第一章:体のないまま新たな世界へ
面白いアイディアだと思ったので書いてみました。
日本語が変だったらすみません。
街は人であふれていた。
仕事帰りの人、遊び終えて帰路につく人――それぞれが日常へと戻っていく時間だ。
だが、その喧騒から少し離れた場所にある病院は、まるで別世界のように静まり返っていた。
廊下にはほとんど音がなく、空気すら張り詰めているように感じられる。
――ピッ、ピッ、ピッ……
無機質な電子音だけが、病室に淡々と響いていた。
「……もう長くないな」
低い男の声が呟く。
「……本当に、誰もこないのですか?」
女性の声が続いた。
だが、それが無意味な問いだということは、本人が一番よく分かっているはずだった。
男は静かに首を横に振る。
その仕草だけで、すべてが伝わった。
それ以上、言葉はなかった。
再び訪れる沈黙。
その中で、心電図の音だけが規則的に鳴り続ける。
――そして。
ピーーーーーーーッ……
すべてが止まった。
女性は何も言わずに部屋を出ていき、残された男は淡々と記録を書き始める。
「斎藤文子、93歳。9月13日、午後8時37分。死因――老衰」
――死は特別なものじゃない。
どんな命にも、平等に訪れる。
もちろん、私も例外じゃない。
私は斎藤文子。93歳。一人っ子として日本に生まれた、一般人。
太平洋戦争という地獄も経験したけれど、運よく生き延びて、その後はごく普通の人生を歩んできた。
特別に誇れるようなことは何もないし、後悔だっていくつもある。
それでも――
平凡な日々の中で、確かに幸せだった瞬間はあった。
だから胸を張って言える。
――悪くない人生だった、と。
しばらく、私はこれまでの人生を思い返していた。
楽しかったことも、辛かったことも、その全部を。
けれど時間が経つにつれて、考えは自然と「その先」へと向かっていく。
天国に行くのだろうか。
それとも地獄?
あるいは、まったく別の何かかもしれない。
お父さんやお母さんには会えるのかしら?
友達は?
「……もしかしたら、あの人にも会えるかもね」
小さく呟く。
――夫のことを思い浮かべながら。
そのときだった。
「残念ですが、あなたは想像している形では先へ進めません」
突然、どこからともなく声が響いた。
突然響いた、その声。
さっきまで確かに一人だったはずなのに――
どこにも「誰か」がいる気配はない。
なのに、はっきりと聞こえた。
……いったい、どうやって。
驚いた瞬間、さっきまで頭の中にあった考えが、風船が割れたように全部吹き飛んだ。
けれどすぐに、思考は戻ってくる。
今度は、その「声」に集中しながら。
聞いたことのない声なのに、どこか妙に“馴染み”がある。
そして何よりおかしいのは――
どこから聞こえているのか分からないことだ。
前でも後ろでもない。
上でも下でもない。
まるで、全方向から同時に響いているみたいな感覚。
……いや、それだけじゃない。
周囲に目を向けてみて、さらに違和感に気づく。
暗いわけじゃないのに、光源が見当たらない。
体の感覚はないのに――なぜか「見えて」「聞こえて」いる。
……ここ、どこ?
私、亡くなったのよね?
それとも実はまだ生きていて、これはただの夢?
疑問が次々と浮かんでは消えていく。
しばらく沈黙が続いたあと、私は意識的に思考を整えた。
落ち着いて。
まずは状況を把握しないと。
――聞ける相手は、一人(?)しかいない。
意を決して、私はその存在に問いかける。
「あなたは……何者?」
少しの間を挟んだ後、その“声”は答えた。
「私は『神』です――少なくとも、あなたの理解に最も近い概念で言えば、ですが」
……神?
「私は世界を創り、その中の仕組みを管理しています。同じ存在は他にもいますが――あなたには到底できないことを、私は可能とします」
神。
創造主。
神様。
……え、本当に?
ついさっき、「あの世には行けない」って言ってきた相手が?
