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二章 第14話 片桐景介は相談する

  おしゃべりに興じる学生たち。店員の空回りした元気な挨拶。鳴り響くレジの電子音。俺はこれほど最悪な環境を他にしらない。

  俺は片桐景介に連れられファストフード店にやってきていた。何やら相談をしたいとか言っていたが、正直どうでもいい。しかも知り合いに聞かれないよう高校最寄りの場所ではなく、あえて遠い所を選んだ。人の帰宅、邪魔するの得意すぎるだろ……

  ていうか三日連続で放課後予定入ってるとかもうこれリア充だろ。まあ、説教、会議、連行と最悪なメドレーではあるのだが。


  「よっしゃ、そこ座るぞ」

 

  オーダーを終わらせ、商品を受けとると片桐は顎をくいっとさせて、場所を指定する。

 

  「はあ」

 

  返事ともため息ともつかない声が漏れでる。何が嬉しくてヤンキー風情と二人きりでハンバーガーショップにいるんだよ……。それでも仕方なく席に座る。


  「ほらよ」

 

  そう言って片桐は財布から650円を取り出し、俺に渡してくる。

 

  「なんだよ、これ」

 

  「いやー今日は相談聞いてもらうから、相談料的な? まあとにかく奢るよ」

 

  ……なんでこんな時だけいいやつなんだよ。というかこいつ暴言吐きまくるのに、なんで肝心な所で優しさ出してくるの? この緩急にやられちまうぜ。

 

  「いや、別にいいぞ。どうせ650円程度だし」

 

  「いいから受けとれって、コラ」

 

  出た、こいつの急。破壊力抜群で緩の後にこれを出されたら対応できねぇ。プロ狙えるレベルだろ、これ。

  こんなことで問題を起こすなんて馬鹿馬鹿しいと思い、ありがたくハンバーガー代を頂く。相談に真面目に答えるつもりはないから実質、タダ飯だけがメリットだな。

  それにしてもこいつに悩みがあるとは驚きだ。人間なら悩みの一つ二つあっても当然なのだが、片桐のようなタイプの人間は悩むくらいなら行動しろ主義だと思っていたので相談を受けること自体、異常だと思った。


  しばらく黙々とハンバーガーを食べる。用があるのはそもそも片桐だけなので、俺から話を振ることはない。だから待っているのだが、こいつはこいつで何か迷っているんだろう。

  まあ、静寂は得意だ。いつも教室ではそうだし、カフェ「三ツ星」でも無駄口を叩けば、夜空に粛清されたので問題ない。


  「あのな、相談なんだが……」

 

  だいたいハンバーガーを三分の二ほど食べたくらいにやっと片桐が口を開く。だが中々、次の言葉が出ないようだ。ふぅと軽く息を吐いてやっと意を決したように


  「その……俺、安達さんのことが好きなんだよ」


  「で?」

 

  片桐の告白に俺は間髪入れずに返す。なるほどこれは恋愛系の相談かと一人納得していると、片桐は驚いたような顔をする。

 

  「は? 何だよ、その反応。俺、大分勇気出したんだが……」


  「いや、バレバレだから」


  本当にバレバレだった。登校初日で気づいてたぞ。だが片桐は明らかに不機嫌な顔になる。


  「どういうことだ? あ? なんでそんなのがわかるんだよ」


  どうやら恋は盲目という言葉は本当らしい。ここまで盲目だと滑稽ですらある。しかし怖い。

 

「だからバレバレすぎるんだよ、反応が。あと顔にも出てるぞ」

 

  すると片桐は頭を抱え呻きながら俺に尋ねる。

  「くそう。それ大丈夫か? まさか俺の気持ちがバレたり……。くそっ、くそっ」


  くそを連呼しまくる片桐。トイレ行ってこい。

 

  「まあ、大丈夫なんじゃねぇの? 安達、そういうの興味なさそうだし」

 

