第2の不思議︰幽霊部員の幽霊-07
圭人は本当に幽霊部員になるつもりみたいで、入部初日からもう来てない。帯洲先生がウキウキで様子を見に来たけれど、圭人は生徒会が忙しくて基本的に来ないことを伝えたらすぐに帰っていった。
宮華は昨日、帰宅してから「幽霊部員の幽霊」についてずっと考えてたとかで、今日の部活はその検討会ということになった。
「すごくオーソドックスでシンプルな話にしてみた」
宮華はそう言うと、オレと日下さんにプリントアウトした紙を配った。
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・幽霊部員の幽霊
とある中学校に仲の良い二人の女子、KさんとJさんがいた。二人は同じ高校に進学して同じ部活に入ろうと約束していた。ところがJさんは中3の夏前に急病で死んでしまう。死ぬ間際、彼女は「高校に行ったら、○○部で待っててね」とKさんに言い残した。しかし、何部と言っていたのかは誰にも聞き取れなかった。
Kさんは星高に進学したが親友の遺言が不気味で、けっきょくどこの部活にも入っていない。
けれど、そんなことを知らないJさんの幽霊は、今もKさんを探してあちこちの部活をさまよっている。
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「どう?」
「これ部活をさまよってるってのは、具体的にはどうなってるんだ?」
「そこはあえて作らないようにして想像の余地を残しておいた。どうなるのか曖昧な方が怖いでしょ?」
「なるほど……」
「なに?」
「オレは普通に怖いこと書いてあったほうが怖いと思って。想像って言っても、オレみたいなのはそんな怖いことなんて思いつかないから」
馬鹿にされるかと思いきや、宮華は腕を組んで考え込んだ。
「なるほど。怪談や恐怖小説なんかだと想像の余地を残すことが大事だなんて言うけれど、たしかに怖い何かを想像するにも、それなりの予備知識やセンスが必要だもんね。普通の人にとっては厳しい丸投げでしかないのかもしれない……」
「そんな重く取らなくてもいいぞ」
「いいえ。普通の人の意見は重要。ちなみに、その、日下さんは、どう?」
少し緊張しながら尋ねる宮華。一方の日下さんもかなり緊張してる。
「え、私? 私は、こういうの、考えられるだけでも宮華さん凄いって。あぁ、それは関係ない、かな。ごめん。どうやったら会うのか、会ったらどうなるのか、書いてない方がどうなるか考えて、印象に残ると思う」
起伏の少ない、だるそうとも取れる口調だけれど、日下さんなりに精一杯、自分の意見を言ってくれてるのは感じられた。
「それはあるな。怖いかどうかは別で、答えっていうか、全部書いてある方が納得して記憶に残りにくいかも」
「……じゃあ、この話はこのままで」
「いい気がしてきた。簡単で憶えやすいし」
日下さんもうなずく。
「それで、あの、これ、どうするの? あ、つまりどうやって」
「あ、うん。それは今から、あの、えー、説明しても、する、させて、するから」
オレを責めるときは二人ともスムーズに会話できてるのに、なんで普段はこんな緊張して噛みまくるのか。まあ、お互い自分から話しかけられるようになってるから、これでもずいぶん進歩してるけど。
そんなわけで、オレたちは宮華に作戦を説明された。
「上手くいくか?」
オレの第一印象はそれだった。日下さんも気乗りしなさそうな顔してる。
「信じ込ませる必要はないでしょ。面白い偶然くらいに思って、セットで人に話す気にさえなってくれれば」
日下さんが何か言いたそうにしてる。宮華にも見えてるはずなのに声掛けないのは無視してるんじゃなくて、緊張してるんだろうな。
日下さんも宮華にネガティブな意見なんてそうそう言えないだろうし。
さてさて二人ともどうするんだろう。そんなことを思って見守るオレ。そう、ツッコミキャラは卒業し、オレは見守りキャラとして今後はのんびり過ごさせてもらうつもりだ。
どうしてもボケとツッコミが必要なら、宮華と日下さんのあいだで自然と役割分担されるんじゃないの? この世界が百合姫掲載作品だって知ってるんだぜ……疲れてんのかな、オレ。
フワッと脳裏へ帯洲先生の顔が浮かんだ。あー。やっぱ疲れてるな。ん? なんだろう。なにか引っ掛かる。帯洲先生がらみで何かあったっけ。
目の前では二人のストレスゲージが溜まってくのが見えるようだった。マックスになるとそれぞれ固有スキルが発動する。宮華は、えーと、どんなスキルにしようかな……。ん? ストレス、ゲージ、だと?
