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地下アイドル探偵、真夏の夜の鎮魂歌  作者: さば缶
第7章: 「新たな一歩」
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第4節:「再生のステージ」

会場の暗転が解ける瞬間、私たちは深い呼吸を合わせていた。

今日はラストフレーズの復帰ライブ。

ステージの上手から立ち位置へとゆっくり歩き出すと、観客席のサイリウムがまばゆいばかりに揺れているのが見える。

それでも、いつもと違うのは水無瀬莉音の席が中央に空けられていて、そこに彼女の衣装と写真が飾られていることだ。


「――行こう」。

私、桜井未来の小さな呟きに、橘かりん・天野雪菜・篠宮ひなたが「うん」とそれぞれ頷いてくれる。

あの日から、どれだけ苦しい時間を過ごしただろう。

だけど、その苦しさに飲まれていたら、前に進むことはできないと分かっていた。


ステージ中央の空席には、真っ白なライトが当たっている。

オープニング映像には笑顔の莉音が映し出され、客席からも涙をすする声が聞こえた。

「莉音ちゃん、見てる…?」

そう思いながら、私たちは一歩踏み出し、マイクを持ち上げる。

客席のざわめきに耳を澄ますと、ファンの呟きがSNSで配信されているのだろう。スタッフが画面を見せてくれると、タイムラインにはこんな声が流れている。


@rioforever 莉音の分までみんな輝いてた… 涙が止まらない

@idol_fan_best これがラストフレーズの“再生”なんだよね 事件後もステージを諦めない姿勢、マジで尊敬する

@lovelyotaku998 Re:フレーズって新曲のタイトルらしい セトリのラストで披露するみたいだし、絶対ヤバい予感…!


熱気と涙が入り混じる客席に向かい、私たちはゆっくり深呼吸する。

それぞれが抱えた苦しみを、歌に変えるために。

ファンの力強い「未来ー!」「かりんー!」というコールがかすかに聞こえる。

そしていよいよ、初披露の新曲――「Re:フレーズ」が始まる。


新曲「Re:フレーズ」 歌詞全文

1番

涙の向こうに探した光

暗闇の中でも声は響く

ねえ 覚えているかな?

あの日交わした約束を


揺れるステージに立つ理由わけ

君がくれた“続き”だから

手を繋いで もう一度だけ

未来あすを一緒に歌おう


サビ

君が残したフレーズ

私たちの始まりの音

消えない記憶を抱きしめて

今日も歌うよ Re:フレーズ

涙の終わりから 繋ぐメロディ

君とともに――


2番

ひとつずつ重ねた時間が

いつか形を変えたとしても

信じ続ける限り

心はひとつ 響き合う


失った声も笑顔も

この場所にまだ生きている

傷ついても 乗り越えていく

君が見守ってるから


サビ

君が遺したフレーズ

私たちを強くする音

忘れない記憶を抱きしめて

今日も歌うよ Re:フレーズ

涙の終わりから 広がる未来

君のために――


ブリッジ

一度途切れた歌も

この胸で響いている

どこまでも繋がるから

もう怖くないよ


ラスサビ

君が遺したフレーズ

私たちの続きの音

涙を笑顔に変えていく

今日も歌うよ Re:フレーズ

いつまでも消えない このメロディ

君と歩く――未来へ


音源が流れ出した瞬間、私たち四人は目を合わせることなく、一斉に振り付けを合わせた。

それぞれのパートで声を重ね、客席からは震えるような歓声が起こる。

最初は涙をこらえようと必死だった私たちだけど、曲が進むにつれ、不思議と心が軽くなる気がした。

亡くなった莉音がステージ中央で微笑んでいるような感覚すらあって、胸が熱くなる。


そしてラスサビ――私たちが歌い出すと、客席は大きくうねり始める。

サイリウムの色がメンバーカラーに切り替わっていき、一体感が強くなる。

舞台袖ではスタッフが泣いているのが見えた。

SNSの実況にも、その光景がリアルタイムで伝わっているようだ。


@ruuu_rion ライブ配信観てる…新曲Re:フレーズまじ泣ける あの子たち、完全に覚悟決まった顔してる

@animeotaku999 なんだろう、アイドルなのにこんなに胸を抉る感じ… でも力をもらえる曲だね、ずっと聴いてたい

@lfrz_forever これが本当の“ラストフレーズ”の次の形なんだ…! 莉音もきっと誇りに思ってるよ


大きな拍手と歓声の中、私たちは曲を終えてステージに立ち尽くす。

胸にあるのは、終わったのに終わらないような、不思議な感覚。

ライトがゆっくりと落ち、暗闇に包まれると、私たちは自然と手を繋いでいた。

誰が先に言うでもなく、みんなが微笑みあう。

それは事件以来、ようやく形になった連帯感だった。


そして薄明かりがステージを再び照らし、私は一歩前に進む。

涙を浮かべながらマイクを握りしめ、


「――私たちはこれからも歌い続けます。莉音のためにも、応援してくれるみんなのためにも。ありがとう。」


客席からは「ありがとう!」と叫ぶ声や拍手が帰ってくる。

その時、頭の中で莉音の声がしたような気がする。

「おかえり」と囁くような、優しい響きに胸が締め付けられて、もう涙が止まらなかった。

だけど、その涙は悲しみだけじゃなく、確かに前へ進むためのものなのだと実感していた。


「莉音……これが私たちの“ラストフレーズ”じゃない。ここからまた始まるんだ。」


そう決意をかみしめると、暗闇と残光が織りなすステージの奥で、私たちの新たな一歩が静かに示されている気がした。

もうこのステージから逃げたりしない。あの子の遺したメロディに「Re:」をつけるように、新たな物語を紡ぐために。

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