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第122話 レリアナの約束

 紺の王国と白の聖王国との不戦協定調印式は何事もなく無事に終了した。ルルーとレリアナは、2通の協定書に署名し、協定の証としてそれぞれ1通ずつ協定書を持ち合う。

 その夜、ルルー、キッド、ミュウ、ルイセの4人は、レリアナに呼ばれ、案内役のフィーユに連れられて指定された部屋へと向かう。


「フィー、レリアナ様の大事な用ってなんなんだ?」


「大事な用は大事な用だよ」


 4人は大事な用としか要件を聞かされておらず、具体的な内容については教えてもらえないまま連れられていた。

 フィーユのどこかウキウキした様子から、彼女が要件の内容を知っていることは想像がつく。そう思ってキッドはフィーユから情報を得ようと試みるが、フィーユは簡単に口を割ってくれそうにない。


「協定の調印式は無事に終わったし、ほかに大事なことっていうと、なんだ?」


「レリアナ様にとっては調印式よりも大事なことかもね~」


 思わせぶりなことは匂わせるものの、フィーユは肝心なことを教えてくれそうにはなかった。

 まだ今晩の食事を提供されていないこともあり、近くから漂ってくる香ばしい匂いを感じつつ、やがてキッド達は目的と部屋へとたどりつく。


「みんな、どうぞ、入って」


 フィーユが扉を開けると、部屋の真ん中には白いテーブルクロスが敷かれた長いテーブルがあり、その上にはナイフやフォークが並んでいた。だが、肝心のレリアナの姿はそこには見当たらない。


「ここでお食事を取るということみたいですね」


「そうですね。昨晩は俺達4人での食事でしたから、今晩はレリアナ様と会食ということでしょうか?」


 キッドは部屋の中に入り、ルルーと顔を見合わせる。


「ルルー様はここね~」


 部屋の中へと進んでいたフィーユは、一番奥の席の椅子を引いて、ルルーを手招きする。


「あ、はい」


 ルルーが心持ち小走りに指示された席へと向かう。


「キッドはここ」

「こっちがルイセさん」

「ここがミュウさんね」


 フィーユの指示通りに、ルルーに続いて、キッド、ルイセ、ミュウとテーブルの片側に並んで席についていく。

 だが、肝心のレリアナはまだ姿を見せなかった。


「フィーさん、レリアナ様は?」


 立場的にはルルー達が客人にあたる。とはいえ、待たされたからといって憤るようなルルーではない。単純な疑問としてフィーユに問いかける。

 しかし、答えは別のところからきた。


「ごめんなさい、待たせてますね」


 扉が開いたままの入り口から聞こえてきたレリアナの声に振り向けば、ピンクのエプロン姿で頭に同じ色の三角巾をつけたレリアナが両手に料理の皿を持ったまま部屋の中に入ってきていた。


「レリアナ様!?」


 思わず手伝おうとするかのようにルルーが椅子から立ち上がる。


「あっ! ルルー様は座っていてくださいね!」


 レリアナは言葉でルルーを制止し、そのままルルーの席まで行くと、彼女の前に皿を並べた。レリアナに続いて、ティセとグレイも皿を手にして部屋に入ってくる。

 4人の前には、トマトソースのパスタ、とろけたチーズの乗ったハンバーグ、カボチャのスープ、この地方特有の野菜のサラダといった料理の乗った皿が並んでいく。


(……まさか聖王のエプロン姿を見ることになるとは思わなかった)


 テキパキ動くレリアナ達に、キッドはただ驚きながら椅子に座ってじっとしていることしかできなかった。レリアナが手伝いを拒否したこともあるが、レリアナの動きは街のレストランの給仕にも見劣りしないもので、下手に手伝おうものなら逆に足でまといになってしまいそうだった。


「ルイセ、元ウエイトレスとして、レリアナ様の動きをどう見る?」


「私が店主なら即採用しますね」


「なるほど」


 キッドとルイセが小声でそんなやりとりをしている間に、4人の前の皿は並べ終わり、レリアナ達は対面の4席にも同じ皿を並べていった。

 やがて8席すべてに料理が並ぶと、レリアナ達も奥から、レリアナ、フィーユ、ティセ、グレイの並びで席についていく。


「皆さん、お待たせしました。お恥ずかしながら作ったのが私なので、お口に合うかわかりませんが、よければお召し上がりください」


 自席で少し照れながら言うレリアナの頭と体には三角巾とエプロンがついたままだった。


「レリアナ様! 頭とエプロン!」


 フィーユの指摘で、照れで赤かったレリアナの顔が、恥ずかしさによる赤い顔に変わる。


「やだっ、私ったら!?」


 レリアナは慌てて三角巾とエプロンを脱いで部屋の片隅に置くと、恥ずかしさを隠した顔で再び席に着く。


「失礼しました。恥ずかしいところをお見せしてしまって……」


「いえ、そんなことはないですよ。むしろレリアナ様の可愛らしいところを見られて心が和みました」


 言う人によっては嫌味にも取られそうな言葉だったが、ルルーの口から出るとそんな感じは一切なく、言われたレリアナの表情も自然とほころぶ。


「ありがとうございます。料理を作りながら昔に戻ったみたいな気持ちになってしまって、それが抜けていなかったのかもしれません」


「レリアナ様は聖王に即位される以前は、料理のお手伝いをされているとおっしゃられていましたものね」


 ルルーは以前に自分が料理を振舞った際に、レリアナが使用人が料理を作るのを手伝っていたと話していたことを忘れていない。


「はい。このパスタも打つところから私がやったんです。……普段皆さんが口にされている王宮のお料理に比べれば全然たいしたものではないのでしょうけど……どうしてもあの時の約束を果たしたくて」


 ルルーはレリアナの言う約束が何のことかすぐに理解する。

 二人が女子同盟を結んだあの夜、ルルーの作った手料理のお返しにレリアナは自ら料理を振舞うことを約束した。赤の王国の侵攻により果たされることなく終わったあの約束、それをレリアナは忘れずにずっと覚えていた。

 そしてルルーもまたその約束を忘れたことはない。レリアナも自分同様に覚えていてくれたのだと、ルルーの胸が熱くなる。


「レリアナ様、あの日の約束、私も忘れたことはありませんでした。レリアナ様の手料理は、私にとってどんな有名な料理人による料理よりもいただきたいと思っていたものです!」


 ルルーは感慨のこもった瞳で目の前の料理を眺める。特別何かに秀でた料理ではないにもかかわらず、ルルーにはそれらがキラキラして見えた。


「……ありがとうございます。それでは、皆さん、冷めないうちにお召し上がりになってください」


 8人はそれぞれの方法で食事の前の祈りを捧げると、レリアナの料理へと手を伸ばていく。

 紺の王国以来となる8人による2度目の晩餐は、前回以上に賑やかなものへとなっていった。


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