Fight it Out
来た。
アースゴーレムだ。
それは人の頭部ぐらいの大きさの岩がいくつも連なって人の形を成していて、人の動きをそのまま模倣して歩いている。
小さい頃見たクレイアニメのようだ。
クレイアニメと違うのはその音と重量感だ。
ズッシリとした足がググッと持ち上がると前に動き、ドッスンと地面を踏む。
その迫力は一歩一歩踏みしめるごとに地面が揺れているような錯覚を覚えるぐらいだ。
さすがたった一体の歩みで揺れていたら、大量のアースゴーレムに追われた時にこの洞窟は崩落しているはず。
あっちはまだ私に気付いてないのだろうか。歩くのが遅い。
あちらは未だランタンの光が届かない暗闇の中だが、こっちは背後の玄関にかかる二つのランタンに照らされているのだから、仁王立ちした私のシルエットが見えてるはずだ。
目が悪いのだろうか。それとも目ではなく別の物で識別しているのかも。単純に光の加減でまだ見えてないのかな。もしくはそもそも私に敵意が無いとか。
敵意が無いなら嬉しいが。なんせ今の私は単なる下着姿の女だ。普通の人間相手なら不信がることはあれど、敵意を持つことは無いはずだ。
いや、洞窟の奥に居るというロケーションを考えると十分怪しいか。
つくづく難儀な場所に家を建てたものだ。ちょっと前の私め。
アースゴーレムの動きが早くなり、一直線にこちらへと向かってくる。ようやく私を認識したようだ。
ドスンドスンと大きな音を立てて岩の塊が近付いてくる。すごい迫力だが、こういうのはビビったら負けだ。
さっきはメチャクチャビビってたけど、それが相手に気取られなければいいんだ。
仁王立ちしたまま目を離さない。瞬きもせず、ジッと観察する。
私に駆け寄ってきてハグをし「この世界にようこそ!」なんて歓迎してくれるような感じではない。まあ、あれに熱烈なハグをされたら無事では済まなさそうだが。
ゴーレムは私まであと2、3歩という距離まで来ると、歩みを止めずに大きく腕を振り上げる。
やっぱりダメか。振り下ろされる腕を紙一重で避ける。
ズシーンという大きな音を立てて腕が地面にめり込む。あんな物に当たれば、私なんかひとたまりも無いだろう。
これであちらの敵意は確定した。
元々ゲームでは積極的にプレイヤーに攻撃してくるモンスターだから当然と言えば当然の結果だ。
ただ、魔法で召喚できるアースゴーレムも全く同じ物なので、もしかしたらと思ったのだがそんな甘い考えは通用しなかった。
アースゴーレムは振り下ろした腕をゆっくりと持ち上げ、私の居る方へ向き直る。
ゴーレムの顔らしき岩を見上げる。身長2メートルぐらいかな。
顔には特に目のようなものは無く、のっぺらぼうだ。初めて見た個体は声を上げていたが、どこかに口はあるのだろうか。
胴体はいくつかの岩がつぎはぎに重なり、そこから足が二本と地面に付きそうなぐらい長い腕が二本ぶら下がってる。
こんなのに私はダメージを与えることが出来るのだろうか。
そんなことを考えていると、今度は腕を背後に反らしてから勢いをつけると横に薙いできたので、すかさずジャンプしてゴーレムを踏み台に飛び越えて背後に回り、そのまま背中を蹴る。
思いっきり体重をかけてキックしてみたが、ビクともしない。軽すぎるんだ。
私にこいつをどうにかできるのだろうか。
ゴーレムと一口で言っても、ファンタジーの世界でも色々な種類がある。
素材だけでも泥で出来ていたり、土だったり、青銅だったり。
倒し方は定番だと、体のどこかにある「真理」の文字を削って「死」にするというのや、どこかに呪術を施した核があるのでそれを破壊するなどがある。
基本的には事前にプログラムした動きしかしなかったり、その場での簡単な命令を聞くだけで、自立していたり意思があったりすることはない。ゴーレムっぽいのが神様だったり巨人だったりということもあるけど、それは例外。
マキシマスではどうだっただろう。
過去のシリーズには出てなくて、オンラインで急にいくつかの種類が現れる。
モンスターであり、召喚魔法で呼び出せる存在でもある。いや召喚魔法という区分にあるだけで実際はその場で作り上げてる?
「真理」の文字が書いてあったり、核を作って起動するようなものではないと思う。
うーん。結局よくわからない。
元々ゲーム自体が2Dのレトロゲームの区分に入るものなので、細部はわからないしそんな設定も無いと思う。
目の前で動く人型の岩はゲーム内の描写そのままではあるけど、こうして目の前で見ると違うものに見えてくる。
……いや、実際に違う物がひとつだけある。
胸の部分の岩に魔法陣が描いてある。こんなものは見たことがない。
いや見たことある。それもつい最近見たぞ。
そうだ。昨日散々唱えたクリエイトゴーレム、魔法書に描かれたクリエイトゴーレムの魔法陣だ。
アースゴーレムは洞窟系のダンジョンにほぼ必ずいる、かなりポピュラーなモンスターだ。私も親の顔よりも多く見たってぐらい馴染みがある。
間違いなく、ゲームのグラフィックでは魔法陣なんて描かれてない。
この魔法陣が何かを定着させるとか、命令が書いてあるとかで、ゴーレムとして動かしているのだろうか。
考えてる間にも、ゴーレムの攻撃は止まらない。
それはそうだ。疲労などはしないだろう。
そこは私も負けてない。きっと何十キロだって走り続けられる自信がある。私自身の力ではなく、アクセサリーのおかげだけど。
でも私は攻撃力がない。
あれからも何度か攻撃してみたけれど、蹴った私の足がジンジンと痛むだけ。掴んで持ち上げようとしても、逆に私の体が持ち上がるだけ。私の方が軽いからね。
もどかしい。ゲームでは一番弱い武器や一番弱い魔法でも簡単に倒せたのに。
今のところゴーレムの攻撃は動き自体が緩慢なので、避けられてる。攻撃を避ける訓練もしていて良かった。
それでもいつかは私の集中力が切れて当たってしまうだろう。そうなる前に何とかしなくては。
やっぱり、魔法陣になにかアプローチしてみるべきか。
振り下ろされる腕を掻い潜って魔法陣が描かれた胸をキック!
ダメだ。目方が違い過ぎて、壁を蹴ったみたいに弾かれただけ。アースゴーレムはビクともしてない。
弾かれてもくるっと回って着地する。ちなみに私は運動が得意と言うほどもなく、特にスポーツもやってないが思い描く通りに体が動いている。きっとアクセサリーのおかげだね。すごい。
と考えてる間に次の攻撃が来る。
無造作に振り下ろされた岩の拳を潜り抜けると、懐に入って魔法陣をよく見る。
風化したような跡はない。輪郭もくっきりしてる。
無意識に魔法陣へ手が伸びる。
…太陽が眩しい。
しまったな。帽子を忘れてきたらしい。畑に出るのに帽子を忘れるなんて。
今年の麦は出来がいい。このまま何事もなければいい収穫が望めそうだ。
農作業を終えると、畑のそばを流れる小川で顔を洗う。
いい汗をかいた後なので冷たい水が気持ちいい。
水面に映った顔はゴブリンと呼ばれる種族のものだった。




