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夢屋  作者: 尚人
3/7

都合のいい世界

 

 第2話 都合のいい世界



 どんと肩をぶつけた少年が怒った。


「道を歩く時は俺を避けて通れ。まあ次は無いけどな。」


 そう言うと苅野終夜かりのしゅうやは肩をぶつけた相手を消し、笑った。


「最高だよ、いい世の中になった。は〜ははは。」


 彼がこの世界を望んだのは、唯ウザイという感情の為だけだった。目に映るあいつがウザイ。俺に声を掛けるあいつがウザイ。同じ時を生きるすべての者がウザイ・・・。


「あなたの夢叶えましょうか?」


 始めはウザかった。その男は終夜に望みの世界を与えた。終夜は初めにその男を消した。次に家族、同級生と次々に気に食わない奴を消していった。彼が通るいつもの商店街は活気が無く、其処通る者は既にいない。

 終夜はいつもの川沿いの土手へと急いだ。そこでその男は煙草を吹かしながら其処に座っていた。


「明、今日こそてめーをぶっ殺す。」


 その男は又かとゆっくり振り向き、煙草の火を消した。彼はいろんな人間を消してきたが、彼だけは未だに消していなかった。彼は終夜の認める唯一人の人間であろう。

 結果は僅かな差で終夜は何時も負けていた。彼は悔しさの隣では次第に別の感情が芽生え始めていた。

 気を失ってどれ位の時間がたっただろうか、地平線の向こうに夕日が沈みかかっていた。


「なあ。お前さ、そんなに強いのにウザイ奴とかいないの?あの分けの分からん部の奴らとかどうなんだよ。俺が消してやろうか?」


 その男は笑いながら煙草に火をつけ、芝生に寝転ぶ終夜を見ながら。


「俺も昔はお前みたいに周りの奴が気に食わなかったよ。今でも俺はそう思うことがあるくらいだ、でもな俺は出合っちまったからな。夢ばっかり見てるあいつはオタクだし、もう一人は何考えてるか分からん奴でな。でもそいつの入れるコーヒーはうまいんだ。」


 ふ〜んと鼻を鳴らした終夜は、話し込む男の話に耳を傾けた。


「俺は今でも何であんな所にいるのか良く分からないけど、あいつ等に言われたからな、お前の見ている世界はもっと立派なもんだって。まぁ何が良くて悪いのかなんてわかんないけど、俺はそれ以来変わったんだよね。」


「分け分かんねーよ。」


 そっぽを向く終夜に明は柄じゃねぇーなと小さく呟いた。


「お前は毎日毎日あの夕日みたいに同じ事を繰り返してる。お前は俺に勝ったらどうするんだよ。ま、負けないけどな。」

 

「別にその後の事なんか考えてね〜よ。お前をぶっ飛ばした後の事なんか。」

 

「つまらない奴だな。」


「じゃあお前はなんで毎日此処に来るんだよ。」


「此処はな、俺の唯一の居場所だったからな。でも今はあの夕日見たさで来るんだよ。お前とも喧嘩できるしな。」

 

 何だよそりゃと終夜が笑うとつられるように明も声を出して笑った。


「じゃ俺、帰るから。」

 

 明が帰って行った。残された終夜は地平線の向こうに半分以上沈んでしまった夕日を眺めていた。


「どうです。夢は叶いましたか?」


 あの男だった。終夜はふんと笑って答える。


「叶ってね〜よ。お前も出てきたしな。でも、マシだなあの時よりは明にも会ったしな・・・。で、俺はどうなるんだ?お前に殺されて終わりか?」


 男は笑って答える。


「まさか。唯、何か不満が無いかを問いかけに来ただけですよ。すぐに消えますよ。そうしたら又あなたの世界です。」


「不満ね・・・。じゃあ俺が消した奴らを元に戻してくれよ。」


「あなたの世界じゃ無くなってしまいますよ?」


「ああいいよ。俺はもう欲しい物が分かったからな。出来るのか?」


「出来ますよ。その代わり私の言う事にしたがってもらいますが?」


 終夜は男の顔を見た。


「では、あなたが初めいらないと言って受け取らなかった物を受け取って下さい。あなたの居場所を・・・。」


 沈む夕日を眺めながら、終夜はうなずいた。小さくありがとなとその男に言った。ふふと男は笑顔を見せた。


「では、良い夢を・・・。」


 夕日が沈み、街灯に光が灯った。

ここに出てきた明は、七不思議部の明です。同じ世界感を持って見てみてください。

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