ヤバいヤバい。もし言いたいこと言えない気疲れが原因で日下さんがスクーリング辞めちゃったらシャレにならない。脳内の帯洲先生はいい笑顔でうなずいてんじゃねぇよ。このことかよ。呑気に固有スキルとか考えてる場合じゃなかった。
とりあえず日下さんの言いたいことを代わりに言ってストレスゲージ下げてやらなきゃ。えーと、なんだろ……。
「オマエの言うとおりにしたら、日下さんもう部活来られなくなるんじゃないか? まさかそれでもいいなんて思ってないだろうな?
「は? そんなわけないでしょ」
即座に否定する宮華。いいぞいいぞ。チラ見したら、日下さんは少し安心した様子だった。
「上手く行ったかどうかハッキリしたタイミングで日下さんを鶴乃谷君に紹介して、イチロが親しくなろうとして仕掛けたドッキリだったって言えばいいんじゃない? その時点で噂が広まってればわざわざ鶴乃谷君も否定して回ったりはできないでしょ。なんなら、私と日下さんはあなたに脅されて仕方なく手伝わされてたってことにしたら角も立たないし」
「いやそれ、オレと鶴乃谷が微妙な感じになるだろ」
「それくらい乗り越えられるって。男同士でしょ?」
「それ、セクハラだからな!」
「あーっ。これだからセクハラ厨は」
「なんだよその厨」
日下さんの表情がさっきより柔らかくなってる。どうやら危険な状態からは抜け出せたみたいだ。
「そもそも日下さんで大丈夫なのか? 肝心なところで喋れなかったりしたら計画が無駄になるぞ」
オレは日下さんのヤル気を探るため、わざと疑問をぶつけて煽る。
「そんなのダイジョ……」
大丈夫、と言おうとして言葉に詰まる宮華。信じてるって意味で大丈夫って言っていいのか、そう言うとプレッシャーにならないか、などなど色んな考えが一気に浮かんでフリーズしたんだろう。
「大丈夫。それくらいなら流石にやれる、と、思う」
「本当かぁ? ダメそうだと思ったらすぐ言えよ。失敗されたら、どうせオレが尻拭いさせられるんだろうからな。そんなら何もしないうちに辞めてもらったほうがいい」
すると、日下さんは鼻で笑った。
「わざと感じ悪い言い方で逃げ道用意するオレカッコいい、みたいなの気持ち悪いから辞めたほうがいいよ」
ほほう。そうくるか。いいだろう。後悔させてやろうじゃないか。さすがに温厚なオレもガマンの限界だ。
オレはわざとらしく、大きくため息をついた。
「あのな。ちょっといいか? 日下さんも宮華もなんでそんなオレに当たりキツイんだ? イジメ、そう、これもうイジメだろ。ちょっと今から二人から投げられた心無い言葉をツイッターで晒してもいいか? 世に問おう。な? あと、なんでそんなときだけやたら流暢に喋れるんだよ」
とたんに固まる宮華と日下さん。
「な、そ、まあ、その……やだ、ちょっと。私とイチロのゼロ歳からの長い付き合いだと、たしかに他の人から見たら言い過ぎくらいに見えて驚いちゃうような言葉が一部にあったかも。でも、特別そういうところだけ抜き出してもねぇ? 前後の発言とか私たちの関係の前提とかがないと誤解されちゃうというか……」
「私も長屋君の優しさとか、話しやすさについ甘えちゃった部分があるかもしれない。決して悪気はないからね。むしろ親しみしかない」
目をそらし、嫌な汗を浮かべる二人。単語の一つ一つから動揺が感じられますね。まさかここまで二人が追い詰められるとは思ってなかった。そんなにやましさがあったとか、ちょっと引く。
オレは日頃の恨みを晴らすべく、気が済むまで二人のことをそのまま放置した。それから、もう充分だろうというところで口を開く。
「まあいいや。とにかくオレは鶴乃谷を部活に誘えばいいんだな?」
まだ動揺を隠しきれない様子でうなずく二人。なんだかんだ言って、仲良し三人組です。本当だぜ!




