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第131話 窮地の赤の王国

 第二都市まで引き上げたルージュは、街の隣に野営地を設営するとともに、街にある屋敷のいくつかを借り上げ、そこを女王や、女王と共に王都から逃げてきた宰相や大臣の仮の住居とした。

 そしてその上で、ルージュは奪われた赤の王都へと使者を向かわせた。それは、青の王国に、不戦協定を破って赤の王国へ侵攻したことへ抗議するとともに、王都からの即時撤退を要求するためのものだった。


 それというのも、ルージュはこのまま王都攻めをすることができなかったからだ。

 ルージュとしては、王都が落ちる前に王都軍と合流できたのならば、そのあとの防衛プランは描けていた。

 だが、すでに王都は落ちてしまっている。

 敵に王城に籠られて籠城戦をされれば、それを攻略するのは困難。

 青の導士の実力はまだはかりかねる部分があるが、王都に残っていた赤の王国軍も合わせれば、ルージュとしては7割がた自分達が勝てると踏んでいる。

 だが、問題は西側から迫ってきている紺の王国軍だった。

 青の王国軍相手に全力を尽くした後の赤の王国軍では、紺の王国軍に確実に敗北する。

 それがわかっているだけに、ルージュは王都攻略の戦いを仕掛けるわけにはいかなかった。


「ルージュ様、青の王国軍の元へ派遣した使者が戻りました」


 ラプトとともに野営地の本部天幕にいたルージュのもとへ、使者の帰還の報告が届けられた。


「すぐにここに来させて」


 ルージュの指示を受け、使者として遣わせた兵士が本部天幕までくると、預かってきた書状をルージュへと渡す。

 すぐに書状を開いて中を確認したルージュは、わなわなと震えだした。

 その様子を見て、ラプトはたまずら声をかける。


「ルージュ、書状にはなんと?」


「……ライゼル王が死んだって。しかも、それが私達赤の王国の手によるものだと。……王亡き今不戦協定の効力はなく、そもそも先に仕掛けた赤の王国により不戦協定は破られた、この戦いはそのライゼル王の弔い合戦であり、正義は青の王国にあるって……なによこれ、めちゃくちゃじゃない!」


 興奮するルージュはそのまま書状を破り捨てそうな勢いだったが、さすがにそれは思いとどまる。


「まんまとハメられたのかもしれんな。やつら最初から不戦協定を結ぶつもりなどなく、こちらに攻め込む隙を作らせる目的だったのやもしれん」


「そんなばかなことが……。でも、王が死んだなんてウソをついてもすぐにバレるはずよ。公式の書状にそんなウソを書いてよこすなんてありえないわ……」


「ならば王が死んだというのは本当なのだろう。別の誰かが今回の不戦協定をうまく利用したか、あるいはライゼル王さえその別の誰かの手のひらで踊らされたか……」


「まさか、青の導士が裏で糸を引いているとでも!? ……いえ、さすがにそれはないわよね。ライゼル王がいなくなっても青の導士が王国を乗っ取れるわけじゃない。あの国には後継者候補が二人もいるんだから……」


 ルージュは考え込むが、青の王国の内情までは十分な情報が得られていない。実際に青の王国の人間でさえ踊らされている状況では、ルージュといえども真実にたどり着けるはずがなかった。


「それで、どうするんだ?」


「……これで不戦協定を破ったことを突いて政治的に青の王国軍を王都から引かせることはできなくなったわ。嘘まみれの理由でも、私達にそれを証明することはできないし、向こうも受け付けないでしょう」


 不戦協定無視の不義理をたてに、政治的に、そして外交的に攻めるのが、ルージュにとって残された唯一とも言える手段だった。青の王国と紺の王国、二国に同時に攻められた上、王都を奪われた状態では、武力による赤の王国軍の勝利がもはやありえないことを、軍師であるルージュは誰よりも理解していた。


「……ごめんなさい、ラプト。あなたに戦いの場を提供すると言っていたのに、その約束は果たせそうにないわ」


「…………」


 ラプトは肩を落とすルージュを見つめるが、その瞳は決して責めるようなものではなかった。むしろルージュを気遣うようにさえ見える。

 もっとも、余裕のないルージュはそんなことに気付きはしなかったが。


「私は女王のところへ、このことを伝えに行っていくるわ」


「……わかった」


 ルージュは足取り重く、女王マゼンタの仮住居とした街の中にある屋敷へと向かった。

 屋敷に着くと、ルージュは宰相ゾルゲも女王の部屋へと呼び、青の王国軍からの書状を見せ、向こうの主張を説明する。

 ルージュの話を聞き、マゼンタもゾルゲも怒りに身を震わせた。


「こんなの何かの間違いです! 私達がライゼル王に刺客を差し向けるなんて!」


「そうですとも! 紺の王国と矛を交えている最中の我々がそんなことをしてもなんのメリットもありはしない! 奴らとて考えればわかりそうなものを!」


 興奮する二人と違って、ルージュはすでに落ち着いたものだった。


「……彼らもそんなことはわかっているのでしょう。わかった上で大義名分を立てるためにそんなことを言っているのです。……すべてはそこまで見抜けなかった私の責任です」


 ルージュは二人へと頭を下げた。青の王国との不戦協定を進めたのはほかの誰でもないルージュ自身だった。ルージュが直接失態を犯したわけではないが、もし不戦協定がなければ今のこの事態に陥っていなかったであろうことは容易に想像できる。


「……ルージュ、あなたのせいではありません。このような事態になるとは誰も想像すらできていなかったのだから」


 このような状況になってもマゼンタはルージュを責めはしなかった。最終的に不戦協定を認める判断を下したのは女王であるマゼンタ自身であるし、ここでルージュに責任を押し付けたところで事態が変わるわけではないことを女王もわかっている。


「……それで、ルージュ殿。王都を取り返す戦いはいつ始めるつもりだ? 我らは起こってしまったことを嘆くよりも、これからのことを考えねばならん」


 ルージュを責めないのはゾルゲも同じだった。マゼンタもゾルゲも、見ているのは先のことだった。

 だが、ルージュはその二人以上に先が見えていた。自分達にとってどうにもならない明るくない未来が。


「……王都奪還の戦いはできません」


「――――!?」

「――――!?」


 マゼンタもゾルゲも、ルージュの思わぬ言葉に驚き目を見開いた。


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