頭が追いつかない。
それでも、なんとか平静を保とうとする。
「……私は死んだのですか? それともこれは夢ですか? さっき『思っている形では進めない』って言ったけど、それってどういう意味なのでしょうか?」
震えそうになる声を抑えて、問いかける。
「安心してください。あなたは確かに死亡しています」
あっさりと返ってきた答え。
「そして、『思っている形では進めない』とは、あなた方の言う『あの世』には到達しないという意味です」
……え?
「じゃあ、死んだらどうなるのですか?」
思わず食い下がる。
「魂は分解され、消滅します。それだけです」
……軽い調子で、とんでもないこと言ったわね、この神様。
「それが通常の流れですが――」
一拍置いて、声のトーンがわずかに変わる。
「あなたには、一つ提案があります」
――提案?
さっきまでとは違う空気に、思わず身構える。
「その『提案』とは?」
警戒を隠さずに聞き返す。
すると、その“神”は淡々と説明を始めた。
「私はあなたの世界の創造主と同様に、自らの世界を管理しています。しかし現在、その世界は複数の問題に直面しています。中には致命的なものも含まれます」
……なんだか、嫌な予感しかしない。
「出来れば直接介入したいのですが――我々には、互いに干渉を制限する規則が存在します」
なるほど。
だから直接は何もできない、と。
でも――
「それ、私に何の関係があるのですか?」
正直にそう言うと。
ほんの一瞬の間を置いて、神様は答えた――
「あなたに、私の世界を救ってほしいのです」
……は?
「え?」
思わず声が漏れる。
聞き間違い?
「私の世界を救ってほしいのです」
神様はもう一回言った。
いや、聞き間違いじゃなかった。
……ちょっと待って。
世界を救う?
私が?
「……どうやって?」
混乱を押し殺して、なんとか言葉を絞り出す。
「『世界を救え』って、どうやって? 私、ただの人間なのですけど」
「私の世界は、あなたのいた世界とは異なります。必要な手段は用意されています。極力干渉はしませんが、極限状況では支援も行います」
いやいやいや。
「なんで私なのですか? 他の人じゃダメなのですか? そもそも、私が引き受けると本気で思っているのですか?」
疑問と不安が一気に噴き出す。
しばらく沈黙。
そして――
「もしあなたが条件を受け入れ、世界を救った場合――」
神は、ゆっくりと言った。
「あなたの望む“天国”を創りましょう」
――。
その一言で、すべての意味が繋がった。
なるほど。
これが“提案”ってわけね。
「つまり――」
私はゆっくりと言葉を整理する。
「私があなたの世界を救えば、その代わりに理想の世界を作ってくれるってこと?」
「はい。あなたの望む形で構築します」
迷いのない即答。
……本当に、あっさり言うわね。
――まあ、魅力的な話ではある。
もしこれが本当なら、考える価値は十分にある。
でも。
「……証明できるの?」
慎重に問いかける。
「あなたの言っていることが本当だって」
相手は「神」を名乗っている。
けれど、それを裏付けるものは何もない。
「必要であれば、直接お見せすることも可能です」
「見せるって……映像みたいなもの?」
「現在の状況、そしてこのまま進んだ未来――両方を」
現在と未来……
現状はともかく未来まで?
……いや、それって逆に怪しくない?
作り物を見せられる可能性があるってわけでしょう?
疑いは消えない。
「見ますか?」
神は静かに問いかける。
私は、少しだけ考えて――
「……いいえ」
首を振った。
「見ても、多分信じられないと思うので」
「……そうですか」
ほんのわずかに、困惑したような気配が混じる。
でも仕方ない。
どんなものを見せられても、完全に信じることなんてできない。
疑い深い性格なのは、自分でも分かってる。
(……そもそも、神が嘘をつく理由ってあるの?)
