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私で染まった辺境伯さまに、虹色魔力を添えて  作者: 稲山 裕


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第3話


 あれから何の成果もないまま、随分と時間が過ぎて……もう、五年も経ってしまった。


 ――違うの。オムツは二歳くらいで卒業出来たわ。



 たぶん筋力が足りなかったのね。


 だって侍女達がずっと抱っこしてくれていたし、私もあえて動こうとしなかったから、足腰が普通よりも弱かったのだと思う。


 いい加減、自分でも厨房におやつをねだりに行きたいと思って、こっそりお部屋を抜け出すようになってからすぐに卒業出来たから。


 まあ、そういうことね。


 ううん、そうじゃなくて……。


 五歳になっても、まだ女神の力が使えないの。


 ――うっかり、自分が女神だってことも忘れそうなくらいには、のんびりと過ごしてしまった。


 さすがは貴族――という快適な生活だったし、何も不自由しなかったから。


 侍女達もみんな優しくて、お嬢様生活は言わば、女神の時よりも甘い甘い暮らしぶりだった。


 そう……。


 主神様のお子に出会うための受肉だったことを、ついさっき思い出したくらいには。


 それはそれでなぜ思い出せたかと言うと、魔力測定なるものが明日、教会に出向いて行われるということだったから。


 貴族にとって、魔力はその証でもある。


 魔力がなければ、それは平民と変わらない。


 その力を振るって、外敵から国と民を護るからこそ貴族たりえる。


 それが、この人間界での常識だった。


 ――まさか、ここで私の、女神の力が皆に知れ渡ってしまったり……するのだろうか。


 というか、使えないままの女神の力って、結局どうなっているのだろう。


 魔力と神の力では、理が違うと神界で聞いたことがあったような……。


 などなどの疑問や不安がよぎるけれど、受肉した副作用なのか、割と大事なことが思い出せない。


 そんな考え事をしながら、部屋で本を読んでいると母が突然入ってきた。


「明日は測定の日よ? 魔力の強さ次第では、どこかの令息と婚約できるわね」


 久しぶりに見た母の、その冷たい笑みに少しゾッとした。


 普段うっかり廊下で出会ってしまっても、私をチラと見る程度だったのに。


 母は私の部屋にまで来て、それを告げるのだから本気なのだろう。


 むしろ、そのために今まで育ててきたのだと言わんばかりの、凍るような目だった。


 ――私はソファに座っていたのだけど、横に振り向いて母を見たまま、何も返事が出来ずに固まってしまっていた。


 その様子を見て母は、また憎々しい顔をして「ちっ!」と、舌打ちをして出て行った。


 それを、私の隣で聞いていたリザは、悲しそうに目を伏せていた――。


 これが私と母の、今の関係性だった。



   **



 ……人間というのは不思議だ。


 血縁ではない侍女達は優しく、実母と実父は冷たい。


 都合が良ければ可愛がり、何かが合わなければ嫌う。



 考えてみれば普通のことかもしれないけれど、目の当たりにするとショックではある。


 ……侍女達にとって、私は都合がいいのだろうか。


 ――いいえ、そんなはずがない。


 どちらかというと、普段のお屋敷仕事に加えて私のお世話をしないとだから、余計な存在に違いない。


 それでも、いつも可愛がってくれている……。


 都合など関係なく、心から可愛いと思ってくれていると感じる。


 でも、両親は……極端な例かもしれないけれど、憎しみに近いか、恨みのようなものを感じる。 


 というか親子の間で――こんなに毛嫌いされるものだとは。


 私はどちらかというと聞き分けの良い方だから、不都合はないはずなのに。


 髪と目の色が合わないというだけで、こんなにも冷たくされるなんて。


 浮気をしたのかどうかは分からないけれど、少なくとも母の子ではあるのに。



 ……そんなことをぼんやりと思っていると、そのせいで失敗をしてしまった。


「痛っ!」


 嫌な気持ちのまま、本を読むのではなかった。


(いっっったああぁぁぁぁい!)


 心では叫んでしまった。


 私はとにかく、痛みに弱い。


 気を付けていたのに……ページをめくる時に指を切ってしまった。


「あらあら大変です! アニエス様。お水で洗って消毒もしましょう!」


 リザは慌てながらも、恐ろしいことを言う。


 ただでさえ痛いのに、そんな拷問のようなことを。


「い、いやよ! 水で洗うとしみるのよ? 消毒なんてしたら、もっともっとしみるのよ?」


 首をふりふり、でも痛む指をぎゅっと掴んで、ズキズキと主張している傷口に静まってくれと祈る。


「ダメです。ちゃんとしないと……指が腐り落ちますよ」


 後半部分、低い声で怖い言い方をされた。


 リザはすでに落ち着いていて、そういう冗談を言うのだ。


「そ、そんな風に脅さないでよ。泣く……泣いちゃうわよ?」


「フフフッ、泣いてもダメですよ。はい、目を閉じている間に終わりますから」


 言われるままに、そして今から行われることが恐ろしくて、ぎゅっと目を閉じた。



 ――この体、というか、人間の体というのは痛みが酷い。


 女神の体なら、傷を負っても痺れ感があるだけで、瞬く間に治ったのに。


 傷はなかなか治らないし、とにかく痛む。


 ずっとズキズキするし、庇うから使えなくて不便にもなる。


「紙で切ってしまうと、意外と痛いですよねぇ」


 リザは気を紛らわせようとしてくれているのだろう。


 でも、今の私に何を言っても無駄だ。


 もう、傷口から意識が逸れてくれないから。


「もう終わった?」


 水は、かけ終えたように思う。ものすごくしみて、痛みが倍増しているから。


「まだですよ? もう少しです」


 そう言われて、次は消毒かと思うと恐怖で手が震えだした。


「もう無理。リザ、もう無理よ」


 怖くて目も開けられないし、傷口がどんどん熱くなっているような気もする。


 もしかしたら、思っているよりも酷いのかもしれない。


「もう~。アニエス様はケガをすると大げさなんですから。はい、終わりましたよ?」


「ほんとに……?」


 恐る恐る目を開くと、きっちりと巻かれた包帯が見えた。


 きつくないし、緩くもない。


「すぐに治りますからね?」


「……リザがそう言うなら、そんな気がする」


 いつの間にか、痛みはかなり治まっていた。


「ありがとう! リザ!」


「どういたしまして~」


 私が少しダメな子でも、いつも優しくしてくれる。


 笑顔が素敵で、リザが微笑んでくれるだけで安心する。




 それなのに――。


 リザと、お別れになるなんて思いもよらなかった。


 私が呑気に過ごしていたせいで。


 女神の力を使えないままなのに、気を抜いて過ごしていたから。


 ――教会で、魔力無しと告げられた私の環境は、その日から一瞬で暗転してしまった。

 

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