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病的に人見知りな幼なじみと七不思議を創ります。  作者: ナカネグロ
第2の不思議:幽霊部員の幽霊
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第2の不思議︰幽霊部員の幽霊-05

 鶴乃谷圭人つるのだにけいとはその名字のとおり、ここ鶴乃谷つるのやを古くから支配してきた鶴乃谷家の一人だ。鶴乃谷家はもともと、この辺り一帯の土地を支配していた豪族だかにまで遡るそうで、今も一族であちこちに土地不動産を所有してたり、あれこれ事業をしてるらしい。


 ちなみにこれ、オレによる補足ではなく、圭人の自己紹介のイントロなので許してほしい。そもそも自己紹介で一族の話から入るって、なんかもうその時点で軽い地雷臭がしてる。


 でまあ、とにかく圭人の家は当主争いなんかに参加できるほどではないけどそこまで傍系でもなく、実績を出すなり一族内の権力者に気に入られれば、所有する各種事業のどこかで役員は狙える程度の家柄なんだそうな。


 この現代の、それも車で下道1時間半、電車なら急行1時間くらいで都心に出るような土地での話とは思えないけれど、事実だ。

 鶴乃谷一族のことは昔からここに住んでる人ならたいてい知ってるし、地方選挙なんかでは必ず一人くらい鶴乃谷って候補者が出てる。で、たぶん当選してる。たしか鶴乃谷記念総合病院も鶴乃谷一族のなんかだったはずだし、幼稚園もなんかそんな話を聞いたような気がするし、この前亡くなった近所の婆さんは若い頃、鶴乃谷なんちゃらの愛人だったらしい。

 昨日、オレが圭人の名前を聞いて権力ある方の生徒会かもって思ったのだって、鶴乃谷一族を知ってるからだ。


 とまあ、本人よりオレの補足の方が長くなってしまったけど、そんな鶴乃谷一族の中で圭人はのし上がりたい、自分の家のポジションで可能な限り出世したいと考えている。──どこの鶴乃谷家かによって、どの程度まで行けるか基本は決まってるらしいですよ? 


「この学校が開校すると決まったとき、いろいろな付き合いやしがらみで一族からも誰かを受験させることになった。といっても、年齢的に条件にあうのは僕を含め3人。その中で──」


 と、なぜかそこで圭人は言葉を切った。


「とにかく、僕が受験することになった。創設1年目の学校だ。実績を残すチャンスはよそより多い。中間テストの成績も悪くなかったし1年目で生徒会長、このまま3年間続けられれば、卒業する頃には今後の生徒会の在り方の基礎を作ったという評価も得られるだろう。聞いた話だとそれなりに良い大学の推薦枠も集まりそうな見通しらしい」

「悪い、鶴乃谷。ウチの部活に入りたい理由って、結局?」


 自慢話ならよそでやれ、と言わなかった自制心よ。そしてバッテリーがあと10パーセント。


「部活に入ればさらに評価は高まる。けれど、忙しい部活で勉強や生徒会活動の時間を削りたくない。あと、成果が曖昧な部活がいい」

「そういうのは他にもあるだろ」

「今の当主、つまり大叔父の趣味が郷土史研究なんだ」


 オレはとっさに口を押え、体に力をこめる。ヤバい。なんかツボった。どういう理由かと思ったら必死で細かい点数稼ごうとしてただけっていうのが、こう、クるものがある。


「……ック……。フふフっ」


 抑えきれない笑い声が少しだけ漏れる。そんなオレを宮華たちが不思議そうに見てる。


「どうした?」

「ンンっ。いや、なんでも、ない」

「そうか? とにかくそういうわけで、できれば郷土史研究会に入らせてもらいたい。今の理由で、僕が入部しても参加はしないというか、できないというか、とにかくそういう立場なのは解ってもらえたと思う。それに、そちらは部員数と僕の分の予算が手に入る。それと、僕は生徒会長だ。まだ会長職の地位や権力がどの程度になるかは不確かだけれど、いまのところ会長が入っている部というだけでも教師連中の印象にはプラスだろう。つまり、これはお互いにとっていい提案なんだ」


 なるほど。評価と点数稼ぎのために所属だけしたいってのは理由として理解しやすい。これなら入部してもらってもいいんじゃないだろうか。


 オレは宮華と日下さんの様子を見た。宮華はさっきから真剣な顔でノートに何やらメモっている。日下さんは頬づえをついて、少し退屈そうに圭人の話を聞いていた。スマホのバッテリー残量はいよいよなくなりそうだ。