心のどこかでは「ない」と思っている。
けど――
信じきれない。
結局のところ。
これは――
「……賭け、ね」
ぽつりと呟く。
当たるかもしれないし、外れるかもしれない。
それだけの話。
「はぁ……」
思わずため息が出る。
私はこういう決断が昔から苦手だ。
でも――今回ばかりは逃げ道はない。
考えても、考えても、結論は変わらない。
時間だけが過ぎていく。
……そして。
「決めたわ」
重たい声で、私は言った。
「……答えは?」
神は問う。
私は、残っているわずかな勇気をかき集める。
喉が渇くような感覚。
……覚悟を決めて。
「――断ります」
はっきりと、そう告げた。
これが私の答えだ。
たとえ話が本当だったとしても。
罠じゃなかったとしても。
――無理。
世界を救うなんて、不確定すぎる。
成功する保証なんてない。
苦しんで、もがいて、最後に失敗したら――
全部、無駄なあがきになってしまう。
リスクが大きすぎる。
どうしても、踏み切れなかった。
「…………」
重たい沈黙が、空間を満たす。
(……怒ってないわよね?)
少しだけ不安になる。
でも――
返ってきたのは、意外な言葉だった。
「……未だに、迷っているのですね」
「……え?」
思わず声が漏れる。
「その非合理な躊躇。別の何かに似ていますね……執着か、あるいは恐怖か」
空気が変わった。
さっきまでとは違う、どこか冷たい響き。
「それどういう――」
「あなたは、夫を早くに亡くしましたね」
――。
「……はい?」
一瞬、思考が止まる。
「一緒に過ごした時間は、ほとんどなかった」
なに、言ってるの……?
「それでも再婚はしなかった。ずっと一人で生きてきた。あなたは知っているのでしょう、なぜ自分がそうしたか?」
その声は、淡々としているのに――どこか鋭い。
……やめて
「前に進めなかったから」
「……違う」
否定する。
でも。
「だから一人でいた。孤独でも、怖くても」
「違うって言ってるでしょ」
「友人たちが幸せになるのを見て、距離を置いた」
「やめて」
「成功していく姿を見るのが耐えられなかった」
「やめて……!」
「だから人を遠ざけた」
「やめてってば!」
「自分自身と向き合うことすらできなかった」
胸が締め付けられる。
「みっともない、愚かな自分に耐え切れなかった」
「――やめろ!!」
叫んだ。
違う。
違う。
違う違う違う違う違う。
そんなことない。
そんなわけない。
「違う!!」
叫びが爆発する。
なんで。
なんで今さら――
忘れたはずなのに。
手放したはずなのに。
まただ。
また――
嫌な記憶が、感情が、全部あふれ出す。
体なんてないのに。
なのに。
吐き気がする。
寒いのに、熱い。
軽いのに、重い。
空っぽで――
……みじめ。
「どうですか?」
神の声が、淡々と響く。
「いい気分ではないでしょう?」
言葉が出ない。
こんな感情――初めてかもしれない。
誰かに対して、ここまで強い嫌悪を抱いたのは。
……これが神?
「そんなに怒らないでください」
軽い口調。
その一言で、さらに苛立ちが増す。
「……よくそんなこと言えるわね、このクズ野郎」
震える声で吐き捨てる。
すると神は、まるで気にした様子もなく言った。
「先ほどの提案を思い出してください」
「……は?」
「天国を創るという話です」
嫌な予感がする。
そして――
「望むなら、取り戻すこともできますよ」
「……何を?」
「あなたの大切な人たちを」
――。
「友人。家族。そして……夫も」
思考が止まる。
ああ。
そういうことか。
だから、あんなことを――
「……最低」
口の中で呟く。
怒りが、じわじわと膨れ上がる。
この存在が、心の底から嫌いだ。
大嫌いだ。
でも――
それ以上に。
「……自分が、一番嫌い」
ぽつりと漏れる本音。
「……ほう?」
短い反応。
そして、短い沈黙が過ぎて、私は答えた――
「……分かったわ」
私は言った。
「その条件、受ける」
「……ああ、そうですか」
神の声が、わずかに弾んだ。
「良い判断です。実に良い」
さっきまでとは違う、どこか機嫌のいい声音。
……イラッっと来る。
「……何よ、その反応」
思わず睨みつけるような気持ちで言う。
「別に。ただ、あなたの協力に心から感謝しているだけです」
