8.ゴミ
「第1廃棄場、ね」
サザリカは手に持つ地図とその場所を見比べる
「うわー、なんかすごいねえ……」
そこには幅は数100m、高さは20mにわたり、ガラクタが大量に積み上げられていた。
潰れた車、電子機器、ゴムチューブや布団、瓶やガラスや缶もある。
クミナその山に近づくと口を半開きにして見上げる。
サザリカは車を降りた位置でただそれを見つめている。
「こんなにたくさん……どこから来たのかなあ」
「……大昔の、人間がまだ地上に大勢いた頃のものか、それか……」
サザリカが顔を左に向ける、クミナは振り向くとサザリカの向く方を見る。
「塔?」
「うん、あそこに住んでる人間が、ここにゴミとして捨てていったのかも」
サザリカが塔を見上げる、相変わらず曇っており、頂上は見えない。
「塔に人が住んでるの? こんなにあるってことはたくさんいるの?」
「そうかもね」
「はー……」
クミナがサザリカの隣に駆け寄り並んで塔を見る。
「確か前にあそこに行こうとした時、途中から全然近づけなかったよね」
「あーそんなこともあったねえ」
「あれって、塔の人達が近づけないようにしてたのかな」
「その可能性はあるね。自然現象であんなことが起きるとは考えにくいし」
「……なんで、そんなことするんだろ」
クミナが俯く。その様子をサザリカが横目で見る。
「まあ、入られたくないんじゃない? 私達みたいなどこの馬の骨とも分からない、外の人間には」
「いじわるだなあ」
クミナが頬を膨らます。その顔を見たサザリカは微かに笑い、ガラクタの山へと近づいていく。
手の届く物を掴むと、少しだけ見て捨てる。手当たり次第拾っては捨てるを繰り返す。
「なんか、使えそうなものが全然ないなあ」
「ちょっと上の方も見てみようかな」
そう言うと、クミナがガラクタの上を登っていく。
「気を付けてねー、あとパンツ見えてるよー」
「もう慣れたよー」
クミナは気にすることなく登り続ける。
「女の子なんだから恥じらい持とうよー」
クミナはサザリカの言葉を無視してどんどん登っていく。
サザリカはそれ以上何も言わず、クミナからガラクタへと目線を下げると、歩きながら拾っては捨て、拾っては捨てを繰り返す。
上まで登ってきたクミナは辺りを見渡す。
遥か先までガラクタが敷き詰められていた。辺り一面真っ黒になっている。
風が吹くたびに、どこからかカシャンという音が聞こえてくる。
「うわー地面みたいだなあ」
クミナは下を見る。サザリカが歩きながらガラクタを拾っては捨てていた。
足元を向くと、落ちていた拳大の鉄球を拾う。
それを投げ捨てると、ガシャンという音が鳴り響いた。
「ふー、なんか良いのないかなあ」
そう言うとガラクタの上を歩き始める。
30分が経過した。
「なにもないなあ」
クミナはボロボロになった車のボンネットに寝転がり、空を見ている。
灰色の雲がゆっくりと移動する。
クミナは起き上がりあぐらをかくと、塔の方を見る。
「……はー」
またボンネット寝転がると、体を丸め目をつぶる。
「おーいクミナー!」
サザリカがクミナを呼ぶ。
二人が別々に行動してから1時間が経過していた。
サザリカは右沿いに探索をして、また元の位置へ戻ってきていた。
「どこまで行ってんのかね……」
サザリカはガラクタに手をかける。
ガラガラと小さい物が崩れる。
「あーもう」
サザリカは手を離すと別の場所に手をかける。
そして足をかけガラクタを登る。
ガラクタが時折崩れ、手や足を滑らせる。
「こういうの得意じゃないんだってえ」
サザリカは汗をかきながらも一番上へとたどり着く。
「はー……ってそこにいるじゃん」
クミナはすぐそばにある車の上に寝転がっていた。
サザリカは辺りを見渡し、目線をクミナに戻すと近づいていく。
「っとと」
ガラクタで足を躓かせる。
「おーいクミナさーん」
クミナの側まで来ると頬を軽く叩きながら名前を呼ぶ。
「ん……」
クミナが薄目を開く。
「ああ、おはようサザリカ」
「いや、おはようじゃなくてね、今探索中でしょ、何寝てんの」
「え……ああそうだったねえ、ごめん」
クミナはゆっくりと体を起こすとボンネットに座る。
「よいしょ」
サザリカもクミナの隣に座る。
「よくこんなとこで眠る気になれるねえ」
サザリカがクミナの頬をつつく。
「んー今日はびっくりすることが多くて疲れちゃったのかなあ」
