二章 第16話 環春野は意外に凄い
学校行事で一番、エネルギーを消費するのは学校祭で間違いない。だが成功すれば感動も一潮だろう。まあ、俺はよくわからんが。
だからこそ疲れも全て吹っ飛ぶ。いや、厳密に言うなら疲れても、楽しみでそれを忘れられる。学校祭はエネルギー消費も激しいが、それに見合った成果は手に入る。よく知らんが。
じゃあ一番、エネルギーを無駄にする行事は何か? 断言する。それは球技大会だ。ちなみに二番目は在校生の時の卒業式だ。あれはまじで無益すぎる。
だがそれ以上に球技大会が労力を無駄にするにはある理由がある。それは勝利することのメリットの無さと敗北することのデメリットの多さだ。
勝利をしても手に入るのはせいぜい手作り感満載の表彰状と一日分の話のネタ程度だ。友情? 何それ? おいしいの?
敗北するとまず人間関係がギスギスする。人は敗北して初めて反省する生き物であり、失敗の要因を他人に求める生き物だ。
この相乗効果は最悪すぎる。負ければ負けるほど他人の粗を探す。これが試合に関する戦略とかフットワークならまだしも人の性格の粗探しになるともうどうしようもない。
例えばパスせず自分勝手だとか、なんであからさまに手抜くんだよ、ナルシストがとか、そこでつっ立てんじゃねぇよ、ノロマとか、もうこうなると球技大会が悪口合戦になる。
しかも球技大会は待ち時間も多いためそういうことがしやすいのだ。球技大会の抜本的な対策が必要だと心の底から思う。ホント球技大会のせいで俺がどんだけ心を痛めたか……。
だがまだ球技大会にはそう関係性をギスギスさせないためのある対策がある。
それはいい感じに本気にならないことだ。感覚で言うなら60%くらい本気。この対策をすることで勝利は全て幸運を感じることができ、敗北は「まだ俺たち本気出してねぇし」みたいに緩衝材にも使える。
一つ注意点を挙げるなら手を抜きすぎると「なんで本気でやってないんだよ」と思われることだが60%なら言いにくいだろう。
つまりこの対策は完璧。もう誰にも止められないぜ! そう思い、周りを見ると皆、「だりぃ」とか「めんどい」とか言っている。
どうやらこのクラスでは微妙手抜き作戦を使う者が多いらしい。これなら俺が使ってても文句はないだろう。
さてどうやって帰ろうか計算していると後ろから肩を叩かれる。というか肩をおされてマウントとられかける。
「いてぇ……」
「今日は球技大会だな。腕が鳴るぜ! オラ!」
片桐景介は拳を振り上げながら言う。そのまま遺言言って天に召されねぇかな……。
「ああ……そうだな」
本当ならさっき思ったことを言いたかったが、小指を詰められそうなのでやめた。
というのもこいつが今日は安達すみれにいいところ見せたいがために張り切っているのだ。
一ヶ月前、ファストフード店で片桐の、まあ、知ってたけど安達さんが好きだというカミングアウトを受けた。そこから何回かメールで安達を落とすための作戦を立てた。
といっても球技大会でいいところ見せるだけなんだが……。それでも片桐はなぜか感嘆してた。これは恋するから扱いやすいのか、馬鹿だから扱いやすいのかわからない。
今回の競技はバスケ。これについては片桐はそこそこ得意らしい。もともと柔道で初段取ってるのだから運動は全般いけるというのは片桐の言だ。それを信じることにした。
まあ、バスケ選択に関しては俺が副委員長という立場を利用し、ちょっと操作したところもあるが……。
春野に片桐の事情を言うと、オッケーしてくれたので、クラスメイトには許してほしいとは思う。あと一クラスだけじゃバスケには決まらないしな。
チームは男女混合でバスケなら第一、第三クオーターで女子、第二、第四クオーターで男子が出場することになっている。
ちなみに俺と片桐は第四クオーターで春野は第三、安達は第一である。どうでもいいか。どうでもいいよな。
「や! 二人とも調子いい?」
前方から来た春野が元気よく声をかける。いつも元気であるのだが今日は一際、元気というか騒がしい。
「調子はいいがダルい」
「なんでそんなこと言うかなー……。頑張ろうよ」
って言われてもなあ……。周りを見るとやる気ないやつばっかりだ。これはほぼ全員60%で球技大会に挑むパターンだと思う。となると
「でもこのままだとまずいよね……。片桐くんにとっても……」
それは春野に同意だ。片桐がいいところ見せるのと勝利は別のように見えて別ではない。
チームが勝っていけばそれにより注目度も上がる。そうなれば安達も集中して試合の展開を見守るだろう。それに加え、大舞台で活躍した方がかっこよく見えるもんだ。