嘘くさすぎて、みじんも信じきれない。
「だったらさっさと始めてくれる?」
ぶっきらぼうに言い返す。
「あなたは少々せっかちですね」
「誰のせいだと思ってるのよ」
間髪入れずに返す。
「『誰のせい』という概念は、この状況ではあまり意味を持ちませんね。そもそも、あなたが私に選択を迫ったとも言えますし」
……ダメだ、話が通じない。
これ以上言い合っても無駄だと判断して、私は息をつく。
(気分だけだけれど)
「……それで?」
気持ちを切り替えて問いかける。
「私は何をすればいいの?」
「あなたは転生します」
「……それだけ?」
あまりにも簡潔すぎる説明に、思わず聞き返す。
「それだけです。あとは自由に行動してください」
「いや、雑すぎない?」
思わずツッコミを入れる。
「過度な干渉は制限されていますので。あまり関わりすぎると不自然になります」
「……ちゃんと世界救えるの、それで?」
「最低限の支援は行います。それに、あなたにはこれまでの人生経験あるでしょう?」
……まあ、言いたいことは分からなくはないけれど。
「他に質問は?」
「……ないわ」
これ以上聞いても、まともな答えは返ってこなさそうだし。
「では、準備を開始します」
その言葉と同時に――
周囲の景色が、変わり始めた。
色が溢れ出す。
今まで見えていた“何か”とは違う、鮮やかな色彩。
知っているようで、知らない色。
「……綺麗」
思わず見入ってしまう。
「……あ、新しい世界ってことはさ」
ふと気づく。
「魔法とか、あるの?」
少しだけ、期待を込めて聞く。
「ええ、ありますよ」
「……へえ」
ちょっとワクワクしてしまった自分がいる。
怪獣や化け物とかもいるのだろうか。
……って、ちょっと待って。
「ねえ」
嫌な予感がして、慌てて声を上げる。
「私、何として生まれるの?」
沈黙。
……え?
「ちょっと、まさか――」
「完了しました」
「は!?」
タイミングおかしくない!?
「ちょっと待って、まだ聞いて――」
「どうしました?」
「人間よね!? 人間に転生するのよね!?」
一番大事なところ。
すると神は――
「……それは、少々説明が難しいですね」
「は!?」
不穏すぎるんだけど。
「どういう意味?」
「以前お伝えした通り、過度な支援はできません。あなたに『肉体を与える』行為も、それに該当します」
……。
「……つまり?」
その瞬間、嫌な予感が、確信に変わる。
「あなたは、自身の肉体を持つことはできません」
――はい?
その瞬間。
景色が一変した。
色が消え、代わりに広がるのは――青空。
「では、プロセスは完了しました。幸運を祈ります」
「ちょっと待っ――!!」
――そこで、すべてが暗転した。
しばらくして、耳鳴りがする。
キーン……と、ずっと続く音。
その中に、かすかに――
泣き声?
次の瞬間。
光が、目に突き刺さった。
まぶしい。
熱いわけじゃない。
でも、鋭くて、容赦なく視界をこじ開けてくる。
……見える。
確かに、見えている。
でも――
色がない。
白と黒と灰色だけの世界。
まるで、古い、ブラウン管テレビみたいだ。
視界はぼやけていて、形もはっきりしない。
水の中にいるみたいに、すべてが揺れている。
思考が追いつかない。
何が起きてるのか、理解が遅れる。
――まばたきしようとする。
……できない。
もう一度。
……やっぱり、できない。
「……あ」
声が漏れる。
けど――
違う。
今の、私の声じゃない。
もっと高くて、か細い。
……嫌な予感がする。
ゆっくりと、動かそうとする。
腕。
指。
何でもいい。
……動かない。
まったく反応がない。
なのに――
視界が動いた。
違う。
動いているのは、世界じゃない。
――この体だ。
小さな手が、視界に入る。
白くて、頼りなくて、震えている手。
指がぎこちなく動く。
……私じゃない。
私が動かしてるんじゃない。
背筋が凍るような感覚。
「……何、これ」
頭の中で呟く。
でも、その言葉は外には出ない。
代わりに――
小さな泣き声が、漏れた。
……やっぱり違う。
これ、私じゃない。
何かがおかしい。
決定的に、おかしい。
恐怖がじわじわと広がる。
最初はゆっくりと。
でも次の瞬間、一気に膨れ上がる。
動け。
動いて。
動け!!
