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第二十五話

 山川を保健室に叩きこんで教室に向かう途中。

「リベロだ!」

 柴田が叫ぶ。

 全員が「何だ急に」という顔をした。

「ほら、バレーって捕球専門のポジションがあるだろ。あれなら俺でもできるんじゃないか⁉」

 何となく腕相撲と事故のせいで流れつつあった問題だが、柴田はバレーチームのクビがかかっているのだ。何とかして挽回を狙いたいところ。

「リベロかぁ……うーん、どうだろ……」

 秋穂が顎に人差し指を当てて難しい顔をした。

「リベロって本当にレシーブ上手くないと機能しないんだよね。それだけが仕事だし、攻撃にも参加できないから取れなかったら本当に意味ないっていうか……」

「なんか栗田さんがどんどん辛辣になっていくんだけど……」

「まぁ正直、チームの中で一番デカい奴がリベロって意味分からんもんな」

「リベロって小さい奴がやるイメージあっけど。小さい方が有利なん?」

「ううん、そんなことないよ。あくまで身長の有利不利が少ないってだけ。アタッカーとしては身長が低い人がやることが多いからそういうイメージになるのかも。層が厚いチームだと180センチ超えるリベロもいるよ」

「ほ、ほら、関係ないってよ! むしろ俺はデカい分、守備範囲がデカくて有利なんじゃねぇか⁉」

「そういうものでもないんだけど……」

「クソっ! 旗色が悪すぎる! もしかして俺って本当に要らない子……」

 一度引き受けた以上は役割を全うしたい柴田だが、本格的にチームにいることが迷惑であるのならば辞退する他ない。イツメンで遊ぼうぜーと仲間内で決めていた集まりに、浮いてる奴がメンバー面していつまでも空気を読まず帰らない。みたいな状態になる位なら諦めてしまった方が良い。

(あれ、今まさに俺が空気読めない奴になってる? 言いにくいから皆言わないだけで、さっさと辞退しろよなーって空気になってる⁉ やば……ちょっと死にたくなってきた)

 すると並んで歩く長谷川がポンと柴田の背中を叩いた。

「適材適所ってやつだ、気にすんなよ。シバケンはリレーで、俺らはバレー。それが一番勝率高いだろ?」

「まぁ……確かにそうかもしれないけど」

 そう言うと他のメンバーも続き、

「そうそう何たってガチで優勝狙わないと、シバケンの青春が崩壊だしなー」

「それな、俺たちだけでもなんとかなるって。シバケンはリレーの心配だけしてればいいって!」

「最悪、表彰台だけは絶対に行けるようにすっからよ!」

 戸惑う柴田は一瞬言葉に詰まった。

「そ、それはどういう」

 まるでバレーチームの勝利だけではなく、むしろ柴田の身を案じているかのような物言い。意図を掴み損ねていた。

「1年A組が総合優勝するんだろ? それが条件だってグルチャで言ってたよな?」

「それはそうだけど、は……マジで協力してくれるのか?」

「はは、当ったり前じゃん! なぁ?」

 うん、おう、もち、他のメンバーからも軽い返事が返される。

「確かに協力してくれると助かるってメッセージを送りはしたけど、皆『りょ!』とか『り』とかスタンプとか絵文字だけの返信だったよな⁉」

「おん、そうだけど?」

 何が引っかかているのか分からない、といった調子で不思議そうな顔をする長谷川達。

「お前ら……マジで俺のために? いや、まさかそこまで考えて能動的に動いてくれるとは思ってなくて……」

 先ほど山川も言っていた。男子全員で優勝を狙いに行くために団結する、と。

 だが現実味がなかった。出会って一か月と少し。そんな短い時間の付き合いで自分のために多くの人が動くなど、柴田にとって予想外の事態だった。

 自分がその場しのぎで出した勝負に全員が乗ってくれている。

 そう考えると途端にふわふわと落ち着かない感覚になる柴田。

「それはちょっと大げさだけどな。ほとんど、っていうか全員何か面白そうってだけで動いてんだ」

「それでも十分嬉しいよ」

 ありがとう、と頭を下げる柴田。

 長谷川達の間に気恥ずかしいような、妙な空気が流れる。

「だから大げさだって、仮にでも共通目標があった方が盛り上がるだろ? ボウリング場でのシバケン騒動は盛り上がったからなぁ、みんなああいう予想外の興奮を期待してるんだと思う。だから、俺らは俺らで頑張るからさ、シバケンも盛り上がる走りしてくれよ? 良いとこなしで負けてもそれはそれで面白いけど、笑えない結末になるのはかんべんな! ははは!」

 男たちが一斉に笑った。

(知らなかったな……そんな風に思ってくれてたのか…………)

「そういうことなら、うん。バレーは任せるわ。絶対優勝しろよな」


 じきに昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。

 生徒の足音が響くリノリウムの廊下に男達の楽し気な笑い声が混ざる。

 男たちはまた一つ絆を確かめ、共に教室へ向かうのだった。

 その一方。

 男子達が友情を育んでいる間。首を傾げっぱなしだった秋穂が集団の後方から改めて聞く。

「よく分からないけど、話はまとまった感じかな」

「あ、うん、栗田さんごめんね、俺はやっぱりバレーはやめとくよ」

「そっかあ、残念だけど仕方ないね……色々きついこと言っちゃってごめんね?」

「あはは、全然いいよ。元々運動音痴なのは自分でも分かってたから。俺って技術とか体の動かし方を新しく覚えるのすっげー苦手でさ、習得に人の倍以上も時間かかるから、いきなりメンバーに入るのは厳しくて当然なんだよ。気にしないで」

「うぅん……でもその身長あってみすみす逃すのは勿体ない気もするなぁ……」

 だが、これで良いのだ。もはや柴田にとって体育祭に注力する当初の理由は無くなった。男子の絆を感じた今、無理にチームスポーツに固執する必要は———。

「柴田くんなら私のスパイク8割くらい取れると思ったのになぁ」

「バカお前、俺らのこの痣を見ろって。あんなもんいきなり何球も取れるわけねぇだろ」

「何言ってるの? 取れるまで辞めなかったらいつかはできるでしょ?」

「この女、まじでスパルタが過ぎる……新手のサイコパスだわこれ……良かったなシバケン、この地獄を体験せずに済んで。あんなスパイクが取れる訳ないよな?」

「そりゃそうだ! シバケンには無理だろあれは!」

「いや俺らでも8割取れるか怪しいけどな…………あれを取れる奴いきなり探してこいってのがそもそも無理な話だったんじゃね? ハードル高すぎなんよ、無理ゲーです!」

「もー! 人を化け物みたいに言わないでよ! もっとハードにするよ⁉」

「な? シバケン、辞めて良かっただろ? できるわけねぇんだ…………っておい? おーい、シバケン?」

「…………………………できる」

「…………………………はい?」


「できらぁ! 一週間待ってろ。本当のレシーブって奴を見せてやんよ!」

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