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第2章(1)ジャック、意欲を燃やす ①

医師の鈴木ジャックは寝所に、佐藤オリバーが置いていった奇態な根菜を持ち込んで、有明行灯の下で観察を続けていた。

原材料を注視して薬効が分かるなどという神通力は持っていないが、それでもなお凝視を止めないでいたのは、動かない視線とは裏腹に、頭脳が猛烈な勢いで働いているためであった。

日輪の国では薬学も医師の領分であり、この根菜の薬効はと問われれば答える義務があった。

そしてジャックは、一般的な義務を超え、人々が心地良く生きていくことを、他の医師よりも情熱を持って追求している自負があった。

元は肥土藩の外から来た人間で、南方の藩で医術を修め、そこから離島やへき地など医師が定着し辛い地域を転々とした。

研鑽のため都にも留まったことがあったが、長居はしなかった。

各地をさすらったのは単に彼の性分だが、その間に、治る病は確実に治し、治らない病は、治す方法を文字通り必死で探していた。

さまざまな患者を診、教科書的な病は数多く、風土病や、原因不明の病にも出会った。

医術の限界に何度も突き当たり、医師としての敗北を思い知ってからは、何負けてなるものかと、患者が余生ををできるだけ元気に過ごしていけるように力を注いだ。

心地良く生きる、とはそういう、汗と悔しさの滲んだところから生まれた行動指針であった。


新しい薬効をもたらす素材など10年に1つ見つかるかどうかという世界に、この根菜は突然降って来た。

オタネニンジンを片親にしているということだったので、人参の薬効は最低限欲しい。

それから、開発者が強壮作用を確認しているらしいが、どの程度なのかは確認が必要だ。

体力がなく弱っている者に効果の激しい強壮剤を使用するのは禁忌であり、附子ぶし、つまりトリカブトほどではなくとも、患者には毒になり得る。

また、人参にはない薬効はないのかは、ぜひとも探りたい。

他の薬剤と同じ効果を有していれば、既存の薬の材料をこの根菜に変更し、人参の性能を上乗せすることもできよう。

新たな効果が見つかれば申し分なく、それが今までかぶとを脱いで来た病にも適応があるとなれば、さすがのジャックでも冷静でいられる自信がない。

名誉欲ではない、この藩、この国から病の苦しみを少しでも減らせる、そこにジャックは昂るのであった。

効果を迅速に判明させられれば、既存の薬の調合を変え、新薬の設計をする段階に進めるし、オリバーに"使える"根菜だと伝えてやることもできる。

経験年数の長い農業者こそが、農業に関する最高の知識人として扱われる傾向にあるこの国で、普及指導員という立ち位置が中途半端な職に据えられた者達は、勘定奉行も指導する知識がなく、果たすべき務めの教示もしないものだから、米の片手間で野菜を拵えてお茶を濁しているようだった。

オリバーも今まではその例に漏れないようだったが、今回彼は、これを集落の特産にして収益化したい、と意思を明確に示した。

若者がそういう野心を持つのであれば、助力するのが老人の務めだというジャックの信念が働き、寝るべき時間だというのに、明日の予行練習とでも言いたげに脳は既に研究に着手している速度で回っている。

この舶来品で、今までの医術の限界線を動かし、集落を富ませることもできるのであれば、老身に力瘤を入れるのは今この時である、そう考えると眠っている場合ではないと、普段早寝のジャックの目も冴えるというものだった。


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