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鬼の娘は初恋を追いかける  作者: 咲倉 未来


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我慢

 日が暮れても、白夜(びゃくや)朔夜(さくや)(せつ)を迎えに来てくれなかった。

「こんなに暗いと、屋敷まで帰れないかも」

 初めての道で、二人に着いていくだけで精一杯だった雪は、道を覚える余裕が無かった。


 きっと先に帰っていると思ったのだろう。

「今日は泊めて貰って、明日帰ろう」

 長の家では図々しいお願いになるが、自分は長の孫なのだから許して欲しい。


 部屋にある箪笥の中身を確認していると、廊下が軋んで人の気配がした。


「雪、おじぃちゃんだ。少しいいかな?」


 はい、と返事をすると長が襖を開けて入ってきた。


「今日は遅いから泊まって行きなさい。それと少し話したいことがある」


「はい。では此方に」

 部屋に備えてあった座布団を出すと、二人向き合う形で座る。


「さて、何から話そうかな。雪は里の外れに妹の希代(きよ)が住んでいるのは知ってるのかな?」


「―っ!」

 いきなり希代の話をされて戸惑った。知ってはいるが、こっそり会いに行ったことが後ろめたかった。


「あの。その。以前、気配を辿って、見に行ってしまって」


「知っているならいいよ。なら希代の体のことから話そうかな。希代の体は長く生きられない。心も(わずら)ってしまっていてね、今も薬で落ち着かせているところだ。感情が高ぶってしまうと夜叉(やしゃ)になってしまうから、穏やかに過ごせるように白夜が付き添っているんだよ」 


 夜叉は、鬼が感情に飲み込まれると変わってしまう姿だ。我を忘れ攻撃的になり、見境無く周囲を傷つける。不治の病とされていて、一度夜叉になれば戻ることは無い。


「今日、白夜と朔夜と話をしてね。出来るだけ希代が残り短い生を穏やかに全うできるように、と決まったんだ。申し訳ないけど雪も協力して欲しい」


「申し訳ないだなんて。あの、希代は私の妹です。会いに行った時は檻に捕らわれていて、不憫(ふびん)でした。出来ることがあれば協力します」


「ありがとう。それでね、暫くはこの屋敷に滞在してもらう事になった。あと、申し訳ないけど雪が朔夜の元に嫁ぐなら、希代が亡くなってからになりそうなんだ」


 思ってもみなかったお願いに、雪は言葉に詰まった。

 希代を心配したのは本心だったが、まさかその為に、そんな事を我慢するなんて思わなかった。


 返事の無い雪を、長は心配した。


「ごめんね、雪。少しだけ我慢して欲しい」


「希代が、朔夜様のお嫁さんに、なるのでしょうか」


「それは。わからない」


「そう、ですか」


 雪は項垂(うなだ)れて、気付いた時には部屋に一人で座っていた。


 □□□ 


 真新しい布団の中で、中々寝付けずに雪は寝返りを打つ。


 先ほどの長の話を思い出し、何とも言えない感情を持て余していた。よく考えてみると、思っていたよりも悪い話では無い気もしていた。


(だって、今すぐ嫁げないと言われただけで、何年か後、希代が亡くなったらと言われただけだし。それも仕方ない事情があっての事だし)


 振られたわけでは無いから、龍神も迎えに来なかったのだろう。


(待てば手に入るなら、大事な物を手放さずに済んだことになるのかな?でも、旦那様の傍に希代がいたら、きっと雪の事など忘れてしまう気がする)


 それは雪の望まないことだった。


(きっと、お嫁に行くだけじゃ足りないんだ)

雪はぼんやりと朔夜を思い浮かべた。優しく笑いかけてくれる彼の手が目の前に見えた気がして、手を伸ばす。


ーーー 手をつないで欲しい。

 ずっと一緒に過ごしたい。

 隣で声を聞かせてほしい。

 あなたの瞳に映るのは自分だけであって欲しい。

 他の人に心を割かないで欲しい。

 雪のことを忘れないで欲しい。


 溢れた思いに心がぎゅっと締め付けられて、涙が零れる。


(我慢、できるかな)


 自信は無かった。


 でも、昔はいっぱい我慢していたのだ。

 心を冷やして固くすればいい。

 これ以上、傷つかないように。

 これ以上、感じないように。


 雪は自分に言い聞かせながら、目を瞑った。

雪は希代に嫌われてることを知っているし、苦手に思ってます。

でも、自分の妹が辛い目に合っていれば心配になるし怒れてしまう。


自分と関わらず、どこか遠くで幸せになって欲しい存在なんですね。

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