だからこそ勝たなければいけない。だがこれだと……負けるな、ほとんど確定的に。
「まあ、そんなに気負わなくていいよ。私がどうにかするから」
どうやら俺の心中が漏れでてしまったのか、春野がフォロー的なことをしてさっさとどこかへ行ってしまう。……なんだあいつ。
「ふぅ。やばい。すげぇ緊張してきた。やばい」
まず語彙力がやばい。だがこうなるのも仕方ないと思う。恋なんて俺はどんなもんか知らんが、少なくとも自分の想いをカミングアウトするのだ。こんなに恥ずかしいことはないだろう。
「あんま緊張しすぎるなよ。緊張すると体が動かんし、まず緊張してる姿はダサい」
「お前なかなか酷いんだな……」
そうさ。俺はそれなりに酷くてクズみたいな人間だ。だから俺は同情なんてしない。ましてや何も解決に導かない無意味な同情なんて絶対にする気がない。
俺は俺が正しいと思ったことをやるだけだ。
その時、先生の号令がかかる。どうやらそろそろ球技大会の開会式が始まるらしい。
開会式を見る限り、とにかくうるさかった。これは球技大会に対するやる気の無さがまじまじとわかる。一見、関係ないことでも実際はそれの影響は果てしないのだ。
俺ももうこれは敗戦ムードだなと思った。これは片桐には悪いが、いいところ見せるのはできなさそうだ。
次の計画を立てるかと思い始めたところに春野にしては珍しい鋭い声がかかる。
「円陣しよっー!」
それに思わず振り返った人は俺だけじゃないだろう。なんならクラスの人以外も春野の方を見てた。
そのおかげなのかまとまりのなかったクラスメイトがめいめいに集まってくる。それを率先して円陣の形にしようとするのはやっぱり春野だった。
ここで輪を崩すのも悪いと思い、円陣の輪に加わる。片桐と肩を組もうとすると、そこに割り込んでくる人影がある。
「おはよ~。危ない危ない。遅刻しちゃったよ」
その人影は安達すみれだった。ていうか危ないとか言ってるけど、遅刻してるからセーフじゃなくてアウトだろ。
そう言いながら安達は肩を組むが、これは片桐まずいんじゃないかとそちらを見ると案の定、フリーズしてた。こいつはお膳立てされた場に弱すぎだろ……。
「あっ、春野ちゃんこっちこっちー」
安達は指示を出していた春野に声をかけ、俺の方におびき寄せる。こっちじゃなくて片桐の方にしろよ。安達との密着は片桐にはハードルが高すぎる。ピュアピュアだから。
春野がおとなしく肩を組む。まあ、こうなってしまったら何かいうのもなんだと思い、仕方なく肩を組む。
だが気まずい。先ほどまで気丈に振る舞って、指示を出していた春野が黙りこんでいる。安達め……。このままいるのもちょっと気分が悪く、思っていたことを口に出してしまう。
「お前って凄いのな」
「えっ、いや、そんなことないよ……」
また春野は黙りこむ。しかも顔も赤くなっている。恥ずかしいのはこっちだ。思わず口に出してしまったのが、褒める言葉ってもうなんか……気持ち悪い。
だがそう思ってしまったのだから仕方ない。秋では自分に自信がなく、ただ人に優しくするだけだった。
確かに優しいことは優しくないことよりよっぽどましでそれは春野の優れたところだと思っていた。
しかし優しさはあったとしてもそれが中々、周りの評価に繋がらなかった。だからクラスが上手くまとめられないことに胸を痛めたのだ。
じゃあ今は――。春野の一声でこうして円陣を組んでいる。これは十分、春野がまとめることが上手くなり成長したと言えるのではないだろうか。
それに俺は心底、凄いと思ってしまったのだ。口に出てしまったのは恥ずかしいが。
「春野ちゃん?」
安達の声で我にかえるが、呼んだのは俺ではなく春野。しかし春野はその声に反応することはない。誰がこの円陣の声かけすんだよ……。
「まったく、仕方ないなあ~。じゃああたしが声かけるよー!」
安達は春野に軽くため息をついたあと、ころっと表情を変え、皆に宣言する。
「優勝目指してー頑張るぞー! おー!」
皆もその声に続き、口々にやる気が出そうな言葉を出す。
それで勝てるとは思わない。が前より雰囲気が良くなったのは確かだ。
春野と片桐によかったなと心の中で思い、ちらと見る。
そこには真っ赤なオブジェが二体いた。はあ……。不安になってきた……。
この作品は尾道の成長が主題なので、そのためにはイベントがあった方がいい! と思ってましたが、シーズン的に学校祭ができないのかつらい。なんで秋からスタートしたんだろ……。




