第6の不思議︰呪われネットワーク-11
帯洲先生の悪魔的な宣告をどうやって回避するか考えながら帰宅すると、宮璃が来ていた。
「あ、おかえりー」
宮璃はやけに機嫌よく言った。考えてみたらLINEでやり取りすることはあっても、実際に会うのは久々だ。こんなに間が空くのも珍しい。忙しかったんだろうか。
オレはカバンを置くため、宮璃が座ってるソファの方へ歩き寄る。すると宮璃が笑顔を消した。
「イチニィ、私に隠してることない?」
オレは宮璃まであと数歩のところでストップ。あ、これ違うわ。機嫌よく見せかけてオレの研ぎ澄まされた警戒心を緩め、逃げられないくらい近寄ったところで捕獲するアレだ。
ゆっくりと振り返れば、廊下に出るドアのところに峰山さんが立っていた。なるほど。
ちなみに峰山さんとはキスされた後しばらくギクシャクしていたけど、毎日顔を合わせるし元からそれほど会話もなかったので、いつの間にか元に戻っていた。あれは何だったんだろう。
「隠し事なんてしてないぞ」
「へぇ……。じゃあ、小田泰成さんって、知ってる?」
目を細める宮璃。いつもと違う冷酷そうな表情も絵になるな。さすが我が義妹。
「ねぇ、聞いてる?」
お。今度はむくれた。可愛いなあ。じゃなくて。
「もちろん。こないだ入部したんだ。でも、隠してたわけじゃないぞ。そもそも今までだって部員が入ったからって、いちいち報告なんてしてなかったろ。それに最近、宮璃ウチに来なかったから話題にする機会もなかったし」
「でも、他の人は急に暴れたりしないでしょ」
「そりゃそうだけど、宮璃に言ってもどうなるわけじゃない、だろ? それに泰成くん、今のところはおとなしいぞ。ちょっと情緒不安定なだけで。多分こっちが怒らせなければ大丈夫だ」
「でも、心配なの! 大丈夫なら大丈夫で、先に言ってくれたっていいじゃない。イチニィが黙ってたって、私がそのうち知っちゃうことくらい、解るでしょ」
宮璃は言うと、不機嫌そうに口をへの字にしてそっぽを向く。
「だいたい、私だって小田さんが入部しただけでこんなに心配してるわけじゃないんだよ。そもそもイチニィ、小田さんのことどれくらい知ってる?」
「いや、あんまり……。まあ、どんな人間かって噂と、ここ数日一緒に過ごした感じくらい、だな」
宮璃の視線がオレの脇へ抜け、峰山さんに向けられる。オレも自然とそちらを向いた。 峰山さんは何やら宮璃に目で語りかけ、仕方なさそうな調子で話し始めた。
「私のとこにも今日先輩から回ってきたばっかの話なんだけど、肥田さんと高山さんがイチロのこと探してるってよ」
「ひだ……たかやま?」
「は?」
「いや、あれ?」
「肥田春菜と高山鉄。中学んときに小田さんとつるんでた奴らだよ」
「あ、ギャルとヤンキーの?」
「ああ、まあ。で、その二人がおまえのこと探してるんだと」
「なんで?」
「さあ。なんか怒らせるような事やったんじゃね?」
心当たりがない。けど自分が知らないあいだに、ヤバい状況になってることだけは解る。
「それでその、オレを探してる二人ってのはどんなヤツなんだ?」
「んー。ま、レジェンドって感じ?」
「うん?」
「ああ、すげぇ長いから色々すっ飛ばすと、小田さん入れた三人で、ここらで一番ヤバいグループを2年くらいかけて潰した。復讐で。こないだ」
いきなりヤンキー漫画の下手なまとめみたいな話を聞かされ、オレは困惑する。しかもそれだと、話の始まりは中学時代だろ。現実にそんなことあんの? あの泰成くんも? なんか部室で延々とパズルのピースはめてる印象しかないんだが。
オレの沈黙をどう受け取ったのか、峰山さんはまた口を開いた。
「ま、知らねぇのも無理ないか。私とほら、おまえら界隈が違ぇじゃん?」
何となく寂しいようなことを、けれどごく自然に言う峰山さん。
「峰ちゃん」
宮璃がたしなめるように言う。
「あ、悪い……。じゃねぇな。宮璃。あのな。おまえがどう思ってても、そういうのって本当にあんだよ。それをないことみたいにするってのは、そこにしか居場所ない奴らを、うーん。なんだ? 上手く言えねぇけど、あー。世界から切り捨てる? みたいな? まあ、そういう感じじゃねぇか? ないのと見えないのとは全然違うだろ」
珍しく宮璃をさとす峰山さん。その口調に責めるところはなく、むしろ温かく言い聞かせるような感じだ。
「……ごめん」
肩越しにしょげた宮璃の声がする。
「いや、気にすんな。寂しいこと言うなって、そういう気持ちだったんだろ? 自分との間にそんな線なんか引くなって、一緒に立ってるだろって。解ってるって。だからさ、私の気持ちも、解るよな?」
「…………うん」
なんだこの尊い流れ。まっとうな百合好き男子なら今すぐ人間であることを辞めて、慌ててそこらの壁に同化するような状況だ。ただ、おかげで完全に話を見失った。えーっと、なんだっけ。あ、そうだ。
「こないだ、ってひょっとして……」
「小田さん、停学喰らってたんだろ?」
なんだいたのか、みたいな顔で言うのやめて。さっきからずっと峰山さんの視界の中にいたはずなんだが?
「オレはてっきり、普通にキレて暴れたのかと……」
「この前のは違う。ハチグミのメンバーをボコったせい」
どうやらその、最悪のグループはハチグミと言うらしい。やっぱり聞いたことないな。
「整理すると、泰成くんは肥田さんと高山くんの復讐を長いこと手伝って、最後に大乱闘して停学。明けて今は郷土史研究会に入って大作パズルに挑む日々。……最後の所だけおかしくないか?」
「いや。復讐終わって刑も務めて、今は落ち着いた毎日なんだろ」
「なるほど。そう言われるとそんな気もしてくるな」
「とにかく」
宮璃が強い声で言う。
「これからしばらく、イチニィは大通りだけを通って帰って。で、ここの周りは人通り少ないから、私に電話して。絶対出られるように、学校出るときはまずLINEで教えて」
「わかった。約束する。オレだってレジェンド級のヤンキーに絡まれたくはない。ところで峰山さん、オレのことその先輩に話したりは──」
「してねぇよ。さすがに同居人売ったりはしないっしょ普通。そもそもおまえのこと、誰にも言ってねぇし。私がその話聞いたのはたまたまだよ」
その返事にオレはとりあえず安心する。
「なら良かった。……それで、その、頼みがあるんだけど。肥田さんと高山くんの写真、手に入るか?」
とりあえず顔が解ってれば避けやすいはずだ。
「あー。どうだろな。まあ、やってみてやる」
こうしてオレは七不思議創りに頭を悩ませ、泰成くんに気を取られ、1日ごとに着実に迫る帯洲先生とのエックスビデ……じゃなかったエックスデーに脅え、さらには理由も解らないままこっちをつけ狙う見知らぬヤンキーとギャルを警戒する日々を送ることになった。
なんかもう盛りだくさんすぎてお腹いっぱい。吐きそう。




