二章 第15話 彼女達は乱入する
騒がしいファストフード店。そこから浮き島の様に位置し、静寂を保っている席がある。自分たちの席である。
普通ならがやがやと騒ぐはずの男女四人のグループが黙々とハンバーガーを食べる姿はかなり異様だろう。だがこれも仕方ない……のかな?
まず俺の隣にいる片桐は思い人の安達さんがいるせいで余計なことを言えない。そもそも緊張しているし。
目の前にいる春野はさっきからドリンクをごもごも言わせ、一向に喋る気配がない。……ていうかこいつも緊張してるっぽい。なんで?
俺の対角線上にいる安達すみれはこういう静寂が苦手なタイプではないらしくこの状況などどこ吹く風、普通に目の前の食事にありついている。
俺はというと別に静寂が苦手でもないし、どちらかといえばぼっち訓練で慣れているし、そもそも俺から話しかけたりしない。つまりここで俺が率先して何かをする理由は存在しない。
そんなことを考えていたら三分の一、残っていたハンバーガーも食べ終わってしまった。やっちまった。ここで何もすることがないのは辛い。
「……ねぇ、何でこんな静かなの? 今、チャンスじゃん」
俺が困っているとやっと安達は口を開く。ていうか安達すごすぎね? この状況打破できるの空気読めないやつ程度だと思ってたのに。
しかしそれに反応しようとするやつはいない。片桐は何故か呆然とし、動かない。春野はドリンクで蒸せたようでごふっとか言ってる。地獄だ……。
仕方ないので俺が反応してやることにする。
「何がチャンスなんだよ。この空気感でよく言えたな」
「そ、そうだよ! すみれ! チャ、チャンスって何!?」
「春野ちゃん、慌てすぎ。言葉の綾? に決まってるじゃん」
ふぅとため息をつく。実は内心、俺も焦っていた。チャンスとか言うから、片桐に言ってるのかと思ったのだ。もしそうならさっきの話は聞こえていた訳で……。非常にまずかった。
だが安達が意味不明なことを言ったため、心理的ハードルが下がったのか張り詰めていた空気感が弛緩する。
これなら片桐も何か言えるかと思い、隣を見るが完全にフリーズしてた。もうこいつダメだな……。
だが春野は何か言いやすくなったのか話を振ってくる。
「そういえば尾道くんと片桐くん、球技大会について話してたけど何かあったの?」
げほっげほっと隣から咳き込む音が聞こえる。こいつよくこれで今まで隠し通せてたな……。
「ん? ああ。俺、不登校だったから三学期、何するかわかんなかったから訊いてたんだよ」
そこそこ上手くフォロー出来たんじゃないだろうか。春野も安達も不自然に感じている様子はない。
一つ不自然な点を挙げるとすれば俺は学校行事に興味があるはずがないという所なのだが、まあ、わかるわけないだろう。わかるのはせいぜい母くらいだ。
「球技大会かあ~。優勝したいね~」
安達がユルい感じで言う。本当に優勝する気ある?
「クラスの団結力見せたいよね!」
春野は両手をぐっと握る。まあ、こいつはクラスを活性化させたいって言ってるし、その成果を上げやすい学校行事というのは春野にとって腕が鳴るのだろう。
「そういや、球技大会って何すんの?」
俺が何気なしに訊くと女子二人はどちらも首をひねる。仲いいなとか思うが、何か言うこと間違えたのかと思い焦る。
「片桐くんに訊いたんじゃなくて?」
「聞き始めたらお前らが来たんだよ」
これまた即興で上手く返す。俺、なんか嘘つくことに関しては天武の才があるみてぇだな。
そういや片桐はどうしたと思いながら横を見るが、なんなへらへら笑いながらフリーズしてる。気持ち悪いし、なんかもう駄目だ。
「なるほどね。じゃあちょっと説明してあげようかな」
春野は今にもふふんと言いそうな感じで胸を張り、自信満々なのが見てとれる。
「ええっとまず球技大会は球技を主として……」
「大丈夫だ、それはわかる」
そこから説明だと球技大会の発祥とか系譜とか聞かされてしまう。逆に興味が湧いてきたが、今はどうでもいい。
「あっ、そうだね……」
「ふふっ、春野ちゃんは説明が下手だねー」
「べ、別にいいじゃん。茶化さなくても……。まあ、いいや。とにかく球技大会は男女混合でチーム作って球技するの! はい、終わり!」
下手だ……。これは安達に全面的に同意だ。ていうか重要なことを言っていないのでそれを指摘する。
「で、競技は?」
これがメインだ。さすがに忘れてないだろうと思うが、春野はポカンとした顔になる。まさか……。
「春野ちゃん、まさか……」
「い、いや忘れてないよ! まだ決めてないだけで……」
決めてない? その言葉の意味がわからないので訊いてみる。
「決めてないっていうのは?」
「クラスで決めないといけないの」
やっぱり説明下手だわ。ちゃんと後から説明はしてくれるんだが、初見だとなんでこんなことわからないのみたいな感じで説明をはしょってくる。
「わかりづれぇ……。もっと詳しく」
「あ、うん。クラスで多数決とって、多かったやつを学年の会議で提案してそこでもっかい多数決とるって感じ」
これでも理解は半分だが言いたいのはわかる。つまり代表を決めてその代表で会議する民主主義の議会みたいなもんだろ。やべぇ、俺の説明も大概だな。
「なるほどね~。それで競技の候補は出てるの?」
「……」
訪れる沈黙。またか……。この三人集れば文殊の知恵とか言うが、四人集まると静寂が支配するらしい。片桐はずっと静かだが。
やがて小さな声で弁解する声で聞こえる。
「いや、今日尾道くんに連絡しようと思ったの……」
「ああ、そう……」
なんか空気が気まずい。おかしい。連絡するくらいでこんな感情になるのは俺がおかしいに決まっている。
「えっ、春野ちゃんって尾道ちゃんの連絡先知ってるの?」
「私は知らないけど弟が……」
「弟……弟公認?」
何やら安達がぶつぶつと呟くが、意味がわからない。公認? 公認って何?
