスメイトから評価を得ているのに対し、片桐はいいとこ共に試合をした男子だけだ。

  それでも共に試合したやつからそういう評価をもらうのはすごい。実際、俺も片桐のバスケセンスはコートに入ると、周りで見ている時より優れていると感じた。

  冷静にゲームメイクし決めるところでは決める。第四クオーターを支配していたのは片桐と言っても過言ではない。


  しかしこの凄さが周り、ましてやバスケに詳しくない女子にわかるだろうか? そう感じた。

  しかも片桐は試合を重ねるごとに静かになっていった。俺はそれを見て、大丈夫か、とは思っていない。その片桐の様子はまるで嵐の前の静けさのようで、いつか爆発してくれる。そう信じていた。

 

この作品は尾道くんの一人称視点なので、自動的に尾道の容貌はあまり詳しく書かれません。僕のイメージは顔は整ってるけど、そのせいで地味に見えるって感じです。なお本人は中の上(上の下寄りの)と思ってるようです。

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