表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙大回転マッハシステム ―― 第2象限  作者: 二月三月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/21

不肖の教授《せんせい》


 見ると、部屋の真ん中には大型ディスプレイが置いてあり、区切られたウインドウの中には、アレシボ茶会(ティーパーティ)のメンバーが映っていた。


 誰かが口火を切ったら、燃え上がるのは明らかだった。ステイは、教授の問いに答えることにした。


「優多くんに、会いたかった」


 他人の声のような気がした。ステイ自身がいちばん驚いていた。不覚にも涙がこぼれた。初めてだった。


 ベルンシュタイン教授の顔から険が消えた。思えば、ステイの本心を聞いたのは、これが初めてだったかもしれない。


「もう少し、早く言ってくれればな」教授の口調は意外にも穏やかだった「月見台(ムーンゲイザー)に移る前なら、まだ少しやりようがあった」


月見台(ムーンゲイザー)というのですか、あれは?」


 ステイは、意識を失う前に見た空に浮く大地を思い出していた。そして、なるほど、と口に出して言った。


「月、というか、ヒスパニオラを見ているわけだが…」


「ヒスパニオラ?」


「ラグランジュ1にある天体だよ。セドリックがエッジワース・カイパーベルトから超空間(ハイパースペース)技術で移送した」


「何だって」驚きの声を上げたのは、ディスプレイの中のティルフィアだった「L1天体は、重力偏差測定で、最低でも直径500キロメートルはある。そんなものを…、しかもカイパーベルトだと?」


「騒ぐなティルフィア」教授がたしなめた「セドリックなら、それぐらいのことはやる」


「何故、追跡する必要があるんです?」そう、問うたのはマルティナ・ファリアス「超空間(ハイパースペース)技術なら、そんなことをする必要はない」


「ユータの、あの子の趣味なんだろう」教授は言ったが、あまり自信はなさそうだ「ユータは、あまり超空間(ハイパースペース)を使いたくないらしい」


「何故? 使えないんですか?」


「使えるさ。あの子(ユータ)は何でもできる」


「それなら、何故?」


「使いかた次第では、この宇宙が吹き飛ぶからな。父親(セドリック)は、そういうことには頓着無しだが、息子(ユータ)はそうでもない」


 優多くんは優しい子だよ、誰に言うでもなくステイが呟いた。


月見台(ムーンゲイザー)が恒常的にヒスパニオラを視野に入れているのは、確率共鳴を利用して、亜空間(スユードスペース)走路のゲート開口率を上昇させるためだ」ベルンシュタイン教授が、いちおう教授(せんせい)らしく解説した「一瞬だけ、走路を繋ぐのではなくて、何度も往復するためにその措置がとられている」


「アイボリーを連れ出すためではないのですか?」アイジュマルが不思議そうに訊ねた「ベッコウやコーラルのように、連れ出すだけなら、往復の必要はありません」


「それでは意味がない」教授は言った「アイボリーを連れ出すだけでなく、オールインワンも一緒に手に入れる必要(ヽヽ)がある。いや、ヒスパニオラそのものが必要(ヽヽ)、と言うのが正しいか…」


「何でカイパーベルトなんだ」ティルフィアは、まだ、カイパーベルトにこだわっていた「アステロイドベルトのヴェスタ4でもパラス2でも良いじゃないか」


「そんなモンが消えたら、大騒ぎになるだろうが」教授はにべも無い「エッジワース・カイパーベルトでヒスパニオラと同クラスの天体がなくなっても、普通は気づかない。いくらセドリックでも、ちょっとは気を使ってる」


「どうだか?」


「エッジワース・カイパーベルトとメインアステロイドベルト、どちらかから天体を持ってきてラグランジュ1に固定するのは、セドリックにとって、たいした違いはないんだ。我々には大違いだが、セドリックはそんなこと知らんからな」


