表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰にでも優しい九条さんの、私だけの特権。~「いい部下」をやめた二十六歳の攻防戦~  作者: 寝不足魔王


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/26

第12話:枯れ木に水を、あるいは火を

第12話です。

ついに九条さんが自制心の限界を迎えました。

「枯れ木」を自称する彼に、凛が真っ赤な火を灯す。

二人の関係性が決定的に変わる夜を描きます。


 シャツを掴む私の指先に、彼の熱い鼓動が直に伝わってくる。

 九条さんは逃げるのをやめたように、ただ静かに私を見下ろしていた。


「……佐倉、君はさ」


 その声は、微かに掠れていた。

 彼はゆっくりと手を伸ばし、私の頬を包むか、あるいは突き放すかのように、躊躇いながら空中で止める。


「枯れ木に水をやって、何が楽しいんだ。俺の毎日は、もう完成してしまっている。新しい色なんて、必要ないと思っていたのに」


「完成なんてさせません。私が勝手に、書き換えてやるんです」


 私が言い切ると、九条さんの口角が、苦しそうに、でも愛おしそうに僅かに上がった。

 それは、四十二年間積み上げてきた彼の「静寂」に、私が火をつけた瞬間だった。


「……本当に、強引だな」


 空中で止まっていた彼の大きな手が、私の後頭部に回る。

 引き寄せられる。けれど、唇が重なることはなかった。

 彼は私の額に自分の額をそっと預け、深く、重い溜息を吐いた。


「これ以上は、もうダメだ。……これ以上進んだら、俺はもう『いい上司』ではいられなくなる」


「いい上司なんて、最初から求めてません」


 九条さんの身体が、微かに震える。

 彼の中で、理性という名の水が、私の熱情という名の火に負け、激しく蒸発していくのが分かった。


 彼の手が、私の背中をぎゅっと抱きしめる。

 壊れ物を扱うような優しさと、決して離さないという執着が混ざり合った、歪な抱擁。


「……後悔するぞ、佐倉」


 耳元で囁かれたその声は、もはや上司のものではなかった。

 一人の、欲に抗いきれなくなった男の、敗北宣言。


 窓の外の雨音はさらに激しさを増し、私たちは薄暗いオフィスの中で、お互いの体温だけを頼りに繋がっていた。

 

 九条さんの枯れた日常に、今、真っ赤な火が灯った。

 それを消すつもりなんて、私には毛頭なかった。


お読みいただきありがとうございました!

ついに抱きしめ合った二人。でもまだ「キス」まではいかない、この寸止め感が「おじさん上司」の最後の抵抗です。

凛の勝利……と言いたいところですが、火がついた九条さんは、ここから少しずつ「余裕のない男」の顔を見せ始めます。


次回、第13話は「九条さんの『特別』になりたいんです」。

翌朝の、気まずくも甘い空気感からスタートです。


面白い!と思ってくださったら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブクマで応援お願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