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第5の不思議︰スニークさん-05

 オレたちの記事もあとは書くだけになって、ようやく落ち着いた。まだ一文字も書いてないけど、ここまでまくれば書き終わったも同然。締切の前日に泣きながら徹夜すればいいんだろ?


 そんなわけでオレは開放的な気分で、久々に紳士同盟のボイチャ集会に参加していた。

 異性のことや動画のこと、どうやって親を迂回してスマホゲームのガチャを回すか。様々な議論がときに和やかに、ときに白熱して展開される。そんな中、オレは声を抑えてクールに振る舞っていた。だって大きい声出すと峰山さんが壁パンしてきて怖いんだもん。


「出たといえば、また出たらしいぞ」


 遠藤が思い出したように言った。


「何が?」

「スニークさんだよ」

「スニークさん?」


 初耳だった。


「誰だ?」

「新手の痴女だよ」


 西尾が言うと、遠藤が返す。


「その言い方だと前にも痴女がいたみたいじゃねぇか。……いなかった、よな? あれ? 俺だけ知らないとかない、よな? ひょっとして大変なものを知らずに過ごしてたりしないよな!? いや、でも、あれ?」


 自分で言ってて自分でパニックを起こす遠藤。安定のバカだ。


「幽霊だ」

「ゆっ!?」


 ドンッ!


 大森の言葉にオレは思わず叫び、壁パンが炸裂した。その反応速度よ。もしかして峰山さん、常時オレの部屋を気にしてんのか。それってもしかして……。いや、今はそれどころじゃない。


 みんなの説明によれば、しばらく前から校内で妙な現象が起きていた。自分以外誰もいないはずの廊下や教室で人の気配や息遣いがした。いきなり背後で走り去る足音がして、振り返っても誰もいない。無人の部屋へ入ると慌てて誰かが隠れるような音がして、でも探しても誰もいない。

 いつのまにかその物音はスニークさんと呼ばれるようになった。ゲームなんかだとスニークは敵から見つからないよう隠れたり、忍び寄ったりするプレイのことだ。


 話を聞きながら、オレはかなり動揺していた。足音だけが遠ざかるとか、宮華が前に断念したアイデアそのままじゃないか。


 その後の集会はうわの空だった。終わるとオレは、すぐに七不思議のメンバーを招集した。



 次の放課後。集まったのは宮華に日下さん、兎和。それに一応、メンバーではないけれど湯川さんにも来てもらった。

 オレはみんなにスニークさんのことを話した。話を聞くうち、全員の顔が青ざめていった。いや、湯川さんだけは特に変わらず、むしろこちらの話に身を乗り出して興味津々という様子だった。


「それで、みんなは何か知ってるか?」

「私は生徒会が忙しくて、このところ他のことは何も。学校側と仕事を押し付け合うのと、ゼロから文化祭の準備を進めるのとで手一杯。生徒会みんなで手分けしてるけど時間が全然足りない」


 よほどの疲労と心労があるんだろう。もともと細かった兎和は痩せやつれ、凄惨で鬼気迫るものがあった。


「湯川さんは?」

「私、ですか? いやぁ……なにも。はい。すみません。部誌とオカケンの締切が重なってて、休み時間もそれで」

「オカケン?」

「あの、あるんですよ。オカルトマーケットアンドカンファレンス。通称オカケン。同人誌やグッズを売ったり、講演とかディスカッションがあって。原口さんと同人誌を出すんです。いやほんと、申し訳ないですけど、アレなんで。はい」

「いや、いいんだ。ところで、前から気になってたんだけど、湯川さんてどうやって噂とか聞きつけてるんだ?」

「原口さん、ですね。はい。あとあの、聞こえてきたり」

「それは……他の生徒の話が聞こえてくるってことだよな?」


 湯川さんの場合、思念体の声とかいう可能性もなくはない。


「あ、はい。そうです。そう。耳は塞げないんで、あの、すみません。さすがに思念体の声とかじゃないです。ふひっ、ひっ」


 本人なりに冗談のつもりなんだろう。自分の言葉に自分で笑う湯川さん。一方のオレは思考を読まれたみたいで怖かった。


「犯人がいたとして、私たちのことを暴露する可能性は?」


 兎和の質問はその場の全員にとって避けられない疑問だ。兎和が言わなくても誰かが口にしていただろう。そう。犯人。人為的に怪談話を創ろうなんていう酔狂な人間がオたちの他にもいる、というんなら邪魔なだけで実害は低い、ヤバいのはオレたちのしていることを知っていて、何かの意図をもって今回のことを起こしている場合だ。