「理由は分かった。うーん。ちょっと宮華の意見聞いてもいいか? また連絡する」

「解った。じゃあ、待ってるぞ。宮華さんも、聞いてくれてありがとう。」


 通話が切れた。


「で、どう思う?」

「うーん。今の話が本当で部活にも来る気がないんなら、反対する理由はないね。郷土史研究会の活動自体は私たちもダミーでしかないわけだし」


 宮華の言葉に日下さんもうなずいた。


「無理に反対したら、何かあるんじゃないかって変に疑われる。いっそ入部させて、忘れてもらってたほうが、安全、かも」

「それに、こうやって時々通話して少しずつ慣れていけば、そのうち対面でも平気になるかもしれないし。あ! あー、でも……」

「ん? どうした?」


 宮華は通話中、ずっと何か書き込んでたノートをオレに向けた。


「これ、さっき話を聞きながらひらめいたアイデアを書いてたんだけど。幽霊部員の幽霊って言ってね」

「おまえ、ずっとそれ考えてたのか」

「アイデアが湧いてきたし、鶴乃谷君の話は退屈だったから。次の七不思議をどうしようか、ずっと悩んでたの」

「てっきり鶴乃谷の話をメモってるのかと思った」

「そんなのメモしてもしょうがないでしょ。で、その幽霊部員の幽霊ってアイデア、細かいところはまだこれからだけど、基本的には鶴乃谷君が部室に来て、幽霊役の日下さんと会うっていう流れなの」

「それ、ネタばらしなしなのか?」

「ネタばらし?」

「本当に幽霊に会ったって思わせるのかってことだ」

「もちろん」

「それは難しすぎじゃないか? ──じゃなくて、オマエの漠然とした思いつきについては今度話そう。とりあえず、鶴乃谷は入部させてもいいんだな?」


 オレの言葉に、二人は顔を見合わせた。


「「うーん」」


 揃って首をひねる。キミらこのところシンクロ率高いな。ハモったことに気づいて、揃って照れてるし。やっぱこの世界、実は百合アンソロなんじゃないか? しかも4コマ。


「どうした? 何が気になる?」

「気になることはないし、もし本当に“幽霊部員の幽霊”やるなら、むしろ入部してもらいたいんだけど……ね?」

「本当に入るなら、ちょっと、心の準備が」


 もじもじプチプチと煮えきらないことを言う宮華たち。オレは何も言わないよう、ひたすら耐えた。彼女たちの意思を尊重したかったし、決断するという経験の積み重ねが二人の人間関係に対する自信へつながると思うからだ。決してうかつなことを言って、責任取りたくないからではない。



 それぞれ自分の内なる葛藤と戦っているのか、宮華も日下さんも黙って動かなくなった。5分経過……10分経過……。スマホが音もなく、バッテリー切れでそっと落ちた。

 ここらで二人のために何か言うのがラノベ主人公。だがオレはそうじゃない。気配を殺して二人の様子を窺う。


 ふと、宮華がオレを見た。


「イチロはどうなの?」

「え? あ? オレ?」


 そっかしまった。二人の硬直時間を利用してこの場を立ち去ってなきゃいけなかったのか。


「オレは、どっちでも。二人に合わせる」

「じゃあ、私は部長に判断をゆだねる」

「あ、私もそれで」


 沈黙が広がる。


「いやいやいや。オレの委ねた二人がオレに委ねるって、それじゃ決定権がお互いを循環するだけで答えが出ないだろ」

「私たちに任せてくれるっていうんなら、私たちの部長判断に従うって決定に従ってどうするか決定してよ」


 無言で圧を送り合うオレたち。二対一でオレがやや不利だ。


「……あー、すまん。委ねるのを任せるから従って決定して決定する? なんか話がややこしくて理解できない」


 突然理解力がバカになるオレ。さあ、どうする?


「「は?」」

「よしじゃあ、入部を許可しよう」


 いや、あの、これはぜひ体験してほしいんですけど、異性から急に素でキレられると軽くでもけっこう怖い。と存在しない脳内の誰かに語りかける程度には怖い。というわけで即決してみた。


 そりゃ別に、実際これで何か大きな問題が起きるとか、責任を取って重い罪を償わなきゃいけなくなるとか、そんなことはまずないと思う。

 けど、やっぱり責任なんてできるだけ回避して生きていきたいわけで、気分的にはけっこう厭だ。不快です、不快。気持ち悪い。生理的嫌悪。いやそれは言い過ぎか。


「部長がそう言うんなら」

「長屋君の判断に任せるって決めたんだから、従う……」

「え? なにその急に断って欲しかったの匂わしだす感じは!?」

「うーん。精神的に優位に立とうかと」

「なぜ今このタイミングなんだ」


 こうして、郷土史研究会に鶴乃谷圭人が加わった。


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