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親代わり

 朔夜(さくや)は畳に胡坐(あぐら)()いて座り、その上に(せつ)を乗せた。片手につげの(くし)を持ち、雪の銀色の髪を丁寧に()かしていく。


『親代わりに世話をする』という宣言通り、朔夜は雪の世話を何から何までやりたがった。


 断ると、雪は幼子だから従うようにと言いくるめて(ゆず)らない。

 流石に風呂までついてきて体や髪を洗うと言われたときは、衝撃(しょうげき)すぎて走って逃げてしまった。

 すぐに(つか)まり()き伏せられたが、流石にそこは譲れなくて泣いて頼んで断った。

 そのやり取りを見かねた鈴が助け船を出してくれた。

 今は何とか()れた髪を手ぬぐいで拭ってもらう所で落ち着いたが、それだって雪には()(がた)かった。


 (本当に幼子の世話を焼いているみたいだ)


「鬼の寿命は人より長い。雪の言う十四歳は人の世の成人の話だよ。雪はまだ幼子なんだ」


 一通り梳かして満足したのか、朔夜は櫛を机に置いた。ならばもういいか、と膝の上から降りようとすれば、腰に手を回されて固定されてしまった。


 するすると髪を()でられて、角に唇を当てられる。


「-っ!」


 朔夜はことあるごとに、雪の角に触れる。

 雪はこれが苦手だった。角に触られるとゾクゾクと背中を()うような感覚が走るのだ。


「鬼の角は妖力(ようりょく)の象徴だから、無闇(むやみ)に他人に触らせてはいけないよ」


「なら、旦那様はどうして触れるのですか?」

 出来れば止めて欲しいと言いたげに(たず)ねる。


「私は親代わりで、将来の伴侶(はんりょ)だから良いんだよ。私以外には触らせてはいけないよ」


 そう言うと、朔夜は雪の角をはむはむと甘噛(あまがみ)みしている。

 見えないけど感触で分かる。

 雪は目を瞑りギュッと身を縮めて、この(たわむ)れをやり過ごすのだった。


 □□□


 日々は穏やかに過ぎていき、山桜が咲き菜の花が黄色い花をつけている。見渡す景色の色が賑やかになってきた頃、雪の体に変化が訪れた。


「お腹が空かない」


 代わりに毎日のように朔夜に連れられて山や川や原っぱを歩いて回った。

 川は大きな岩がゴロゴロとあり、その上に寝そべって日向ぼっこをするとポカポカと体に養分が流れ込んでくる。

 道端には、(ふき)(とう)筑紫(つくし)(すみれ)蓮華(れんげ)が所々に咲いていて目を楽しませてくれる。


「取り尽くしてはいけないよ。必要な分だけ分けて貰うんだ」


 朔夜は雪に、山の歩き方、付き合い方を教えてくれた。

 それは雪が知らなかった鬼の暮らし方だった。


「みな一つの器の上に住んでいるようなものだ。

 そこに住む鬼の心が凪いでいれば、その土地は荒れること無く穏やかになる。

 荒れ狂えば土地が荒れる。雨が降り山は崩れ川が決壊する。その土地には住めなくなってしまう。

 慈しみ、愛して、穏やかに過ごすこと」


 朔夜の話は、雪の心にスルスルと入っていった。


 朔夜と穏やかに過ごすことは、長い間傷ついた雪の心をゆっくりと(いや)していった。 


 □□□


 日の入りと共に床に入るべく、雪は寝間着(ねまき)に着替えて準備をしていた。

 手元が暗くなったので机に置いてある蝋燭(ろうそく)鬼火(おにび)を灯す。


 ふわりと宿る青白い炎は、雪が昔使っていた炎の色と異なっており全くの別物だった。

 里に来て過ごすうちに、雪はささやかな妖力を使えるようになっていた。


 蝋燭を持ち、自室から朔夜の寝所へ移動すべく廊下へ出る。

 朔夜が幼子は親に添い寝してもらうものだと言うので、雪は朔夜と同じ部屋で寝起きしている。

 何とか頼んで布団は別々にしてもらったが、渋っていたので一つの布団で添い寝する気だったことが伺える。


 長く一人で過ごすことに慣れた雪にとって、朔夜の行動は(わずら)わしくもあり、心地よくもあった。


 雪は母の顔を知らない。父は物心つく頃には余所余所(よそよそ)しかった記憶しか無い。

 だから朔夜の真っ直ぐな好意の一つ一つを受け取ることに戸惑ってしまう。

 けれど自分がここに来た経緯(けいい)を思えば、朔夜の意志に従うのが正しいことのように思えた。


「失礼します」


 朔夜の部屋に入ると、既に布団が敷かれており朔夜が胡座を掻いて座っていた。


 雪の布団をめくり、早く入るように(うなが)す。

 蝋燭を置いて布団に滑り込むと、朔夜が布団を掛けてくれる。


「足が冷たいな」


 そう言って雪の足を握り温めてくれる。朔夜と居ると雪は何もしなくても過ごせてしまう。

 まるで赤子になった気分だった。

 じっと朔夜を見つめると、ふわりと微笑(ほほえ)みもう片方の手で雪の頭を撫でてくれる。


「今日は冷えるな」


 そう言って朔夜は雪の布団に入り、自分の足で雪の足を温め始めた。初めてされた時は、驚いて布団から飛び出してしまったが慣れとは怖いものだ。

 朔夜の体で温められて、雪はすやすやと寝息を立て眠ってしまった。

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