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第133話 ルージュとカオスの合流

 女王や兵達を知将ユリウスと赤の四騎士に任せて西方へと向かったルージュとラプト達は、紺の王国軍の足止めをしつつ撤退を続けていたカオス率いる別部隊と合流を果たした。

 別部隊の中でまともに戦力としてすぐに動ける者は半数ほどに減っていたが、それでも彼らは十二分にここまで己が役割を果たしていた。


「皆、よくやってくれた。皆の奮戦にはただ感謝をするしかない。……ありがとう」


 動ける兵の中に無傷の者はいないほどだった。傷を負い疲労した兵達を前に、彼らと再び再会したルージュは深く頭を下げる。

 これが勝ち戦ならば、褒賞を持って労に報いることを女王に代わって約束することもできようが、今の赤の王国の状況ではそれはかなわない。ルージュにできるのは、言葉と態度で彼らを少しでも労うことだけだった。


「皆にはまた改めて重要な報告を伝える。それまでは体を休めてくれ。これ以上、皆が戦う必要はない」


 緊張状態を続けていた兵達に安堵の顔が浮かぶ。

 彼らはまだ赤の王国が終わろうとしていることを知らない。

 彼らが疲れた体とすり減った心を少しでも癒すのを待ってから、ルージュはこの国のことを伝えるつもりだった。今彼らにすべてを告げるのはあまりにも酷だと思えた。


 兵達への話を終えると、ルージュはカオスのそばへ寄った。


「カオス、話がある。……来てくれ」


「……わかった」


 カオスはルージュの目を見ただけでおよそのことを察した。

 だから、それ以上は何も言わず、ルージュと共に撤退軍の野営地にある仮設天幕へと向かった。



 人払いを行い、天幕の中にいるのはルージュ、カオス、ラプトの3人だけ。3人は簡素な椅子に腰かけ輪のようになって向かい合う。


「カオス、私達は間に合わなかったわ。戻ったときにはすでに王都は落ちたあとだったの。王都から撤退していた女王と無事に合流できたことだけは、せめてもの救いだったけどね」


「……そうか。青の王国軍侵攻の報せを受けたときからある程度想定はしていたけど……どうにもならなかったか」


 ルージュから報告を受けてもカオスの顔に驚きはなかった。状況を考えた時、こういう結果になることは彼にはおよそ見えていたのだ。


「カオス達が紺の王国軍を押しとどめていてくれたのに……すまない」


「いや、不戦協定を破られた時点で、そうなることはもう仕方がないと思うぜ。……青の王国の方は協定を無視したことに対して何か釈明をしているのか?」


「青の王国のライゼル王が死んだわ。青の王国側が言うには、我ら赤の王国軍の刺客の手による暗殺だということらしい。今回の侵攻はその報復、ライゼル王の弔い合戦ということみたいよ。……馬鹿にしているわ」


「かなり強引なやり方だな。……だけど、青の王国は後継者問題で揉めていたんだよな?」


「ええ」


「……なら、この後青の王国の主導権を握った奴、そいつが黒幕だろうな。強引だが、赤の王国を手に入れるほどの結果を出せば、誰も文句は言えないし、ライゼル王の死という影響も薄くなる。むしろ、その仇を取り、強い青の王国を示せれば、新たな救世主の誕生に青の王国は沸き立つだろう。……姐さんはうまく利用されちまったな」


 カオスの言葉にルージュはハッとする。

 ルージュはなまじ青の導士の存在を感じてしまったため見えにくくなっていたが、青の導士なしに考えればカオスの推測は合点がいく。


「……なるほど。そういうことね。青の導士の企てかとも思ったけど、裏で糸を引いていたのはあの国の王子ということね! 協定の交渉の際、第二王子のレオンハルトとは何度か顔を合わせていたけど、正直、あれは警戒するような相手ではなかったわ。だとしたら……」


「もう一人の王子、セオドルってやつだろう。最後の交渉の時に、会議の後一度だけ会っただろ? あの時からなにか嫌なものは感じていた。あの男は一筋縄ではいかない相手だ。姐さんでは相性が悪いだろうとは思っていたけど……」


「……あの男ね。確かに本心では何を考えているのか読めない相手だったわ。……でも、私では相性が悪いってどういうこと?」


 ルージュは首を捻る。

 カオスが何をもって相性が悪いと言ったのか彼女には見当がつかなかった。


「いや、まぁ、性格的というか、なんというか……」

(姐さんは自分では計算高いクールビューティーのつもりなんだろうけど、変に律儀で情にも厚く、潔癖なところがあるからなぁ。汚いやり方に対して対策が甘くなってしまうところがあるんだよな。本人を前にして言うとムキになりそうだから言えないけど)


「何よ、はっきりしないわね」


「いや、意外と美形には弱いとこあるだろ?」


 カオスの言葉にルージュの顔がひきつる。


「弱くないわよ! 顔がいいだけの男とか一番嫌いなタイプよ!」


「そうなのか? だったらいいが」

(まぁ、なんとか誤魔化せたかな? しかし、俺はあの王子の性質に気付いていたはずなのに……迂闊だった。もっと俺が警戒しておけばこの事態は防げたかもしれないのに……)


 カオスはルージュには気づかれないようにしながら悔しさに拳を握りしめた。


「私と一緒にいて何を見てたのよ、失礼しちゃうわね」


 少し憤慨気味のルージュを前に、カオスは改めて顔を引き締める。


「それより姐さん、わざわざこっちに姐さん達だけで戻ってきたってことは、紺の王国軍と話をするってことか?」


 カオスにつられるように、ルージュの顔も真剣なものに戻った。


「話が早いわね」


 すべてを話さずとも理解してしまうカオスに、ルージュは素直に感心する。先ほどの青の王国に対する推測も、ただの剣闘士にできるようなものではなかった。ルージュはますますこのカオスという男がこれまでどういう生き方をしてきたのか不思議に思ってしまう。


「青の王国ではなく、紺の王国にくだるのか」


「……ええ」


「キッドに頭を下げることになるが……いいんだな?」


 キッドという名前に、ルージュは一瞬ピクリと反応したが、その表情は変わらなかった。


「私はキッドに負けてはいない。……でも、赤の王国は負けたのよ。だったら、私は女王のため、民のため、できる最善のことをするわ」


「……わかった。ただし、交渉には俺も連れていってくれ」


「もちろん、そのつもりよ。カオス、ラプト、二人とも私と一緒来て」


「もちろんだ」

「最初からそのつもりだ」


 カオスはもちろん、ずっと黙って二人のやりとりを聞いていたラプトも深く頷いた。


 そして、ルージュは準備を整えると、カオスとラプトを伴い3人だけで交渉要求の旗を掲げ、紺の王国軍へと向かっていった。


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