安達はそんな俺を完全においてけぼりにして話を進める。ちなみに片桐は始めからおいてけぼりだ。
「ていうか春野ちゃんと尾道ちゃんは中学でクラス同じなのに連絡先知らないの?」
「知らないなあ……」
「知ってても連絡しないんだから必要ない」
そもそも春野とは友達じゃねぇし。しいて言うならよく知ってる知り合い、もしくは後輩の姉くらいしか思っていない。
「淡白だなあ……。それなら今、交換しちゃおうよ。私も連絡先知りたいし」
「えー……」
一応、不満そうな声を出すが、掻き消されるだろうと思う。だが掻き消した相手は意外だった。
「いいっすね! おい!」
片桐がガタッと立ち上がり大声を出す。
「いや、お前、急に……」
一瞬、他の客に突っ掛けたのかと思った。そのくらい凄みがあったが、すぐに安達に言ったのだと気づく。
さすがに安達もこれには引くんじゃないかと思ったが、安達はニコニコ顔で自分のスマホを取り出している。……おい、すげぇな。これで嫌な顔、一つ見せないとか聖人かよ。好きになっちゃいそうだわ。
「じゃあ片桐くんも交換しよっか~」
安達が軽くそう言う。まじリスペクトだわ……。
それからは連絡先交換タイムみたいになる。春野は俺の連絡先を交換すると、とても嬉しそうに笑ってスマホを胸を抱える。
片桐はと思い、隣を見ると安達の連絡先が手に入ったのが本当に嬉しいのか恍惚そうな表情だ。瞼には涙が滲んでる。こいつ、大丈夫? 天に召されるんじゃね?
「そういやお前の連絡先知らねぇな」
と俺に話しかけてくる。
「いや、俺は別に……」
正直、いらねぇ……。お前も安達の連絡先手に入っただけで十分だろ? 俺のやつまで聞こうとすんじゃねぇと思うが
「遠慮するなって。ほら空メール送るからアドレス見せろ、コラ」
このままだと力ずくでスマホを奪われそうなので、渋々アドレスを教えると、ピロリンと俺のスマホが鳴る。空メールが来たみたいだ。
まあ一応、登録しておくかと思いメールを開く。
『なんでおめぇだけちゃん付けなんだよ、殺すぞ、ボケ』
どうやら脅迫メールを開いてしまったようだ。いやー、アドレスどこから漏れたんだろ。情報社会って怖いね。
さて片桐のメールはと思い、探すがどこにも見当たらない。ていうかこの脅迫メール以外メールがほとんどない。どうなってんの? メール勝手に消された?
だがなんてことはない。片桐からのメールだった。恐る恐る隣を見ると片桐が中ゆ……じゃなくて人差し指をくいくいとさせていた。これはまさか表に出ろのサインでは……。
殺されるという恐怖心を抱きながらなんとか回避しようと話を振る。
「で競技は何にすんだ? もう案だしちまおうぜ!」
「え、帰ってからでいいじゃん」
会話終了。なんだこの感じ知ってるぞ……。その意趣返しか? ていうか安達がめっちゃにやにやしてるんだけど……。すげえ居心地悪い。
まあ、たまにはこういうのも悪くないか……。今はそう思う。高校なんて糞でどうしようもないものだと思っていたが、住めば都と言うとおり案外悪くない。
「そうだ! このメンバーでまたどっか行こうよ!」
春野の元気な声が響く。……やっぱ前言撤回。高校なんて糞でどうしようもなくて唾棄すべきものだ。まじで俺の家という都を侵略するのはやめてくれ……。
初めてサブタイトルが「彼女達」と複数になりました。自分は変なところで潔癖なので、いつもの法則からズレるのはあんまり気持ちいい感じがしません。でも案外、このサブタイも気に入ってたりして。