「確かに今日はいつもより多かったね」
「そういえば、サザリカは何か見つけた?」
「いやあなんにも、ゴミばっかだよ」
「上も全然、ここって本当にゴミ捨て場なんだねえ……」
「そうだね……っと」
サザリカがボンネットから降りる。
「もう帰らない? 全部なんて探してられないし、探しても時間の無駄になりそうだし」
「そうだねえ、ちょっとがっかり」
クミナもボンネットから降りると背伸びをした。
二人はゴミの山を下りる。
クミナは半分ほどまで下りた所でジャンプで下に着地する。
クミナがまだ下りる途中のサザリカを見上げる。
「大丈夫ー?」
「このくらい楽勝楽勝……」
サザリカが足を着けた場所が崩れる。
「サザリカ!」
「ああっ! っとと……ふー」
サザリカは別の場所へと足を伸ばすと踏みしめる。
「怖いなあ……」
クミナがサザリカの真下へと移動する。
「もし落ちても私が受け止めるからねー」
「そんなヒロインみたいなことされたくないって」
サザリカはゆっくりと下りていき、クミナにだいぶ遅れて地面に辿り着くと服を払う。
「じゃ、帰ろうか」
「うん」
二人は車に乗ると元の方向へと車を走らせた。
「けっこう暗くなってきたなあ」
ガタガタと揺れる車内でサザリカはしっかりとハンドルを握る。
クミナが後ろを見る。
近くでは巨大な廃棄場も、離れると黒く細い一本の線になっていた。
クミナが席にもたれる。
「野宿はなしかあ、楽しみだったんだけどなあ」
「いや、今までの生活も野宿みたいなもんだと思うけど」
「レンガの家に住んでるのに野宿はないよー、野宿甘くみすぎい」
「すいませんねえ」
ダラダラと会話をしながら車を走らせるとシャッターが見える位置まで戻ってくる。
「えーっとあっちに行けばいいのかな」
クミナが地図を見る。
「地図を信じればそうなるね」
車はシャッターを通り過ぎ、そのまま右斜め前にある下り坂に入っていく。
道の両端は壁に囲まれている。
そのまま走らせると開けた場所へと出てくる。
右斜め前方には塔、左斜め全方には小さく拠点があった。
「ふーん」
サザリカが拠点の方角へと車を向ける。
「ここに出るんだー」
クミナはきょろきょろ周りを見る。
「そういえばこれってライト点くのかな」
サザリカがレバーを回すと、前方がぱっと明るくなる。
「おお、明るくなったねえ」
「よかった」
そのまま拠点へと車を走らせる。
拠点まで戻ってくると、車を家から数m離したところへと止めて、二人は降りる。
「んー着いたー」
クミナは背伸びをするとそのまま家の中に入る。
そして水浴び道具を持って外へと出てくる。
「水浴びしてくるねー」
クミナが車の点検をしているサザリカへと言う。
「あーわかったー」
サザリカは背中を向けたまま答えた。
その後箱や家の中の物を確認すると、外へ出てきて焚火を焚く。
野菜を雑に切ると、水と塩を入れた錆びた鍋の中へと入れ火にかける。
もう一度家の中へと入り、干し肉を持って出てくる。
「ふー」
サザリカは息を吐くと、立ったまましばらく焚火を見つめる。
パチパチと音を立てて木が燃える。瞳の中で火が揺れる。
サザリカは目を瞑ると空を見上げてゆっくりと開く。
「はー……」
もう一度息を吐くと家に戻り、水浴び道具を持ち出して川へと向かった。
「今日は色々あったねえ」
水浴びが終わると二人は焚火の前で食事をとっていた。
サザリカはそのまま地べたに、クミナは家の中から椅子を持ってきていた。
「ほんとね。今になって疲れがどっときてるよ、これ食べたらもう寝る」
サザリカは半目で煮込みを食べている。
「明日って、どうする?」
クミナはいつもと変わらない様子で干し肉をもしゃもしゃ食べる。
「んー……今日とは逆の方に行かない?」
「逆かあ、うん、そうしよう」
「車が手に入ったのは本当にでかいよ」
「そうだねえ、世界が一気に広がった感じだよ」
「まあ……そうかもねえ…………ふぁーぁ……ねむ……」
サザリカがあくびをする。
「クミナはなに、昼寝したから眠くないの?」
「こう見えてもけっこう疲れてるよ、私も今日はもう寝たいなあ」
二人は食事を終えると、火を消して2階へと上がる。
サザリカは下着姿になるとベッドへと倒れ込んだ。
クミナも下着姿でサザリカの横に寝転がる。
「じゃあおやすみー」
「おやすみー」
二人が目を瞑ると、微かな風の音だけが残された。