「その可能性は低いんじゃない?」


 宮華が答える。


「根拠は?」


 疲れているせいか生徒会モードがこんな感じで、それが抜けてないのか。兎和の声は固く、端的だ。


「もしバラすつもりなら、とっくにそうしてるはず。このところの噂話に便乗して誰かがいたずらしてるって可能性の方が高い。私たちを知らずにやってるなら、とりあえずは安全でしょう?」

「でも、前に宮華さんが考えて没にした案に似てるって話じゃない。誰かが私たちの情報を流してる可能性は?」

「それはないんじゃない?」


 日下さんだった。最初のころにくらべると、ずいぶん積極的に発言してくれるようになってきた。とか言うと先生みたいだな。


「宮華さんは発案者なんだから、よほど破滅願望でもないとそんなことしない。それに情報流して他人に七不思議をやらせるとして、ネタ被りなんてしないでしょう。鶴乃谷くんが私たちの話を立ち聴きして知っちゃったとしたら、他の人よりまず私たちに“僕は知ってるぞ”って言うの我慢できないと思う。兎和さんは鶴乃谷くんが所属している部活の不祥事なんて絶対に許さない。でしょう?」


 兎和はうなずく。


「私はここのみんな以外、生徒で知ってる人いないし、長屋くんにそんな度胸はない。ないよね?」

「それ、わざわざオレに同意させることで精神的に支配しようってつもりか?」

「気持ち悪い。あとは湯川さんだけど、湯川さんは……」


 言葉に詰まる日下さん。湯川さんは不安そうにオレたちを見た。


「それはないわ」


 宮華が断言した。ハッとする湯川さん。


「あと、えと、その、どうして?」

「話してれば解るよ」


 宮華は湯川さんを安心させるように微笑んだ。

 兎和は腕を組み、宮華に鋭い視線を投げた。


「なぜ? うっかり原口さんに喋ってしまうことだってあるかもしれない」

「それは──今ここでは言えないけれど、とにかくそれはない」


 目を見かわす宮華と兎和。先に目をそらしたのは兎和だった。


「ああ、なるほど。そういうことね」


 どういうことね?


「えあっと、すみません。あの、私」

「言わなくても大丈夫。大丈夫だから」

「でも、そのあの、全然たいしたことじゃないんで、日下さんたちに変に思われるのも、その……ごめんなさい」


 湯川さんは普段から“すみません”を連発する。でもそれは相手にそれ以上を言わせないため、コミュニケーションを拒むために言ってるようなところがある。けど今の“ごめんなさい”はたぶん本来の意味、宮華に申し訳なく思う気持ちだろう。


「もちろん、湯川さんが話したいならそれでいい。私はただ、無理してほしくなかっただけだから。謝らないで」


 少し前から思ってたけど宮華、湯川さんにめちゃくちゃ甘いよな。元々の性格で人付き合いが苦手なあたりが、他人とは思えないんだろうか。


 そして湯川さんは緊張でいつにも増して早口に喋りだした。


「えと、私、郷土史研究会に入ったことは言ったんですけど、宮華さんが同じ趣味って言ってなくて。言ったら原口さん会いたがるだろうし、原口さんいい子だから、話も面白いし、よく知ってるし、そうしたら宮華さんも原口さんのほうが仲良くなって、あの、きっとあっちのグループにも行ったりして、その、もう私とはあんまり話す時間も減って、その……はい」

「つまり、親友に宮華さんを取られないか心配なのね」


 兎和がまとめる。


「はい。あのちょっと……。ですね。はい」

「それで? 宮華さんはどうなの? 原口さんが接近してきたら、湯川さんが心配してるようなことになりそうなの?」


 すると宮華は渋い顔をした。あきらかに兎和は宮華のそのリアクションとか返事とかが解ってて言ってるだろこれ。そんなだから周りから距離置かれるんだぞ。兎和本人が気にしてないみたいだからいいけど。


「原口さんが悪いわけじゃないけど、私、原口さんとは合わないと思う。あー。うーん。ああいうグイグイくる人、苦手なんだよね……。それにあのグループもちょっと、派手、すぎるし、混ざったところで話す、こと、ない、し……」


 どんどん歯切れが悪くなる宮華。


「だから、原口さんに来られると困るというかなんというか」


 だろうなあ。あんな光の陽キャたちに混ざったら、宮華はストレスからの過呼吸でリアルにぶっ倒れかねない。


「あっ、大丈夫です。言わないので、っす」

「なら、二人ともそれが好都合。そういうことでいい? 他にも第三者がどうにかして私たちのことに気付いて、その上であんなことしてる可能性とかあるんだけど、その可能性はどう? 潰せる?」


 兎和は半ば強引に話を進めた。これだよ。いっつもそうなんだ。兎和呼ぶと結局コイツが全部いいように仕切るんだ。

 さっきからチラチラ時計気にしてるから、あとの予定が埋まってるのかもしれない。

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