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パラレルファンタジー 番外編 その3

 「なんだ今の男は!?」



 もっとも偉いであろう最年長武士が若武士に怒鳴る。



「わかりません。しかしあの身のこなし・・・・・・」



 飛び込んだ男の残像でも見えるのか、対岸をじっと見据えながら答える。



「この近くには人など居らんはずじゃ。近くに廃村があるだけだろう?」



「私もそう聞いています。しかし、実際にいましたな。人里があったとしても、こんなところで人に会うことは・・・・・・」



「――物の怪の類か?」



 鋭い眼光が若武士に突き刺さる。それを気にした様子もなく、肩をすくめ返答する。



「いえ、間違いなく人間です。あれは武術を習得した者の動きです」



 その仕草に気分を害した様子もなく静かにうなずく。



「そういえば胴着を着ておったの」



「どちらにしろ只者ではないかと」



 その時、後方の山林から軽快な足音が聞こえてくる。振り向き身構える若武士を手振りで制し、「こっちだ」と鷹揚に手を上げる。先ほどの中年武士だ。二人と肩を並べ、興味深げに血痕の途切れた先を見やる。



「ご両人・・・・・・逃げられましたな?」



 語尾を疑問系にしてはいるが、明らかに嫌味を言っている。



「妙な男が邪魔をしおっての」



 血痕から目を離し、じとり《・・・》とした目で二人を振り返る。



「・・・・・・詳細をお聞かせください」



 言いたいことは山ほどある――と顔に書いてあるが口には出さず、気になる情報を先に処理する。



「血痕を辿り川岸に出たところで女を発見しました。矢を放ちましたが、川に飛び込まれ外しました。・・・・・・男は突然現れ、少女を追って川に飛び込んだようです」



 正しい情報を若武士――加六が述べる。その言葉を聞き、最年長の武士――伊藤が加六を睨み、中年武士――柴田が伊藤をねめつける。



 ――ふん・・・・・・と鼻を鳴らしあらぬ方向を見ている耄碌武士を無視し、中年武士は川辺に腰を下ろす。



 ――流れが速く水温も低い。しかも中心に向かって深くなっておる。深さがどれほどあるか知らんが・・・・・・手負いでは遠くまでは行けんな。



「どう致しましょう?」



「うむ・・・・・・。そうだな」



 考え込む柴田をよそに加六が尋ねる。答えようとした伊藤の機先を制し、柴田が指示を出す。



「手負いでこの川に永く浸かっていることは不可能であろう。まだ近くにいる。とりあえず少し下流を洗おう」



 こくりと頷いた加六を突き飛ばすように押しのけ、憤怒丸出しの顔で詰め寄る。



「指示はわしが出す! ――柴田よ、でしゃばるでない」



 瞳の不快感を隠すように頭をふり、どうぞ――と言わんばかりに手を上向きに差し出す。



「・・・・・・分かればよい。二人はこのまま川岸を下れ。なんとしても手がかりを見つけろ!」



 苛立ちが爆発するのをかろうじて堪え、「御意」とだけ返事を返す。立ち上がり足を踏み出そうとする柴田。



「伊藤様はどうなされるおつもりですか?」



 先ほどから黙って聞いていた若者が口を挟む。出しかけた足を止め、伊藤の横顔を振り返る。



「わしは一度向こう岸を見てくる。ほれ、あそこに脇差がころがっているじゃろ?」



 二人は目を凝らし対岸を見る。大石小石に混じり、鍔の無い脇差が投げ出されている。それを見つけた加六が「はてな?」と首をかしげる。




「おぬしが女を射ておった時じゃ。少々気になるので辺りを探ってまいる。依存は無いな」



 疑問符はつけず断定する老武士を見向きもせず、柴田は颯爽と走り出す。



「柴田!」



 制止の怒号が後方より放たれる。急停止した柴田が振り向く。今度は不快感を隠そうともしなかった。




「・・・・・・某にまだなにか?」




 その声に気圧された伊藤だったが、それを顔には出さず威厳に満ちた声で命令する。



「生け捕りだぞ。なるべく上半身を斬るな」



「・・・・・・某が信用できないと?」



 胡乱な瞳を向けながら、ぼそりと吐き出す。先ほどは気圧された伊藤だが、今回は内心も気圧されることはなかった。毅然とした態度で返答を叩きつける。



「おぬしは人斬り。念を押しておくのは当然じゃ。わしは貴い方に命じられてここにおる。勝手なことは許さぬ!」



「ならば私を外して、お二人で行かれてはいかがかな? 某はそれで構いませんが」



 心底うんざりしたように柴田が返す。



「拙者もそうしたいわ! ・・・・・・しかし、おぬしの方より承っておる。勝手なことはさせるなとな」



 こちらも心底うんざりしたように返す。無言の応酬が続く中、今まで黙っていた加六が口を開く。



「早く追わないと逃がします。あの女は普通じゃない」



 焦りの色を含んだ声音に二人は加六を振り返る。頷く加六に舌打ちを返し、柴田は踵を返す。加六がそれを追い、伊藤も川を渡るため浅瀬を探す。――ふと空を見上げると、さっきまでの日本晴れが嘘のように雲が増殖していた。




「まずいな。一雨きそうじゃ」



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