ぜんぜん違う話の断片その03
二人の女学生がカラオケの個室にいる。他の部屋の賑わいが遠く聞こえる。二人は最初に注文したドリンクを前に並んで座っている。どちらも曲を入れていない。
「それで先輩、どうしたんですか急に」
先輩と呼ばれた方は、先日学校で起きた不思議な現象について話す。二人の生徒がそれぞれ放課後の部室で、存在しない生徒と会う話を。
「七不思議、ですね」
「そう。たぶん。何か、思っていたのとは違う形になったようだけど」
「どういうことです?」
そこで先輩は後輩に、自分が聞いた限りのことを喋る。それは存在しない生徒に会った本人から直接聞いたことだ。
「じゃあ、その存在しない男子と女子っていうのは……?」
後輩の問いかけに、先輩は肩をすくめる。
「ただ、この話には不思議な続きがあるの。私たちにとっては悪夢でしかない」
そして彼女はカバンから二重になった大きめのジップロックを取り出した。中に紙包や、何かの入った透明な小袋が見える。
「話を聞いたあとで、こっそり部室の中を調べてみたの。そうしたらこれが見つかった。机の中から。確認したらちょうど存在しない女子生徒がいた辺りの席だった。中身がなんなのかは解らないけれど、開けてニオイを嗅いだら火薬みたいな臭いがした。それと何かの薬品の臭い」
渡された方は顔の前にかざして、中をよく見る。確かに、小袋の中身は粉末だ。軽く振ってみるとカチャカチャ音がする。紙包の中にガラスの小瓶でも入ってるようだ。
視線を感じて見ると、先輩と目があった。どこか爬虫類めいた顔に、ひどく真剣な表情を浮かべている。
「不審な男女。同じ部屋から火薬と化学薬品。放火。犯人は内部生徒の単独犯って話じゃなかったの? その話だって根拠を教えてくれないおかげで、いまいち信じられないけれど」
後輩は首をかしげた。
「私だって教えてもらってないですよ。たぶん見守り隊の誰かがどこかから、事件当日の夜中とかにそれらしい人を見たんじゃないですか」
「頼りない話ね」
後輩は先輩をはげますように、笑みを浮かべた。
「先輩はこれまでみたいに、私のことも疑っててくれていいと思います。もし私がなにか全然違う目的のために利用されてるんだとしても、それなら先輩は大丈夫ですから」
「あなたも私も、“鶴乃谷”の引力からは逃れられない。ならどうあっても、片方は失われないようにするべき。そういうこと?」
「失われるだとか、そんな危ないことなんてないと思いますけどね」
言われた方は目をすうっと細める。
「あなたのそういうところが嫌いよ。狡猾な蛇みたい。どうしてみんながあなたを好きなのか、理解できない」
「私がズルい蛇だからじゃないですか?」
「まあ……そうね」
「それじゃ、これは誰か大人の隊員さんに渡しておきますね」
後輩は手にした袋を軽く振ってみせた。
 




