乗りつぶし
吉田誠一は、ごく普通の乗り鉄である。
毎日電車に乗って、毎日次の休みはどの県に乗り込んで完乗を目指そうか綿密に計画を練る、齢43の乗り鉄である。
今日も今日とて、幼い頃乗った路線が無くなることを知り葬式鉄に徹するためホテルの予約と有給申請をしたあと、行きつけのコンビニでトレインチョコと除菌シートを買って家路についていた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
吉田誠一の魂と…、女神が対面している。
「吉田誠一さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
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吉田誠一(43)
レベル38
称号:転生者
保有スキル:乗りつぶし
HP:39
MP:59
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「というわけで、いきなり草原!…うん?なんか煙が...汽車かな?」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…乗り鉄の前に現れた!
「スライムだ!」
あまりうろたえない、乗り鉄。
「たぶん保有スキルを使って乗り越える…《乗りつぶし》って…まさか異世界の電車に乗れる?マジか!!」
スライムは喜んでいる乗り鉄を見て、なんかいつもと違うと思っている!!
ぷわーん…!
わーん……!
「うーん、この汽笛の広がる感じ…音鉄のやっちゃんに聞かせてやりたかったなぁ…って、目の前に路面電車キタ━(゜∀゜;)━!」
なんと、この世界の電車は乗りたい誰かのために線路が伸びていくシステムらしい!
「こ れ は !」
カラカサ車掌から路線図をもらった乗り鉄は、俄然やる気に満ちた!
「一筆書き乗車もできるとか神がかってんな、バカ停もあるし泊まり鉄も可、…ちょっとまて、乗車中はこづかいが出る?!利用者確保のための企業努力?!すげえな異世界は!」
喜び勇んで電車に乗り込んだ乗り鉄は、39年にわたり女神鉄道の完全乗車を果たした。
その栄誉と功績が認められ、モンスターへの生まれ変わりを許された乗り鉄。
セレモニーで転身の光に包まれたその瞬間、マナーのなってない撮り鉄入道に押し潰されて絶命した。
惨事を目の当たりにしたスライムは、長年の友がこんなことで失われてしまった怒りに任せて辺りにいたやつらを丸飲みした。
女神鉄道は、創業200年の節目を迎えること無く廃業したとのこと。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
乗り鉄は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
乗り鉄はコンビニでトレインチョコと除菌シートを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「やっぱ電車だよ、ナマンダブ、ナマンダブ…」
乗り鉄は、劇パに巻き込まれて危うく命を落としそうになったりもしましたが、節度ある乗車と慎み深いマナーを心がけつつ全国の路線を巡ったのち、足腰が弱った頃から始めた自分語りチャンネルが人気を集め、たくさんの鉄道ファンから慕われるようになって、毎日夕方五時にやっている『乗り鉄じいちゃんのおだやか追憶ライブ』がいつまで経っても始まらないのを心配したファンが自宅に駆けつけたものの時既に遅く、76歳の人生を終えたとのことです。
なお、その年に廃線が決まった某鉄道の最終日には乗り鉄の遺影が乗車したとのことです。




