初恋を追いかける
完結です。
柔らかい風が通り過ぎ、薄がゆらゆらと揺れる。遠くの丘には、所々に赤く彼岸花が咲いていた。
雪は目の前の女の人に、一緒に行こうと誘われていた。見たことのない着物に煌びやかな冠を頭に載せている。遠くに似たような姿の人達が何人か立っていて、さらに船の上に立派な屋敷のある乗り物が見える。あれに乗るのだろうか。少し考えて、それも悪くないように思った。
「でも、最後に旦那様が泣いてたんです。私は笑顔が見たかったのに」
「実は、お父様が冬になったら雪でかまくらを作ってくれると約束したんです。というか、作るから見せたいと言ってました」
「お祖母様が、新しい着物を仕立ててくれて、まだ袖を通してないものも沢山あるんです」
「お爺様に領地を案内して貰ってる途中でした」
「龍神様に、ちゃんと思いを伝えたことを報告しないといけません」
むぅ。と雪は眉根を寄せる。
何だか、やることが沢山あるではないか。急いで帰らないと。
「なので、やっぱり帰ります!」
元気よく挨拶して、雪はにっこり笑って駆け出した。
□□□
雪が目を覚ますと、朔夜が心配そうな顔をして覗き込んでいた。
「ただいま戻りました。旦那様」
朔夜は口元に手を当てて、泣き出してしまう。
(おかしいなぁ。笑顔が見たいのに)
にこりと笑ってみたら、さらに泣かれてしまった。
「っ。良かっ、た」
朔夜は涙が収まると、雪の頭をゆっくり撫でてくれた。うっとりと目を閉じて堪能する。そろそろと布団から手を出して朔夜の着物を握れば、反対の手で優しく包んでくれた。
そうして、雪と朔夜はずっと見つめ合って長い時間を過ごした。
□□□
「「「「気が付いたなら、何で教えない!!!」」」」
朔夜の屋敷に詰めていた祖父母と白夜と龍神は怒っていた。
雪の意識が戻るのを、ずっと心配して待っていたのに独占欲丸出しの朔夜に看病を取られた結果、まったく知らされず放置されていた。
起き上がれるようになった雪が厠へ行こうと、歩いて皆の居る部屋の前を通ったことで発覚したのだ。
今、目の前で朔夜は祖父母と白夜に怒られている。
本人が聞き流すものだから、余計に激しくなって終わらない。今は雪の看病ではなく昔の悪戯話を持ち出されて責められている。
それを眺めている間、龍神が雪の顔をじっと見つめている。穴が空きそうなほど見られて、正直居心地が悪い。
「龍神様、何でしょうか?」
「いや、いい顔になったな、と思っておるとこだ」
「それは、この髪ですか?火傷のことですか?」
雪の髪は焼けて縮れたので、肩の上で切り揃えられていた。顔は所々火傷している。朔夜の作った薬で痕は残らず治るそうだが、まだ痛々しい。
むぅと眉根を寄せると、龍神は首を振る。
「そうじゃない。まぁ、長生きしそうな顔。とでも言っておこう」
雪にはよく分からなかった。
「雪、体に障るといけないから、もう床に戻れ。我も川に帰る」
そう言うと、龍神は部屋から出て行った。それを見送って雪も部屋に戻ることにした。
布団に入ると別室の喧騒が微かに聞こえてくる。それを聞きながらウトウトと目を瞑る。
(明日は、旦那様と何をしようかな)
鬼の娘は、初恋の旦那様を思って眠りについた。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )❤︎
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