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第九話 港町タミール

 タミールに到着した一行は、まず食事をすることにする。朝から今まで飲まず食わずだったのもあるが、今後の指針を決めるためのミーティングも兼ねてであった。


「ねぇユーヤ。タミールって何か名物料理ってあるの?」


 打ち解けた口調で勇也に話しかけるアリス。これも勇也が耐え切れなかった結果でもある。最初マリアとアリスの二人は勇也のことを「ご主人様」と呼んでいた。しかし、堅苦しいことと子供を隷属させている感じを勇也が嫌い、普段通りの口調にさせたのである。まだ知り合って僅かしかたっていないのにもかかわらず、二人の口調はすっかりフランクになっていた。


「確か……、魚のすり身で麺を作って、出し汁と一緒に食べる『さかな麺』だったかな? あとは煮付けとかだった気がする」


「へぇ~。ユーヤっていろいろ詳しいんだね~」


「……旅とかしていた雰囲気はないのに。どうしてかしらね?」


(そりゃ、ゲームの中でしょっちゅう行ってたしな……)


 勇也はゲームでの記憶を呼び起こして答えているだけであり、実際は違うかもしれない。だが恐らく間違いなさそうだ。なぜならターミナと同じく、港町タミールも店の配置がゲームと一緒だったからである。もちろんここは現実であり、例えば屋台であるとか人々の賑わいとか細部は違いがあるのだが。一行はそんな会話をしている間にゲーム内でも存在していたレストランに着いた。


「着いたぞ。席空いてるかな?」


 勇也たち一行はレストラン『魚の目』に入る。まさか実際にそんな名前だったとは…。勇也はゲームスタッフの冗談だと思っていただけに軽いショックを受けたのだった。なんとなく足に違和感を覚える。


「へい! らっしゃーい!」


 威勢のいい呼びかけに耳を塞ぎかけるマリアだったが、香ばしい香りと、他の食事中の客の料理をみてすぐに忘れてしまった。幸いにも空席はすぐに見つかり、三人はそこに腰掛け、メニューを見る。


「さーて、魚の目っつったら、『刺身定食』かな。まさかリアルでもあるとは……」


 ゲーム内での名物料理を実際に目の当たりにし、


「ユーヤはなにぶつぶつ言ってるの? 私はこの『さかな麺の煮付け増し』にする」


「あたしはこのシーサーペントの照り焼きバーガーを頼もうっと!」


 いろいろとメニューを見て悩む育ち盛りの三人。どうやらゲーム内で無かった料理もいろいろあるようで勇也は目移りしてしまったが、結局日本人的に『刺身定食』に決定した。ちなみにメニューであるが、実際書いてある文字は訳の分からない綴りだったが、同時に日本語が浮かび上がってきて読めたのである。『全言語日本語化』は本当に便利なパッシブスキルだ。


「二人とも決まったか? じゃあ注文するぞ。すいませーん!」


 勇也は店員を呼び注文をする。ターミナ以外の町で始めての食事であり、周りの客の食べている料理をみると結構期待できそうだ。刺身がどんな魚の刺身かは分からないのがちょっと不安ではあるが。


「さて、とりあえず腹ごしらえしてから補給対策だな」


「輸入品だったら値段は高いのではないの?」


「輸送の手間が無い分、ターミナより安かったはずだ」


「ところで何を買うつもりなの?」


 首を傾げるアリス。泣き顔ばかり見ていた所為か年相応な表情が可愛らしい、将来が楽しみな美少女である。もちろん隣に座るおすまし顔のマリアも同じ顔なだけに可愛らしい。


「ああ、コロナダイトだよ。あれが無いと俺の武器は役に立たないんだ。定期的に安く確保したいんで下見に来たって訳」


「ほえ~。そんなのあるんだね~」


「えっ!」


「ほえ? どしたのマリア?」

 

 驚くマリアに驚き返すアリス。


「アリス……。暖炉に敷いてあったの知らなかった? あれがコロナダイトよ」


「えーっ! あれがそうなの? そういえばそんなのあった気がする…かも」


「……今思い出したんだけど、旅の途中で焚き火するとき使ってた気がする」


「じゃあ車両に置いたままかもしれないね!」


「ユーヤ。取りに帰る?」


 コロナダイトはこの世界の住人の生活必需品であり、火をつければ半年は燃え続ける鉱石だ。水を掛ければ消えるが、また火をつければまた燃え続ける便利な生活用品なのである。しかし勇也は首を横に振った。


「ありがたい話だけど、俺の武器は純度が高くないと使えないんだ。未使用のコロナダイトをさらさらの粉末状にして使うんだよ」


「そんな使い方をするのね……」


「あんな硬そうなのにどうやって粉にするの?」


「ああ、それはあとで実際にやって見せるよ」


 しばらく話をしていると注文した料理が来た。なかなかおいしそうだが、残念ながらご飯ではなくかけそばのようなものがある。さかな麺が主食なのだろう。いただきますをして、早速食べ始める。