 そして、教授(ベルンシュタイン)は、ステイに向かって訊ねた「おまえが、月見台(ムーンゲイザー)で引っかかっていたのは、何だか分かるか?」


亜空間(スユードスペース)の群体」


「ほう、分かってたのか」


 ステイは教授の言葉に首を振る「月見台(あそこ)にいる間は、何だか分からなかった。教授(せんせい)に言われて、やっと、何だか分かった」


「それで、十分だ」


 教授は立ち上がった。そこでようやくステイは気づいた

のだが、教授の服装は、タキシード上下にマントという、なんとも時代がかったいでたち(ヽヽヽヽ)だった。


「もう、あんな、無茶はよせ。分かっただろう。月見台(ムーンゲイザー)は心理障壁と物理障壁(スユードスペース)で覆われている。心理障壁を突破しただけでは、月見台(ムーンゲイザー)には到達できない」


「どうしろと?」


亜空間(スユードスペース)走路を使うしかない」教授は、わざとらしくマントを翻した「こんな具合にな」


 教授の体が忽然と部屋から消えた。


 ステイはベッドの上でため息をついた「亜空間(スユードスペース)走路、か、結局、そこから逃れるすべはない」


 ディスプレイの茶会(ティーパーティ)仲間は、一言も声を出せずにいた。


 ドアノブが回る音がして…


 音の方に目をやると、部屋のドアが開いた。


「セベレ」


「リモート会議は、なんて言うか、こう、伝わらないことが多い」シオーネ・セベレは照れ隠しに笑ってみせた「来ちまったよ」


「…すまん」


「謝るぐらいなら、あんなこと、するな」セベレは、思わず声を上げたが、すぐ、押し黙った。今日だけは怒るまい、と思ったが、もうだめだ。それでも、言葉を選んでボソボソと話し出した「何が、したかったんだ?」


月見台(ムーンゲイザー)というらしい」


「ムーンゲイザー?」


「高度1万5000メートルに浮かぶ、飛翔体、と言うか、島だよ。空の島(ヽヽヽ)…」


「行きたかったのか?」


「会いたかった」


あの子(ユータ)にか?」


 ステイは黙って(こうべ)を垂れた。


鹵獲(ろかく)した心理障壁(シールド)を解析して、何とかいけると思った。実際、そこは何とかなった。でも…」


「他にまだ何かあったのか?」


亜空間(スユードスペース)ドーム」ディスプレイの中からボロルマーの声がした「月見台(ムーンゲイザー)を覆う物理障壁だ。亜空間(スユードスペース)細切れ(フラグメント)をドーム状に配置している。通常、亜空間(スユードスペース)を任意に発生させることはできないが、すでにある亜空間(スユードスペース)に確率共鳴を起こして、他の亜空間(スユードスペース)を集めることができる。亜空間(スユードスペース)の密度が上がれば、確率的に物質を通さなくなってくるから、見た目も作用もガラスドームに似てくる…、こんなところか」


「ありがとよ、ボロルマー」


 ステイに聞いたのに、と、セベレは、あまり釈然とはしなかったが、ボロルマーの説明は理解しやすかったので、とりあえず礼を言った。


「本当に月見台(ムーンゲイザー)に行きたいのなら」ボロルマーは、淡々と続けた「ベルンシュタイン教授(せんせい)の言うとおり、亜空間(スユードスペース)走路を使うしかない。もちろん、できれば(ヽヽヽヽ)、の話だが…、セベレ(ヽヽヽ)


 ボロルマーはディスプレイの中から呼びかけた。


(キミ)と同じで、どうにも、リモート会議はもどかしい。場所と時間を設定してくれ。面と向かって話し合いたい」


 わかった、とセベレが答え、誰か異議はあるかと確認する。


「場所決めてくれたら、ちゃんと行く」ティルフィアが言った「顔も出すけど、なんて言うかな。リモート会議は併設してほしい」


 ああ、と部屋の二人(リアル)ディスプレイの中(バーチャル)の仲間も、納得した。


「心配しなくていい」セベレが言った「話すのも億劫なら、チャットでもかまわんよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