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宇宙大回転マッハシステム ―― 第2象限  作者: 二月三月


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13/21

茶会《ティーパーティ》の理由


 リッツ・カールトン ミレニア・シンガポールの一室、アレシボ茶会(ティーパーティ)のメンバーは、いつもとは違う雰囲気の中、旧交を温めていた。


 窓から見えるマリーナベイサンズは、面白い。そう何度も見たいというほどではないが、シンガポールのランドマークであるマリーナベイサンズを見ながらくつろげる、というのは悪い体験ではない。しかも、マリーナベイサンズは、そこに宿泊している者は見ることができないのだから、なんとも皮肉めいている。誰も自分のことはわからぬものだ。


「てっきり、トンガに御招待だと思ってたんだが」ボロルマーが笑いながらセベレの肩を叩いた「ヌクアロファは良いところだ。あそこのデイトラインホテルは過ごしやすい」


「勘弁してくれ」セベレが片眉を上げた「こんな要人達(メンツ)をトンガに呼んだら、警護で国軍の2割を配備しなけりゃならん。そんなマネはできない。その点、ここ(シンガポール)なら金さえ払えばなんとでもなる。我慢してくれ」


 そんなに気を使う必要はない、と壁面の大型ディスプレイに文字が流れた。見ると、ティルフィアが部屋の隅っこでノートパソコンを叩いている。あいかわらずだ。


「教授は?」ステイが訊ねた「来ないのか?」


「みたいね」とマルティナが言う「呼んで来るような人じゃないし、来たい時は勝手に来るでしょ」


「そうだな」


「アイジュマルも遅れるって、先に始めてて欲しいと言ってた」


「はじめるって言ってもなぁ」セベレは苦笑いだ「このままだべってるだけじゃだめなのか」


 それもよい。


 壁面ディスプレイに表示された文字に、ボロルマーは吹き出した。たとえ、チャットでも、周囲に人がいると寡黙になる、とティルフィアが前に言っていた。居心地悪いのかと聞くと、そうではない、との返事で。ようするに緊張して人格が変わるということらしい。


「もともと、アレシボリプライの解析(デコード)を、各々勝手に、やっているだけだったからな」


 セベレは言ったが、ボロルマーはそれを必ずしも認めなかった。


「勝手にやっているのは確かだったが、茶会(おれたち)は、亜空間(スュードスペース)を避けてた。パレアナたちとの違いはそこだ。教授(せんせい)もそのことで、茶会(おれたち)を叱った」


 そしてパレアナは吉祥財団と組んだ、ディスプレイに文字が流れ、セベレはティルフィアを睨みつけたが、ティルフィアの貌は、セベレの予想に反して、真っ青だった。


「別に何をやってもかまわない。ただ、勉強をおろそかにするのは、話が別だ」ボロルマーは続けた「あまりにも上手くいかないので、俺たちは亜空間(スユードスペース)走路に向かうのをやめてしまったし、パレアナは根気強いとは言え、無理強いする質ではなかったから、こちらから何も言わなければ相手をしてくれないのは当然だ」


「他にやるべきことがあるはず、というのが、あの頃の言い分だった」ステイは言ったが、語気はかろうじて聞き取れるほどだ。まだ、回復はしてないな、とセベレは思った。


「あ、そんな顔するな。別に責めてるわけじゃない」ボロルマーは突然、大声で笑った。茶会(ティーパーティ)というか、デザイナーチルドレンは感情がうまく制御(コントロール)できていない「勘違いしないでくれ、これから勉強しようって話だよ。昔、うまくできなかったことはもういい、これから、もう一度やろう、って話だ」


亜空間(スュードスペース)をか?」


亜空間(スュードスペース)を、だ」


 昔の方が、頭が良かった気がする。


 壁面ディスプレイの文字は議論を押し留め、部屋の中に沈黙が降りた。だが、当のティルフィアは楽しそうで、顔に笑みさえ浮かべていた。


「確かに、あいかわらず俺たちは頭が悪い」ボロルマーは言い、視線をステイに向けた「すまん、あらかじめ言っておくが、これから話すことは、ステイ、君を馬鹿にしてるわけではないんだ。そこのところだけは汲んでくれ」そして、ボロルマーはみんなの方を向いた「亜空間(スュードスペース)ドーム、月見台(ムーンゲイザー)が良い目標になる。とりあえずアレを目標にすれば、練習できる」


「どういうことだ?」


亜空間(スュードスペース)ドームは人工的に亜空間(スュードスペース)を集めている。人工的(ヽヽヽ)っていうところがミソだ。亜空間(スュードスペース)走路の問題点はどこだ?」


「あり過ぎて、何だかわからん」


「局所観察では、入口がわかっても出口がわからないことだ。どこに飛ばされるかわからん」


「だから、亜空間(スュードスペース)走路の全データを持っているパレアナの協力が必要だった」


「協力はしてくれてただろ。実際、データリンクはしてた。データ量が無限大で、俺たちの手におえなかっただけだ」


 それにミスしてもパレアナが、いや、たま(ヽヽ)にはセドリックも手伝ってくれた。ディスプレイの文字を見て、セベレは、おや? と思った。ティルフィアが、セドリックに言及している。声でなくチャットラインであっても、こんなことは初めてだった。


「でも、俺たちは諦めてしまった。いつまでたっても自由に亜空間(スュードスペース)走路を通れない。そうだ、あれは、いつ発生するかわからない竜巻を乗り継いで、世界を旅するようなものだ。俺たちは、メアリーポピンズのように傘を開いて風に乗ったりはできなかったんだよ」


「風向きが変わるまで、待つこともできなかった」


「何だって?」


「何でもないさ。だが、助けがあったあの頃に、是が非でも使えるようになるべきだった」


「今からでも遅くない」


「遅くない? どうして?」


「だから月見台(ムーンゲイザー)なんだよ」ボロルマーが、ひときわ大声で叫んだ。ザ・リッツの防音が完璧であることを祈るばかりだ「あそこの亜空間(スュードスペース)を目標に何回も引っかかってれば、きっと、誰かが助けてくれる」


「誰かって、誰だよ」


「…パレアナ、とか。セドリックとか」


 あるいは教授。


「いくらなんでも、いまさら…。それは、ないんじゃないか?」


「それだよ、そのプライド、けっきょく、それが…」


「ちんけなプライドかもしれんが…」なぜかステイは、あの時の月見台(ムーンゲイザー)でのヴィジョンを思い浮かべていた「子どもたちもいる。恥ずかしい真似はできない」


 もしかすると、あの時の自分の行動こそ、恥ずかしい真似(ヽヽヽヽヽヽヽ)ではなかったか。ステイは、いまさらながらに思ったが、そこは黙っていた。


ーー恥をかくのは一度でいい


 ドアのロックが外れる音がして、開いた隙間から淡いラベンダー色のヒジャブが覗いた。


「ごめんなさい、遅くなりました」


 アイジュマル・バイラモフは部屋の中央へと進み出た。ここまでのやり取りを知らないアイジュマルは、何故か緊張気味の仲間たち、ひとりひとりに視線を送る。


「やあ、アイジュマル。助かったよ」マルティナは笑った「やんちゃ坊主どもは、毎度喧嘩腰だ。たまに顔合わせたんだから、もっと物腰柔らかにいかないものかな」


亜空間(スュードスペース)のことね」アイジュマルは難なく看破した「いずれにしても、もう避けては通れない。みんなで(ヽヽヽヽ)亜空間(スュードスペース)走路を踏破しましょう」



風邪を引いて一週間遅れ、読者さんへの言い訳でなく、記憶の凪いだ未来の自分への言付け

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