「お、麺がなかなかうまい。ほっこりぷりぷりしてる。かまぼこ麺って感じかな。刺身もうまい……けどワサビ醤油が欲しいな」 


「ユーヤって、よく知らない単語使うよね。ワサビ醤油ってなーに?」


 口いっぱいに照り焼きバーガーを頬張ったアリスが聞いてくる。


「ああ、醤油は俺の故郷に伝わる調味料だよ。大豆から作るんだ。ワサビは薬草みたいなもんで臭み消しに使うんだだけど、ツーンと辛い感じがする香辛料ってやつかな」


「へー、シユの実みたいなものかな?」


「さあ? シユの実ってなんだ?」


「「えっ?」」


 勇也の疑問にマリアとアリスが驚き、アリスが勇也の刺身に指をさして教える。


「ユーヤの食べてるお刺身にかかってるよ」


「へえ、これがそうなのか。確かに似ているかもな」


 感心しながら刺身を頬張る勇也にマリアが質問する。


「ねぇ。ユーヤの故郷ってどこなの?」


「うぐっ!」


「あーっ! そういえばどこなんだろうね? すっごい知りたい! 実は大都会のお坊ちゃんとか?」


 突然の質問にたじろぐ勇也。興味津々の二人を前にして勇也は考え込む。


(マズイな…。神様のバックアップを受けて地球から来たなんて知れたらどうなるか…。テキトーな場所言ってごまかしても旅をしていればバレるかもしれないし……)


 腕組みをして悩む勇也を見たマリアがやれやれといった様子で、


「まあいいわ。ユーヤが助けてくれたのは事実なんだから。たとえどんなの出身でも…ね」


「えー、気にな……るけど、まあいっか!」


 マリアが尚も知りたがるアリスを肘でつついてこの話を強制終了させてくれる。空気を読んでくれたのだろう。


「ま、おいおい話すよ」


「うん。期待してる…」


「そういえば今日はどこに泊まるの? 野宿はいやだよ…」


 アリスの質問に勇也は、


「ここでいいだろ。タミール自慢のホテルがあったはず。うん…名前なんだっけかなあ?」


「じゃあ探しに行こうよ」


「そうね。ごはんも食べたしね」


 そう言って席を立った三人は会計を済ませ、タミールを探索に出かけるのだった。






 ☆~~~~~~~~~~~~~~☆





 店を出た三人はタミールのホテルを探すが、勇也の案内であっけなく見つかった。理由はホテルの外見が『巻き貝』のようであり、プレイヤーからは『う○こホテル』などと揶揄されていたからである。実は勇也はもともと知っており、食事中だったために気を使っただけであった。


「おー。あったあった。うん…『ホテルコンチワ』か。いままであだ名で言ってたせいか正式名称を初めて知った。確かにここだわ」


「へぇ~。なかなかよさそうだね~」


「そうね。おしゃれな外観じゃない」


 どうやら二人は初めて来たらしく、外観も気に入ったようである。ますますあだ名では言えない。そう思う勇也であった。


「ちなみにホテルの名物料理は『海鮮鍋』だったと思う」


「わあ! おいしそうだね~! なんかおなかすいてきちゃったよ」


「……早く日が暮れないかしら」


「ふたりともさっき食べたばかりだろ……」


 この世界の育ち盛りの女子の恐ろしさを感じつつ、一行はホテルを離れ、商店街へと足を運ぶ。


「わあ~! にぎやかだね~!」


「あ、そこに雑貨屋があるよ。ユーヤ!」


「お、燃料いくらかな? 75000カーネ以下だったら買いだけど……」


 雑貨屋に行き、商品を見る三人。鉄や銅線など様々な商品を扱っているようで、ゲームでは大雑把なラインナップだったことが伺える。目当てのコロナダイトは残念ながら90000カーネであった。


「た、高いな……」


 がっくりと肩を落とす勇也にアリスが提案する。


「ねえねえユーヤ。私たちのお金使って買えばいいじゃん。50万カーネはあるんだからさ~」

 

 しかし勇也は首を横に振る。


「従業員の財産をあてにしちゃダメだろ……。そもそも二人のお金なんだから、二人に必要なもの買いなさい。例えば防具とか」


「それこそユーヤが必要じゃん」


「そうね。その姿を見ていると悲しくなるものね……」


「ぐぬぬ……」


 勇也には防具を買う予定は無い。そもそも生産マスターである勇也は防具くらい素材があれば簡単に作れるのだ。だが双子は勇也の多彩な才能をまだ見ていないためこんなことを言ったのである。双子でなくとも現状の悲しい装備を見れば誰もが同じことを言うであろうが。


