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第2章(1)ジャック、意欲を燃やす ②

案の上、寝支度をして来た妻のエミリーは、「まあ、寝床にまで薬剤を持ち込んで。そんな不気味なお顔は、寝る前に見たくありませんよ。夢に出るじゃありませんか」と呆れ声を出した。


「オタネニンジンが不穏な外見をしてるのは今更だろうが」

「それ、オタネニンジンじゃないんでしょう。オタネニンジンよりずっと不気味ですよ。そんな3本が3本とも、くっきりとお顔が付いているのなんて見たことありません」


妻の指摘は正しかったが、何だか癪に触ってジャックは黙然とした。

この特徴は、マンドレイクとかいうもう片方に顕著らしいが、どういう環境で育てばこのような呪われた外観を獲得するのか非常に疑問であった。

しかも、土から引き抜くとおぞましい叫び声を上げ、聞いた者を昏倒させるという、本当に化け物の挙動をするらしい。

興味深くはあったが、ジャックは植物学者ではないため深入りはしない。

仮にこのマンドレにんじんがそのような奇行を受け継いでいたとしても、ジャックは気にするところではなく、むしろ薬効が素晴らしければ安い代償だと受け入れても良いほどであった。

何なら、掛け合わせる前のマンドレイクそのものも手に入れて、薬効を調べてみたかったと残念に思っているくらいだった。


エミリーと結婚し、この集落に落ち着いてからは新しい薬剤候補に出会うことはなく、まるで子供が寝る間もおもちゃを離さないのと同じ所作だと苦笑いすら出ず、ジャックは枕元の風呂敷包みににんじんを丁寧に戻してから、どす、と枕に頭を落とした。

エミリーは行灯に近寄りながら、


「明日からまた貴方の研究が始まるのねえ。もう年なんだから、今回はちゃんとご飯と睡眠を取って下さいね」


と言った。


「突然何だ」

「貴方、病の研究となると、生活の全部が研究になるんだもの。病気はちゃんと診てるけど、頭の中は研究でいっぱいだったじゃない、患者さんのお名前間違えたりして。目の下が真っ黒だって患者さん達に心配されたもの」


エミリーが指摘するのは、この医院を開いてまもなく、暑気中り、要するに夏バテの患者が多く出た時の出来事であった。

南方から流れて来たジャックには何ということはない暑さだったが、肥土の者達には馴染みのない程度だったようで、毎日次から次へと患者がやって来た。

暑気中り用の薬はほとんど使ったことはなかったが処方は知っていたので、ジャックはもちろんそれを調合したのだが、どうにも効きが良くない患者が目立つ。

その理由を、誰に効いて誰には効かないということを調べ上げ、各患者の体質等医学上の性質と、材料の分量、質、調合方法の良し悪しなどを掛け合わせ、重箱の隅を突く剣幕で調べ上げたことがあったのだった。

結論としては、気候的に、肥土藩の者はそもそも暑さに弱い、という簡単な理由で、処方量を規定より思い切って増やすことで解決ができたのだが、昼夜根を詰めすぎて疲れが溜まったせいか、暑さに強いはずのジャックも暑気中りのようになって難儀したのであった。


「あの時みたいなのは止めてもらいたいわ。貴方が倒れてしまったら正に医者の不養生ですよ、医者が診られないんじゃこの辺りの皆が困りますし」


エミリーの言うことは正論だが、自分でも猛省しまだこなれていない恥を、妻とはいえ上塗りされるのは癪に障るでは済まない。


「煩いな、寝しなにずらずらと。もう二度とあんな失敗はせん」


ジャックが勢い良く布団を被ると、エミリーは呆れ声で「そうして下さいな」と答えて火を吹き消した。



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