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夢屋  作者: 尚人
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プロローグ 夢の中

 

 プロローグ 夢の中


 

 目の前に広がるのは、一面の花畑。これまでに見たことの無い程美しかった。僕は自分の置かれている状況はすぐに理解できた。

 

「ああ・・・俺、死んだのか・・・。」

 

 三途の河を渡る使者達の中に見つけたのは先日メディアに大きく取り扱われた、議員の顔があったからだ。だが、彼は後悔はしていなかった。しょうがないと思ったし、自分が生きていても意味が無いと感じたからだ。彼は迷うこと無くその河を渡る小さな船を待つ者達の後方に付いて並んだ、それから間もなくしてからだ奴に声を掛けられたのは。


「彼方はこれで本当にいいのですか?」

 

 背の低いコイツは僕を見上げていた。いや、僕の背が高いのか・・・。そいつは一指し指を僕の目の前に突き出し言った。


「君は知らない様だけど、あまり人を見下さないほうがいい。」

 

 まるでテレビを見ているかのような感覚が頭の中で広がりそこに映し出される者は自分の知っている者達だった。母親は何処かに電話をし、受話器を置くなりその場でしゃがみこみ唯涙を流すだけだった。親友は空を見ていたが、その表情は何時もの彼ではなくまるで生気が無い。


「悲しいな、悲しいな。身近な人が居なくなるとまず感じるのが、その現実感の無い全く悲しいとは無縁の心境だ。君は僕の所に死にた言って来たけど、本当に死にたかったの?」


 沈黙が続く。唯そんな中、僕が並ぶ列は刻一刻と自分の番に向け進んでいる。


「ほら、次は君の番だね。」


 その言葉を聞くや否や彼は後悔を始めた。今までに感じたことの無い感情が彼の中で膨らんだ。なぜ、自分はこんな所に来てしまったのか。まだ、やりたい事があった。あの人にまだ何も伝えてない。涙ぐむ彼は振り返り、自分を見上げているそいつに言った。


「帰りたい、帰りたい。もう死にたいとは思わない。だから、返してくれ。現実に戻してくれよ。」

 

「おかしな事を言う、ここは現実ですよ。でもまあ、そんなに帰りたいのなら代償を払ってもらいますよ。」


「払うよ、払うから、いくらだよ・・・。」


「お金ではありませんよ。感情の一部です、死への執着心を払ってもらいます。」


 河の流れは緩やかだ、船をこぐその音は僕には聞こえていなかった。僕はそいつの言っている意味は理解できなかったが、帰れるのなら何で良かった。こんなに生きていたいと思ったのは初めてだったからだ。そいつはニッコリ笑うといった。


 『良い夢を・・・。』

 

 目が覚めると、いつもの天上いつものベットだった。母が自分を起す声が何だか懐かしいように感じた。僕はその日以来、自分を傷つける事をやめた。あの時にあった感情は今はもう無い、変わりにあるのは希望の二文字だった。僕は昨日会ったそいつの所に行ったが、そこにはもう昨日まであった夢屋看板を掲げたあの不思議な感じのする店とそいつの姿は無かった。今思えばあれは夢だったのかも知れない。


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