二人を一つに
簡単な作品になってしまいましたが、その中にある深みを見つけてください。
第1話 二人を一つに
有紀 命は姉、有紀 瞳とは二卵性の双子の姉妹である。瞳は妹、命に比べ成績も良く彼女は妹の命より常に上にいる存在であった。第三者はそんな彼女達を常に比べていた。当然親も例外ではない、それ故に彼女は次第に姉を嫉むようになっていった。
飼い猫を追いかけて命は路地裏に入って行った。猫のクロはそんな命などお構い無しに闇の中へと消えて行ってしまった。彼女が諦め、振り返った時だった。今まであったのが気がつかなかったのか、古ぼけた建物が人目を拒み建っていた。
「夢屋?こんな所にお店?」
まるで見えない何かに引っ張られるように彼女はその店の中へと入って行った。カランカラン、ドアに付いた鐘が揺れ動く。店の中は狭くアンティークの並んだケースの置くにひっそりとカウンターがあるだけだった。目の前のアンティークドールに見惚れていると置くから声がした。
「いらっしゃい。」
振り返るといつの間にかカウンターに自分と同い年くらいの少年がそこに座っていた。
「で、ここへはどんな夢をお求めに?」
勧められるままに彼の目の前に座り、命は彼に問い返した。
「あの〜ここってどんなお店なんですか?夢屋って?」
えっとびっくりした顔をした彼は突然、笑い出した。
「あなたには夢があるでしょう。絶対に叶えられない夢が、それを私が叶えるそんな店なんですよ。」
「私、そんなものはありません。お邪魔しました。」
そう言うと彼女は椅子から立ち上がり、出口の方へと歩き始めた。
「お姉さんが羨ましいんでしょ?自分と姉を比べられるのが嫌なんでしょ?」
命の足が止まった。彼女は振り返り言った。
「本当に何でも叶えてくれるの・・・。」
はいっと彼が答えた。
「私、いつも姉と比べられて来たの、瞳は勉強だって運動だって私よりできる。だから私はいつも瞳になりたかった・・・。」
「叶えますよ。あなたは唯願うだけでいい。では良い夢を・・・。」
ピピピ、ピピピ。目覚ましのアラーム音で彼女は目を覚ました。階段を下りて行く、母の用意したトーストはまだ温かい。
「今日はお母さん早番なのか・・・。瞳はもう学校に行ったのかな?」
静まりかえる家は今日は何だか不気味に見えた。学校はいつもどうりだった。同級生は昨日のテレビの話や雑誌の話なんかで盛り上がっていた。しばらくして、担任教師が来て朝のホームルームが始る。話が終わり、皆は一時間目の数学の用意を始める。
「いけない、教科書忘れて来ちゃった。お姉ちゃんに借りて来なきゃ・・・。」
渋々命は隣のクラスにいる姉の元へと向かった。教室前にたまる女子生徒に姉を呼んでもらう為に声をかけた。
「あ・・・あの、お姉ちゃん呼んでもらえる?」
女子生徒がお互いに顔を合わせ笑った。
「命ちゃんお姉ちゃんなんていないじゃんか。もう何言ってるの。」
そう言うと彼女達は教室へと戻って行った。残された命は彼女達の言葉の意味が理解できなかった。佇む彼女に声を掛けたのは数学の教師の北岡先生だった。
「なにやってんだ有紀ほらさっさと教室入れ。」
「じゃあ授業始めるぞ・・・。」
不思議な事に今まで苦手だった数学がスラスラ解けるのだ。何度か当てられたが、彼女は難なくそのつど完璧とも言える回答を出していった、まるで姉の瞳の様に。
「ねえ命お願い今日の部活の練習試合助っ人で入ってよ。」
この光景もいつもは瞳そのものである。
誰一人として、有紀 瞳の存在を知っている者がいなかった。それどころか、自分自身が姉であった瞳の様に運動や勉強が出来るようになっていた。命はこれまでに味わった事の無い優越感を味わっていた。だが、それと同時に何だか心にポッカリと穴が開いた様にも感じていた。命は姉と一緒によく行き、捨てられていたクロを見つけた神社に来ていた。ニャーっと其処にはクロの姿があった。命はしゃがみ、クロの喉を優しくなでた。
「あのねクロ、私お姉ちゃんがいた時は一人っ子がよかったって思ったの。今のままの私はとっても幸福だけどそれと同じくらいさびしいの・・・。ねえどうしてかな?」
にわか雨が振り出した。彼女は前にもこんな事があったと雨に打たれながら思い出していた。あの時はどうしてだかわからないけど、雨の中で私は泣いていた。肌に当たる雨は何だかとても重たくて冷たかった。その時もお姉ちゃんは私を探しに着てくれた。
「こんな所にいたの。」
そう言って私を傘の中に優しく招きいれ、微笑んでくれた。
「風邪引きますよ。」
夢屋の少年だった。傘の中に命を入れた彼は問いかけた。
「どうです?あなたの望んだ夢になりましたか?」
彼女は首を縦では無く横に振った。
「私、お姉ちゃんといつも比べられて育ったの・・・だから何でもできるお姉ちゃんが羨ましくていなければって何度も思ったわ。でも・・・お姉ちゃんを・・・お姉ちゃんを帰して・・・。」
彼はゆっくり答えた。
「いいんですか?」
「ええ。」
彼女に迷いは無かった。
「では、元に戻す代償にあなたが他人を嫉むその感情をほんの少し貰いますよ。」
彼女は笑って首を縦に振った。
「では、よい夢を・・・。」
双子の姉妹、瞳と命は仲良く手を繋ぎながら元気に登校していた。
「考えてみれば不公平だよな、双子だからって全く違う人間同士を比べられて。でも、よかったなお前の飼い主達元気になって。最初にお前に相談された時は正直最初どうしようかと思ったよ。」
夢屋の少年は屋根の上で日に当たりながら姉妹を見ながら言った。ニャーと隣にいるクロが鳴き声をあげた。




