第3の不思議︰逆ラブ地蔵-01
6月も半ばを過ぎ、郷土史研究会は平穏な日々を過ごしていた。といってもオレが宮華に“宮璃が何か勘付きそうだ”と警告したから、ではなくて、宮華がスランプに陥っていたからだ。
宮華は七不思議創りにあたって前から色々な怪談本なんかを買いこんで研究し、自分なりにあれこれ七不思議候補や実現法を考えていた。
ただ、こうしていざ実際にやるとなるとなかなか詳細を詰めるのが難しかったり、あまり魅力的に思えなかったり、とにかく宮華の考えてたアイデアから1つの話を完成させて実現プランを練って、って部分だけでも簡単にはいかない。オレや日下さんも意見を言うけど、それでもなかなか形にならない。
さらに幽霊部員の幽霊以後、二つのチャレンジがあっけなく失敗した。
まずは人面犬。そう。あの人面犬だ。「ザ・人面犬」とかいう人面犬の再現ビデオ(!)映画で使われたとかいうマスクを宮華の叔父が持っているそうで、それを修復して神野家の愛犬、柴犬のチュウちゃんにかぶらせ目撃させようという案だったのだけれど……。
チュウちゃんがマスクを断固拒否したので断念。「ザ・人面犬」の犬はおとなしくそのマスクをかぶってたらしいんだけど、それはたぶんタレント犬として訓練してたからだろう。
これはオレも日下さんも内心で失敗するだろうと思っていたから、落ち込んだのは宮華だけだった。都市伝説の大物の一人、人面犬を星高七不思議に入れたかったらしい。ヒキコサンといい、宮華意外とミーハーなところがあるのかも。
次は放課後、誰もいない音楽室からピアノの音が聞こえてくるというもの。これは使ってない古いスマホにバッテリーつないで音楽室に隠し、タイマーで時間が来たらピアノ曲をアラームアプリで流す作戦だった。
手軽にできて、意外と上手く行くんじゃないかってオレたちは少し期待してたんだけど……あっさり見回りの教師にバレ、スマホは回収されてしまった。もちろん、怒られたくないから名乗り出てない。そのための古いスマホだ。
ただし、回収されたってことを知らずにその後二日間くらい、オレはセットした時間に確認しに行って無人の音楽室から流れる音楽を聴いてたんだけど……まあ、普通に考えて思い込みからくる幻聴だよな。凄いぞオレ。そういうことにしておこう。
というか、幽霊部員の幽霊といい、ひょっとしてこの世界は本当はガチの心霊現象アリアリなんだろうか。いやいやいや。ここでそんなオカルトの扉開いてる場合じゃない。
そんなわけで現在、宮華は手詰まりになっていた。
「思い切りが足りない!」
突然叫んで立ち上がる宮華。
「たとえば、ホッピングに乗ったおばあさんが時速100キロで学校の廊下を追ってくるとか、夜道を歩いてると急に話しかけられて、正しく答えないと異次元に連れてかれるとか。そういう思い切りがない、現実にできる範囲から考えちゃうからダメなんじゃない! 異次元てなに!? 連れてかれるってそれ誰が伝えられるの!? でも、そういうことを気にしない強さ! 何よりもインパクトを優先する割り切り! 私たちに足りないのはそれ! 出所したら空からカメラが降ってきて、その中に異次元からの伝言が録画されてるの!」
ウロウロと教室内を歩きながら大げさな身振り手振りで熱弁する宮華。オレと日下さんは顔を見合わせた。流石にコレはちょっとアレな感じだ。
「そういうの、小学生の怪談話じゃない?」
日下さんが落ち着いた声で尋ねる。さすがにもう、宮華と日下さんはお互い普通に話せるようになってた。
「そう! そうなの!」
勢いよく言うと、宮華はピタリと止まった。憂鬱そうに息を吐く。
「基本的に高校生だと怖い話っていうより、ジンクスとかおまじない、それかゴシップめいた噂話が多いんだよね……」
「っていうと?」
「体育祭の後夜祭、キャンプファイヤーで踊るときにどうしたこうした、みたいな。だからどうにも地味なんだよね」
「カップルになれるとか、そういうやつか……。そうだ。校内イベントで成立した浮かれたカップルのところには1週間後の夜中に兎和さんが来て、コンパスでぶっ刺してくるとかどうだ?」
「気持ちは解るけど兎和さんに失礼だし、でも方向性としてはそういうこと。そういうトガッたところから出発して──」
「私がどうしたの? 長屋君、私にコンパスで刺されたいのかしら?」
いきなり兎和が部室へ入ってきた。両手を広げた変なポーズのまま固まる宮華。ギリギリと首だけ回して兎和の方を向く。
「あ、あ、おぁ……しゅしょわ」
「よう。今日も来てくれてありがとな」
そう。メゲない宮華たちに頼まれ、今日もまたオレは兎和を部室へ呼んだのだ。これで4度目になる。けっこうな頻度だ。
「今日は……リポネージュのシュークリーム。相変わらずいいセレクトね。本当にご馳走になっていいの? そろそろ気が引けてきたんだけど」
「ああ、そうだな。気にしなくていいぞ。無理してやってるわけじゃない」
「そう? ではさっそく」
立ち尽くして硬直した宮華を放置して、シュークリームに手を伸ばす兎和。これまでたった3回しかちゃんと話してないけど、ハッキリ解ることがある。この人って冷酷なんだよ。冷淡かつ残酷。ドSと違って愛はない。なんなら人間性もあんまりない。ただ食欲だけはあるから餌付けは可能。
兎和を凝視して、少しでもおかしな動きを見せたら全力で逃げられるよう警戒しながら、日下さんが宮華に近づく。後ろからそっと両肩に手を回し、ゆっくり宮華を近くの椅子に誘導して座らせる。それから、そろりそろりと自分の席へ戻った。
兎和はシュークリーム食べながら、そんな二人を興味なさそうに眺めてる。虫だ。これは虫を見るような目だ。
「いいかげん、そこまで私を恐れないでくれるとありがたいんだけれど」
ガクガクと頭を振ってうなずく二人。
「いやぁ、未だにウチの女子二人が兎和さんを招いてるのはけっこうメンタル強いと思うぞ」
「そうかしら? そんなトラウマ級のこと、してないと思うのだけれど?」
「最小の手数で心臓えぐるようなこと言ってるだろ」
「そんなつもりはなかったんだけれど、それは残念。きっとお二人は繊細で平均よりも傷つきやすいのね。それでは人間関係も大変なんじゃないの?」
ほら、これ。これだよ。的確かつ執拗に弱点を攻めてくる。かと思うと突如オレの方を見てめっちゃ困り顔をして、
「ホントにこれ、大丈夫? いくら訓練って言っても、ちょっとヒドすぎない?」
と自分で言って分断工作を仕掛けてくる。そんなふうに接されたら、オレそっち陣営に入りたくなっちゃうじゃん。申請兎和兎和帝国。
「んー。本当にダメならあの二人も呼ぼうとしなくなる、んじゃないか。さすがに」
「理解できないわ……」
ため息交じりに小声で言う兎和。否定しづらい。
「あなたも友達ならあの二人に引導……じゃなくて、あまり無理はするなと言ってあげた方がいいんじゃないの?」
「いや、オレは、その、二人の意思を尊重していく方針なんだ」
それに、圭人から兎和さんのこと頼まれてるしな。心のなかで付け加える。




