師匠とボス戦
レベルを上げている途中で、俺はもう一つ気になることに気づいた。
「お前たち、ボーナスポイントは振っているか?」
「ボーナスポイント……ですか?」
また、この反応だった。
どうやら三人とも知らないらしい。
この世界では、職業ごとにレベルが上がると固定の能力値が上昇する。
それとは別に、自由に振り分けられるボーナスポイントも存在していた。
ただし、ボーナスポイントを振るには自分のステータス画面を開かなければならない。
そして、この三人はステータス画面を開くことができない。
それなら、ボーナスポイントの存在を知らなくても無理はない。
「ボーナスポイントって、何に使うんですか?」
「能力値を好きに上げられる」
「そんなものが……」
俺は三人のボーナスポイントを確認し、火力に全振りする。
すると、次に遭遇した魔物との戦闘で明らかな変化が出た。
「……え?」
剣士の一撃で魔物が大きく吹き飛ぶ。
盗賊も以前とは比べ物にならない威力で攻撃を叩き込んだ。
雑魚敵が、まるで相手にならない。
「強い……」
「こんなに簡単に倒せるのか」
俺としてはゲームでは当たり前の育成方法だった。
だが、三人にとっては初めての経験だったらしい。
「師匠……」
「ん?」
「これ、全部師匠のおかげですよね?」
「まあ、そうだな」
「ありがとうございます、師匠!」
「師匠!」
「……師匠?」
なぜか、それ以降三人から師匠と呼ばれるようになった。
別に弟子を取った覚えはない。
だが、訂正するのも面倒なので、そのままにしておいた。
戦力は十分に整った。
パーティーの経験値は均等に配分されている。
ボーナスポイントも振り終えた。
そして、雑魚敵との戦闘を繰り返すことで連携も磨かれている。
これならボスに挑んでも問題ない。
「そろそろボスに挑むぞ」
「はい、師匠!」
俺たちはボス部屋へ向かった。
ボスとの戦闘は安定していた。
剣士が正面からボスを抑え、盗賊が側面から攻撃する。
神官は二人の状態を見ながら回復を行い、俺はバフとデバフを維持する。
雑魚敵を相手に何度も繰り返してきた連携だ。
むしろ、ボス一体だけを相手にすればいい分、雑魚敵の集団を相手にするより楽なくらいだった。
雑魚敵との戦闘では、別の魔物が乱入してくることもある。
一体のボスだけを相手にするほうが、戦況を管理しやすい。
「そのまま押せ」
「はい!」
ほどなくして、ボスの体力が尽きる。
ボスは大きな音を立てて倒れた。
「……」
三人はしばらく無言だった。
「こんなに簡単に倒せるのか……」
「もっと苦戦すると思ってました」
俺も特に苦戦するとは思っていなかった。
ゲームで何度も戦った相手なのだから。
問題は、戦闘ではなかった。
ドロップアイテムだ。
ゲームではボスの再出現まで三十分だった。
しかし、ゲーム内の時間は現実の四倍の速度で進んでいた。
つまり、現実では二時間に一体しかボスが出現しない。
ゲームなら、一日中プレイしていれば何度もボスを倒せる。
狙ったドロップが出なくても、また三十分待てばいい。
だが、ここではそうはいかない。
同じ回数だけボスを倒そうと思えば、現実ではかなりの時間が必要になる。
ゲームで一日やっていれば、いつか落ちる程度の確率。
それが現実では、一週間は覚悟しなければならない。
「……ドロップ狙いは、思ったより大変だな」
「師匠、どういうことですか?」
「次のボスが出るまで二時間かかる」
「二時間……」
三人が揃ってボス部屋を見つめる。
ゲームでは気にも留めなかった待ち時間が、現実では大きな意味を持つ。
強さの問題は解決した。
あとは、欲しいものが出るまでひたすら待って、倒し続けるだけだった。




