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第116話 青の国からの来訪者

「ルルー王女、セオドル王子の来訪の話を聞いていますか?」


 ただの使者ではなく第一王子自らの訪問となればただ事ではない。何の連絡もなく突然来るなどありえないことだった。もし訪問の話を受けていながらそれを忘れていたとなれば、外交問題に発展しかねない。

 しかし、キッドに視線を向けられたルルーは慌てて首を横に振る。


「いいえ! そんな話を聞いていたらキッドさんにすぐに話していますよ!」


 それはそうだとキッドは納得し、来訪を伝えに来た兵士の方へ顔を向ける。


「俺達の留守中に青の王国から使者は来ていなかったか?」


 ルルーはついこの前まで黒の都にいたのだ。王都に使者が来ていたものの、何かの手違いでそのことが黒の都にまで伝わっていなかった可能性はありえた。


「いいえ! この城にいる者も誰もそんな話は知りません。それに、そんなことがあればすぐに王女か軍師殿にお伝えします!」


「そうか……」


 キッドは腕を組んで考え込む。


「使者が来ず文書だけ青の王国から届いたけど、それがほかの文書に紛れてしまって、誰も見てないままになってるとか?」


 今の4人の執務机の上には多くの文書が並んでいる。あってはならないことだが、人間が関わっている仕事上、ミュウの言うようなミスは、ないとはいえないことだった。


「いや、それだとしてもさすがに再度確認の文書を寄越してくるはずだ。返事がないからといっていきなり来たりはしない。よほどのことでもない限り……」


「キッド君と私が白の聖王国に助力したことに対する抗議という可能性はありませんか? そのせいで青の王国は青の導士を失い、結果的に占領地をすべて失うことになってますよね」


「……ルイセの言うとおり、確かにそれだけ見れば青の王国にとっては『よほどのこと』なんだろうけど……一応俺達は正体を隠していたし、それに第一王子がわざわざ文句を言いにくるのはおかしい」


 抗議をするにしろ、宣戦布告するにしろ、使者に文書を持たせればよいことだった。王族自らの訪問は、むしろ相手に対しての敬意を示すものだ。そういった攻撃的な行為のために第一王子が出向いてくるとは考えづらい。


「……セオドル王子はまだ若い王子だったよな。俺と同じくらいか?」


 キッドはゆっくりとルルーの方へ顔を向ける。


「ルルー王女はセオドル王子と面識はありますか?」


 領地は離れているものの二人は王族同士だ。キッドがルルーに仕える前に、二人が会っている可能性はありえることだった。


「いいえ。私もお名前を聞いたことはありますが、お会いしたことは一度もありません。……でも、なぜそんなことを?」


 訝るようなキッドの顔に、ルルーは不思議そうな顔をして首をかしげる。


「……いえ、もしお二人に面識があるようなら、ルルー王女に一目ぼれでもしたセオドル王子がルルー王女に婚約の申し込みでもしにきた可能性があるかと思いまして――」


「はあぁぁぁぁ!?」


 キッドの言葉に、ルルーは王女とは思えないような、はしたいな声を上げていた。


「な、なんてことを言うんですか!? しかも、そんな落ち着いた感じで! 焦りながら言うのならまだしも……。いえ、そうではなくて、セオドル王子とはお会いしたこともありませんし、そもそも大国の王子が私なんかを見初めるとは思えませんよ!」


「いや、ルルー王女の人となりを知れば、大国の王子であろうと恋焦がれてもおかしくはありません。それほどにルルー王女は王族としても女性としても魅力的ですから。ですが、会ったことがないというのなら、その線もなさそうですね……」


「なっ……」


 キッドにストレートに魅力的と言われ、ルルーはさっきまでの憤りをすっかり忘れ、顔を真っ赤にしてうつむいた。

 一方でキッドの方は、別に褒めようとして言ったわけではなく、セオドルの来訪目的を探る中で、普段から思っていることが素直に口から出ただけなので、自分が言った言葉を深く気にせず、またルルーの様子の変化に気付くこともなく、再び頭を悩ませる。

 ミュウとルセイは、ルルーのことを半分羨ましそうに、半分気は気の毒そうに見つめた。


「……そもそも本物のセオドル王子ではない可能性もありえるか。だいたい、よくここまで誰にも気付かれることなく来られたものだ」


 ルルーの様子に気付かぬまま、キッドは再び兵へと顔を向ける。


「セオドル王子一行は何人くらいの規模で来られているんだ?」


「それが……セオドル王子とお付きの方がお二人の三人だけで見えられておりまして……」


「三人だって!?」


 キッドだけでなくこの場にいる全員が驚きの表情を浮かべた。

 第一王子がたった二人の護衛を連れただけで、隣国でもない国にやってくるなど、にわかには信じられない話だった。それだけ聞けば、セオドルの名を語る偽物だという疑いを強める要素に思える。しかし、キッドは単純にそうとは考えなかった。


「……ちょっと待てよ。青の王国からこの紺の王国に来るには、赤の王国か白の聖王国を通るしかない。どちらの国も青の王国の友好国ではない中、大人数の移動は人目について逆に危険と言える。もし聖王国と友好でない状態で、俺がルルー王女を青の王国に連れていくとしたら、ミュウかルイセかどちらかを伴って3人で行くだろうな。そう考えると、逆に本物だという信憑性が増すか……」


 うつむいて独り()ちながら考えを整理するキッドは、顔を上げ再び兵へと視線を向けた。


「セオドル王子本人だという確認はしたのか?」


「はい。青の王国の王家の紋章の入った宝剣をお持ちでした。第一王子かどうかまでは判別できませんが、少なくとも王族のかたなのは間違いないかと……」


「そうか……」


 むろん偽物の宝剣の可能性もあるが、本人と面識がない以上、キッド達にも簡単にできる確認方法はそれくらいしかなかった。王族の偽称はどの国でも死罪だ。基本的には王族の紋章を見せられれば信じるしかない。


「キッドさん、とにかく会ってみるしかないのでは? 私のために警戒していただいていることには感謝しますが、相手が王族であれば、私もそれなりの対応をせねばなりません」


 キッドが思い悩む間に、ルルーの方はもう腹を決めていた。

 王女にそう言われては、もうキッドも従うほかない。


「……そうですね。わかりました。……二人とも」


 キッドはミュウへ、そしてルイセへと順に顔を向けた。


「わかってるって」

「任せてください」


 ミュウとルイセは椅子から立ち上がる。二人の顔はすでに戦士の顔だった。

 護衛としてこの二人以上に頼れる者は考えられない。この二人がいるからこそ、キッドはルルーの決断を素直に受け入れられた。


「それでは、4人でそのセオドル王子とやらに会いに行きましょう」


 ルルー、ミュウ、ルイセはそのキッドの言葉にうなずく。

 そして、4人はセオドル一行が通された客室へと向かった。


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