「って言うか、俺の財産20000カーネくらいしかなかったわ……」


「だめじゃん!」


「……あきれた。結局何も買えないじゃない」


「い、言ったろ。相場を下見に来ただけだって……」


 しどろもどろになって言い訳を始める勇也。確かに嘘は言ってない。アリスが首をかしげながら「買うって言ってたような…」と納得いかない顔をしているが、空気の読める少女マリアが助け舟を出してくれる。


「まあ、私たちも必要なものを揃えましょう。ユーヤは防具屋でも行って私たちに合いそうな物を調べておいて頂戴。私たちにはよくわからないから……」


 アリスに声を掛け、いろいろと探し始めるマリア。確かに二人は防具などは見ても分からないだろう。マリアは鑑定スキルを持っているが、この世界では一度も扱ったことが無ければ鑑定はできないのである。生産マスターの勇也は全アイテムを扱ったことがあるので可能なのだ。


「じゃあ、行ってくるな。良いのあったら教えるから、ここで待っててくれ」


「はーい!」


「…ん」


 こうして勇也は防具屋に行くことになった。といっても店は目の前なので大した手間でもない。店に入った勇也は展示されている防具のなかで、子供に合いそうなものを探す。


「ふーむ。サイズが合うのがないな……、このローブくらいかな?」


 勇也は鑑定スキルを発動し、出てくるPOPを見てみると、どうも相場以上の値段で売っているようであり、更に言えば質も悪い粗悪品だったりする。買う価値は無さそうであった。さらに後ろには、


(…フラチナメイル(笑)ってなんだよ……。ネタじゃなかったのかよ)


 勇也の正面に白金プラチナ製の鎧が堂々と飾られており、値段も二百万カーネとお高い。しかし鑑定POPでは「フラチナメイル(笑) 素材:鉄クズ」とあり、生産する際にできる失敗作であった。


「行くか……。作った方が早いわ」


 無駄な時間を過ごした勇也は店を後にし、先程の素材屋に戻る。するとマリアとアリスの二人はすでに買い物を終えているようで、勇也を見かけるとぱたぱたと集まってきた。


「おかえり~」


「…防具は、いいのあった?」


 勇也はマリアの問いに首を横に振る。


「ぜーんぜん。パチもんばっかりだったわ! 俺が作った方が早いんで買わずに帰ってきた」


 勇也の答えを聞いたマリアが驚いた表情をする。


「えっ! ユーヤは防具を作れるの?」


「えーっ! そうなの? でも作れるんだったら、なんでそんな貧相な……」


「ま、まあいろいろと…。そ、それより二人は買い物終わったんだろ。何買ったんだ?」


 勇也が話を逸らすと、二人は笑顔を見合わせて、買ったものを差し出してきた。


「えへへ~。じゃーん!」


「…お礼にあげる」


 受け取った袋を開くと、そこには結構な数のコロナダイトがあった。このマリアとアリスが買ってくれたコロナダイトで十分にレーザーブレイドとコスモガンの両方のエネルギーを満たすことが出来、さらに言えばエナジーパックをストックできるほどの量でもあった。


「…こ、こんなに? いいのか? 貴重なお金だったんだろ?」


「あたし、実は『値切り』スキルがあるんだ」


「あの泣き落としで店員がどうして値引きしたくなったのか不思議なんだけど……」


 アリスも商人の娘だけに有効なスキルを持っている。マリアはアリスの値切り方に疑問を持ったようだが、実際に大量のコロナダイトを安く購入できたのだ。


(値切りスキルって俺は取ってなかったな。そもそも俺、ゲームでは屈指の金持ちだったし……。でも、こんなにもらっていいのかな?)


 勇也がしみじみと感銘に浸っていると、マリアとアリスが心配そうな顔をしていた。


「どうしたの?」


「……やっぱり足りない?」


 勇也はとんでもないと手を振り、二人の頭をやさしくなでる。本当は抱きしめたかったが、なんとなくアウトな気がしたのでなでるだけにしたのだ。


「悪いな。気を使わせちゃったか……。貴重な資金を俺のために……ありがとな」


「ううん、いいよ。そのために来たんだし」


「……もともとユーヤの装備の補給は大事だし、旅の野営にも必要だもの」


「ぷぷぷ。そういうことにしとこっか~」


 勇也は気がついていないが、マリアのほっぺがちょっと赤くなっている。そもそもコロナダイトの購入のいいだしっぺはマリアなのだ。


「二人とも、ホントに助かるよ。お礼に二人にはすんごい防具作ってやるからな」


「……うん、期待してる」


「それじゃあ、そろそろ海鮮鍋食べに行こうよ~」


 こうして勇也一行は補給を終えて、うん……ホテルコンチワへと向かうのであった。


別に抱きしめても二人は文句言いません。特にマリアは。

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