  まあ、嘘だけど。逆に興味ありまくりだろ。JKだし。でも安達は他人の恋愛な興味があるって感じだから自身の恋愛は興味がないかもしれない。

  片桐は突如、笑顔になり俺の肩を掴む。

 

「そうかそうか。それなら良かった! 全く驚かすんじゃねぇよ、コラ!」

 

  怖すぎる。これほとんど恐喝だろ。周りが見てるし、やめてほしい。というか周りの人、通報してくれないかな……。ここにヤンキー風情に恐喝される小鹿みたいないたいけな少年がいると。


  「それで相談なんだが……」


  えぇ……。この流れで相談? もうやる気もヒットポイントも0なんですけど……。こいつは絶対、交渉とか苦手なタイプだ。まず後先考えようぜ……。

  色々言いたいことはあるが、その感情をぐっと抑える。これは食事代送ってもらった対価だ。我慢しろ、俺。


  「俺が安達さんに好感持たれるように立ち回ってくれね?」


  素早く財布から650円を取り出し、片桐の方へ滑らす。

  片桐は目を丸くしていたが、やっと意味がわかったらしく口を開く。

  「……なんだよ」

 

  「悪いな、こういうのは無理だ。相談には乗れねぇ」


  まず相談っていうのが俺の柄に合わないのにそれでいて恋愛。これは無理ゲーすぎる。食事代は返した方が賢明に決まっている。


  「男に二言はねぇぞ、コラ」

 

「そもそも相談受けるなんて言ってないけどな……」

 

  一応、反論するが無意味だった。片桐は俺をずっと睨んでいる。いや、睨んでないのかもしれないが、目付きが鋭くて少なくともそう見えてしまう。

 

  「とりあえずその金は受け取らねぇ」

 

  「わかったよ。手伝えばいいんだろ。その片思いを邪魔するのを」

 

  「てめぇ……!」

 

  普通にジョークのつもりだったんだが俺の反応が気に入らないのか机を叩きながら立ち上がる。やべぇ! 殺される!

  殺されるのは嫌なので慌てて弁解する。

 

  「い、いや、俺、恋とかわかんねぇし。応援しようとしても却って邪魔になるってことだよ」


  「ああ、そういうことかよ……」

 

  そう言うと怒りも収まったらしくゆっくりと座り直す。ふぅ、人生で最大の危機を乗り切ったぜ……。

  俺が謎の達成感を覚えていると、片桐は急にしおらしくなり表情も暗くなる。感情の起伏激しすぎるだろと思っていたが、片桐はがばっと頭を下げる。


  「悪い。これだけは一生に一度の頼みなんだ。お前には上手く立ち回ってほしい」


  「え、いや、まあ」


  「大丈夫だ。俺も全くチキンな訳でもない。最後に告るくらいは自分で覚悟決めてやるよ」

 

  その言葉には重みがあった。戸惑った言葉しか吐けない自分が情けなく思うほどに。


  「……はあ。わかったよ。困ったらちょっと助けることくらいはしてやるよ……」

 

  片桐の覚悟を決めた言葉の割に俺の言葉はふわふわとしている。そう感じた。だが仕方のないことである。無闇に期待させて失敗するのは嫌なんだ。

  しかし俺も覚悟には俺なりの覚悟は返したつもりだ。さあ、これに片桐は満足してくれるか……?

  すると手を差し出し、俺の手を握ってくる。満面の笑みで片桐は言う。


  「ありがとう。本当に助かるよ」


  まじでギャップがやばすぎる。ギャップ萌えとか言う言葉もあるし、ナチュラルなギャップで安達さん落とせるんじゃね? とも思う。

  それに加え、俺ってあんまお礼言われたことないなとふと思う。

 

  「それで何か計画はあるのか? 安達を落とす」

 

  俺は照れ隠しも込めてそう水を向ける。

  片桐が拳に力をぐっと込めるのがわかる。どうやら何か算段があるなと思い、期待するが出てきた言葉は単純明快。

 

  「かっこいいところを見せる!」

 