……ダメだ。
何もできない。反応がない。
まるで――
見ているだけ。
いや、違う。
――閉じ込められてる。
――泣き声が聞こえる。
最初はぼんやりと。
でも次第に、それがはっきりしてくる。
……赤ん坊の泣き声。
「Nun, nun… es ist alles gut, mein liebes Kind.」
きいた覚えのない声がだんだん近づく。
女性の、優しい声。
体が勝手にそちらへ向く。
ぼやけた視界の中に、人影が映る。
長い髪。淡い色。優しそうな目。
何かを話している。
……言葉は、はっきり聞こえる。
でも。
――日本語じゃない。
英語でもない。
まったく知らない言語。
それなのに――
意図だけは、なぜか理解できる。
安心させようと、落ち着かせようとしている。
そういう「意図」だけが、直接伝わってくる。
女性が手を伸ばす。
思わず――身構える。
……いや。
身構えようとした。
でも。
体は動かなかった。
その代わりに、小さな手が、女性へと伸びる。
……違う。
これも、私じゃない。
その瞬間、すべてを理解した。
――この体は、私のものじゃない。
神の言葉が、頭の中でよみがえる。
『あなたは、自身の肉体を持つことはできません』
つまり。
そういうこと。
「……はは」
乾いた笑いが、心の中で漏れる。
私は、確かにこの体の「中」にいる。
だけど――
動かしているのは、別の誰か。
この体の、本来の持ち主。
この赤ん坊の、意識。
「……なるほどね」
ゆっくりと、内側へ意識を向ける。
静かに。
慎重に。
まるで、水の中を探るみたいに。
「……ねえ」
私は呼びかける。
「聞こえる?」
返事はない。
でも――
何かが、いる。
確かに。
ぼんやりとした存在感。
遠くて、弱いけど。
確実に「そこにいる」。
もう一度、呼びかける。
「……ねえ」
そのとき。
――揺れた。
感情が、流れ込んでくる。
恐怖。
圧倒的な恐怖。
それは、私のものじゃない。
この体の「本来の持ち主」の感情。
体が震える。
涙が溢れる。
女性がすぐに気づく。
「Ach nun, nun… es ist alles gut, es ist alles gut, mein liebes Kind…」
優しく抱き寄せる。
あたたかい、安心感。
……それも、全部伝わってくる。
「……そういうこと」
小さく呟く。
私はただ「見ている」だけじゃない。
感じている。
共有している。
この子の感覚も、感情も――全部。
しばらくして。
泣き声が落ち着いていく。
呼吸が整う。
恐怖も、少しずつ薄れていく。
……それに合わせて。
私の中のざわつきも、静まっていく。
「……なるほど」
ゆっくりと理解する。
私は何もできない。
動けない。
話せない。
ただ――
意識だけがある。
そして。
この子と「繋がっている」。
「……最悪ね」
思わず、苦笑する。
世界を救えって言われて。
結果がこれ?
「……冗談でしょ」
他人の体の中に閉じ込められて。
自由も何もない。
完全な「同居人」。
いや――
「寄生虫、かしら」
自嘲気味に呟く。
でも。
ふと、気づく。
この子の呼吸が、安定していると――
体の動きが、少し分かる。
流れが、読める。
完全に操作はできない。
けど。
ほんのわずかに。
「近づく」 感覚。
「……へえ」
小さく笑う。
可能性は、ゼロじゃない。
ほんの少しだけど。
確かにある。
「……まあ、いいわ」
どうせ、もう後戻りはできない。
やるしかない。
どんな形であれ。
ここが――
私の新しいスタートだ。
視界が、ゆっくりと上を向く。
窓の外。
広がる空。
どこまでも、どこまでも続いている。
「……信じられない」
私は呟く。
こんな状況でも。
不思議と、少しだけ思う。
――悪くないかもしれない。
「……ほんと、ありえないわね」
苦笑が漏れる。
それでも。
私は、目をそらさない。
この世界から。
この現実から。
「……さて」
静かに思う。
ここからが、本当の始まり。
体もなく。
声もなく。
自由もない。
それでも――
「やってやろうじゃない」
心の奥で、そう呟いた。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
もし変なところがあったらぜひ知らせてください!




