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病的に人見知りな幼なじみと七不思議を創ります。  作者: ナカネグロ
第6の不思議︰呪われネットワーク
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第6の不思議︰呪われネットワーク-12

 翌日、少し遅れて部室へ行くと意外なことに霧島さんが泰成くんと話していた。

 泰成くんは手に編み針を持ち、つなげて大きくした机の上に何やら編みかけの、マフラーみたいなものを広げている。


「それ、なんだ? マフラー、にしちゃ大きいし。セーターとか、でもなさそうだけど」

「これ、ショール」


 霧島さんが、肩に羽織るような仕草をする。


「ああ、あの小さいマントみたいな。……なんだよその顔」

「いや、間違ってないけど、なんか違うと思って、ね?」


 オレたちの会話を聞きながら、泰成くんは少しうつむいている。その肩は少し力が入ってるみたいで、軽く持ち上がってた。


「泰成くん、編み物なんてするんだな。パズルもそうだけど、黙々と細かい作業するのが好きなのか?」


 すると泰成くんは慌てたみたいに顔を上げ、オレを見た。


「あ、おう。特に編み物は無心になれるから好きだ」


 オレはあらためて机の上のストールを見る。微妙に色の違う2色のグレーの糸で編まれたそれは、素人目に見てもかなりよく出来てることが解る。かなり完成に近いみたいだ。

 表面には絡み合う二本の綱みたいな盛り上がりがうねりながら全体を大きく斜めに横切っているんだけれど、少しもいびつなところがない。


「めちゃくちゃ凄いな」

「だろ!? なぁ!? このケーブル、ああ、盛り上がった部分は昇り龍をイメージしてるんだ」


 昇り龍か……。確かに力強く身をくねらせる昇り龍に見えなくもない。

 いきなり笑顔になった泰成くんが手を差し出してきたので、握手し返す。さすがに少し慣れてきた。


「これ、誰かにあげるのか?」


 オレの脳裏に肥田さんとかいう、まだ見ぬギャルのことが思い浮かぶ。まあ、見たときはオレが死ぬときなわけだが。


「メルカリで売るんだ」

「それじゃたいして儲からないだろ。よく知らないけど」

「俺は何か編みたいだけだし、編んだものそんなに残してもおけないから。それに、誰かが俺の編んだものにお金を出してもいいって思ってくれるのは嬉しい」


 後半、ギュウっと笑みを浮かべて声を喜びに震わせながら言う泰成くんの姿は、かなりアレな感じだった。ただ、本当に嬉しいのは伝わってくる。


「だからそれ、売ってほしいって話てたの。これがあればはいし……拝火教徒みたいでオシャレ、でしょ?」


 おい今、配信て言いかけたよな。どうした霧島さん。その辺いきなりガバガバになるんじゃない。意識が追いつかないだろ。にしても、ハイカキョウトってなんだっけ?


 値段の話をしてる二人を眺めながら考える。たぶん、ヒダタカヤマがオレを狙ってることに泰成くんは無関係だ。もし関わってるなら、今ごろ二人はオレを捕獲してるだろう。

 学校の前で待ち伏せたりもしてないことを考えれば、むしろ二人が泰成くんにはバレたくないと思ってる可能性さえある。となると、動機はますます不明だ。


 話が一段落したらしい。泰成くんがつぶやいた。


「二人とも、俺が編み物してても気にしないんだな」

「は? そりゃ編み物する人間だってこの世にはいるだろ」

「でも、俺は男で、見た目もこんなだし」


 あ。マジか。泰成くんそういうの気にするタイプか。


「見た目や性別で趣味が決まるわけじゃないだろ」


 この時代にまさか自分がこんな当たり前のこと言う機会があるとは。どうせなら“ここはオレに任せて先に行け”とか“スパチャ読み上げていきますね”とか、そういうことが言いたい。


 にしても、あれだろ。泰成くんみたいに“今どきないやろ”みたいな偏見を気にしてるヤツって、こっちが当たり前な意見言うだけで“この人は違う! 好き!”ってなって好感度やら忠誠度マックスになるんだろ(今どきない偏見)。

 でもま、これで泰成くんは攻略完了したかな……おや? 泰成くんの様子が……。


 泰成くんは目を見開き、体を震わせはじめた。進化するときのエフェクトには見えない。


「もっ、もしか、して、お、お、おお、俺のことこわっ、かっ、こ、こここ、こ、」


 どんどん呼吸が速く、浅くなってる。きつく体を縮こまらせ、見ているこちらが不安になるほど震えが強まる。


「おい! どうした。大丈夫か?」

「こわっ、お、とっ、怖がって、怖、がって、だ、らぁ」


 どうやら“俺のこと怖がって話を合わせてるんじゃないか?” みたいなことが言いたいらしい。まさに今怖い。

 ひょっとしたらこれ、キレて暴れる予兆なんじゃないか。するとオレの意識は驚きから緊迫に変わる。

 とりあえず霧島さんを避難させよう。そう思って見ると、霧島さんは怯えた様子ながらもなにか考えてるようだ。そしてすぐにうなずくと、小さく硬く丸められた泰成くんの背中に柔らかく右手を当てた。


「はい。目を閉じて深呼吸」


 その声と口調はいつもと違う、配信スイッチの入ったものだ。泰成くんは目を強く閉じたものの、食いしばった歯の間からスースーと音を立てて呼吸は荒れるばかりだ。


「だっ。で」


 喋るのを諦め、泰成くんは首を左右に降る。


「ジャンプスケアって知ってる? ホラーで急に大きな音や映像で驚かすやつ。ホラー平気な人でもそれだとやっぱりビックリするわけで、恐怖演出としてはレベルが低いっていう意見もあるんだけど」


 いきなりなんの話だ。配信モードの霧島さんの声は落ち着いていて口調はハッキリ、それでいてゆったりしていて耳に柔らかく響く。


「私、怖いのは本当に苦手なんだけど、この間も友達に騙されて、普通の動画かと思ったら急に大音量で化物が出てきてスマホ投げちゃって──」


 それにしても、不人気とはいえさすが配信もするYoutuber。面白いかはさておき、途切れることなく話題をつなぐ。

 途中、教室のドアが開いて宮華が入ってきた。宮華はオレたちを見ると無言で後ずさり、そっとドアを閉めた。相変わらずで何よりだ。

 霧島さんはそんなことも気にせず、泰成くんに語りかけ続ける。ちなみに今は自分の耐えられる辛さの限界を探る、っていう動画を観たけど面白かったって話をしてる。それ、おまえがこの間の動画でやってたやつだよな。

 収益化してないのに、デスソースとか色々あれは自腹で買ったのか。しかもそこまでたどり着かないで18禁カレーとかペヤング獄辛より手前、ジャワカレーの辛口で悶絶して終わってたよな。


 だんだん泰成くんの震えと呼吸が治まってくる。目にも理性が戻ってきたみたいだ。


「落ち着いた?」


 霧島さんに聞かれて、まだ呼吸は少し荒いものの泰成くんはしっかりとうなずく。霧島さんは泰成くんの背中を一度、ポンと叩くとその手を離した。


「泰成くんにはジャンプスケア的なビックリがあるし、そういうの警戒する気持ちはあるけど、それって怖がってるのとは違う、でしょ?」


 泰成くんは体の中の息をゆっくりと吐き出し、呼吸を整えた。


「そう、だな。ごめん。ありがとう」

「ああ、まあ、気に……しないで」


 答える霧島さんの声は一瞬ですっかり素に戻ってる。毎度思うけど、コイツの意識ってどういう仕組みなんだ。

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