  はあ……。思わずため息が漏れると同時に頭も抱える。かっこいいところを女子に見せるのはモテるための条件であるのは間違いないが、俺は方法を訊いたのであって条件を訊いてはいない。


  「そういうことじゃねぇよ。安達の気を引くための作戦はどうするかってのを訊いてんだよ」

 

  「あーそういうことね」

 

  腕を組んでうーんとかえーととか言ってる。本当にわかってるのか不安になる返答だなあ……。

  少し待っていたが、どうも答えが出ないので俺の方から話を振ることにする。

 

  「お前、得意なことってなんなの?」

 

  正直、そんなことも知らないのはアレかもしれないが、出会って三日だし、なんか片桐ってすげぇどうでもいいから仕方ないことだ。

  まず得意なことを全面に出すことからモテるのは始まる。それが言ってみれば「かっこいいところを見せる」に繋がる訳だ。だから得意なことがあれば、後はそれを上手く見せられる場面をお膳立てすればいいだけだ。

 

  片桐は思い当たる節でもあるのか、腕組みまくりしてその筋肉を俺に見せつけてくれる。……意味わからないんですけど。

 

  「柔道で初段持ってるぜ!」

 

  「却下。他には?」

 

  「はああああああああああああ!?」

 

  凄みを出して俺に反論する。それに気圧されるが、ここで引いてはこいつのためにならない。

 

  「柔道に命懸けてる人には悪いが、柔道はモテない」


  「いや、強いとモテるのは当然だろ? おい」


  素朴な疑問だ。こう思うのももっともなのだが、だからこそ落とし穴がある。

 

  「じゃあお前はオラウータンがサッカー部に入ってでオーバーヘッドキックしたらモテると思うか? あいつ強いし、オーバーヘッドキックなんてしたらすげえけどモテるはずねぇだろ」


  「まあ、そうだな……」


  やっと一歩引いてくれた。ここが押し時だろう。

 

  「だろ? 論理展開がそもそも間違ってんだよ。サッカー部だからモテるんじゃなくて、モテるからサッカー部入るんだよ」

 

  ふっ、また一つ世の理を教えてしまった。現実にうちひしがれたのか頭を下げ沈黙している。

 

  「はあ……。俺の価値ってどこにあるんだ……。くそっ」

 

  なんか可哀想になってきた。フォローしてやるか……。

 

  「でも柔道初段なら運動はそこそこ出来るだろ?」


  「ああ、まあな」

 

  運動能力を活かせる場といえば……。


  「体育祭か……」

 

  だが外を見ると冷たい風が吹きわたり、雪も少し降っている。体育祭の季節じゃないのは一目瞭然だな。


  「そういや、球技大会が今度あったな」


  片桐の何気ない一言だった。

 

  「それだ!」


  柄にもなくはしゃいでしまう。これなら能力を出し切れるという行事を見つけ興奮してしまう。


  「よし片桐、球技大会を中心に作戦たてるぞ」

 

  「お……おう!」


  安達を振り向かせるのはほとんど不可能、ていうか絶望的とまで思っていたが、これならギリ土俵に上がれる。勝率で言うなら0%が5%くらいになった。未だ低いけどな……。

 

  光明が見えてきたと思っていた所になにやら聞き覚えのある声がかかる。


  「ん? 球技大会? どしたどした~?」

 

  その声に俺は固まる。目の前を見ると片桐も固まっている。こ……この声は……。だが俺の方が早く金縛りが解けて反応できた。

 

  「な……なんだ安達?」

 

  やっとのことで振り向きながらそう言うとそこには安達すみれと環春野がいた。


  「いや~珍しく二人でいたからね~。気になっちゃて♪」


  そう言って安達はちろりと舌を出す。片桐はその仕草にみとれていたがそれどころじゃない。

  いきなりラスボスのクライマックスだ。しかもこの話を聞かれてる可能性だってある訳で……。ホント無理ゲーだわ……。

前のあとがき何書いたか覚えてないくらい体が辛かった……。まじ覚えてない……。

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