仕官を求めて
笛が来てから幾日が立っていた、まだ傷は治っていない為にあまり動いていないが、
最近温泉の周囲が栄えてきているような・・・
「なぁ勝頼、最近温泉の周りの人が増えていないか?」
「今頃何を言っている?そりゃ怪我人が沢山来ているからな、人も増えるだろう。」
「そうなんだけど、怪我人以外も増えてないかと聞いてるのだが?」
「まあ、仕官を求めて来ている者もいるからなぁ。」
「仕官?」
「ヒロユキが上野から帰って来る時、乞食を拾って重臣として扱ってる事が広まっているんだ。
あわよくば自分もと思っているんだろう。」
「あーあれは同郷の者だからなんだけどなぁ・・・でも、いい機会かな?会ってみようか?」
「いいのか?」
「折角来てくれているんだし、いい人材が見つかればいいしね。」
「わかった、段取りをしておこう。」
「あれ、勝頼に頼めるの?」
「友人としてそれぐらいはするさ。」
「ありがとう、お願いするよ。」
「任せとけ。」
数日後、勝頼が広場に浪人達を集めていた。
浪人達の多くは自らの武勇を誇り、武芸をアピールしてきてはいたが、林崎重信の目にかなう者はおらず、また、兵の指揮をとれると言うものも戦略での見解が悪くあえて取り立てる程の者はいなかった。
そんな中、一人の猿楽師の見識に驚いていた。
この時代、文字が読めて計算出来るものは多くない、それが完璧に出来ている。
これだけでも採用して内務をさせてみたいと思ったが、この男は治水や町の開発計画などに一考するのに値する知識を持っていた。
「素晴らしい、名を聞かせてくれないか?」
「大蔵長安と申します。」
「良ければ家臣として勤めてもらいたいのだが?」
「はっ、宜しくお願いします。しかし、宜しいのですか?私は猿楽師にございますよ。」
「そんな些細な事はどうでもいいよ、俺は長安の才能を買いたい、それこそ、俺に仕官していいのか逆に聞きたいな。」
「土御門様は既に天下に名を馳せたお方、今後、更なる御活躍をなさるでしょう。
その時に私の名前も天下に刻みたいのです。」
「そこまで活躍出来るかはわからないけど、長安がいいなら俺を支えてくれ。」
「はっ!」
猿楽師が採用されたという話はすぐに広まる。
それまでは武勇を誇る者が多かったがこの日以降、多才なものが来るようになる。
人と思えない程の跳躍が出来るもの。
和歌や蹴鞠が得意なもの。
物真似の得意な者。
獣を狩るのが得意な者。
俺は一芸に秀でていれば一見使えるかわからない者もそれなりの録で迎える。
「ヒロユキ様は何故色んな方を雇われるのですか?」
ふと笛と二人きりの時に笛に聞かれる。
「そうだね、いつ何があるかわからないからね。
俺が出来ない事が出来る人は仲間にしておきたいんだ。」
「そうなのですか?ヒロユキ様に出来ない事なんてないように思われますが?」
「沢山あるよ、まず、武芸は全く出来ないし、笛さんみたいに笛を吹けない無いしね。」
「私なんてそんな・・・」
「笛さん、丁度いいや、また笛の音を聴かせてくれるかな?」
「はい。」
笛は俺の頼みを聞いてくれて、笛の音を聴かせてくれる。
この世界に来てから、色々あったが、この瞬間は全てを忘れて心地いい気持ちになれた。




