第十話 疑惑
ばっさり修正しました。
勇也たち一行はホテルコンチワにてチェックインを済まし、部屋に着いて荷物を置いた後、ホテル内のレストランへと足を運ぶ。ルームサービスよりも自慢のオーシャンビューを堪能しようと言うわけである。ゲーム内では見れなかった、黄昏時のオーシャンビューだ。
「へぇ~。実際に来て見るとCGとは違うなあ。夜景が綺麗だわ」
「ホントだ。向こうはターミナかしら? 明かりが見えるわ」
「えへへ~。海鮮鍋はやく煮えないかな~?」
一人だけ違う感想を述べているが、もう慣れたものであっさりとスルーする。もちろんはらぺこ少女はアリスだ。しかし、すまし顔のマリアも実は負けていなかった。
「ん!」
すばやく鍋の蓋を開け、サッとアクを取りまた蓋をかぶせる。
「……吹き零れる寸前が食べごろ」
(景色を見ていたと思ったら、同時に鍋も見ていたとは……。この子は立派な鍋奉行になるでぇ……)
思わず関西弁でマリアに感心していたら、蓋が蒸気でぐらりと揺れる。すると一瞬の間にマリアが蓋を開け、おたまを取り出す。
「……煮えた。ユーヤ、どれを食べる?」
「あーっ、マリア! あたしこれがいい!」
「だめ。ユーヤが先……」
「二人とも、先に好きなの取っていいぞ」
勇也は特に好き嫌いは無く、量もまだたっぷりあるため食べたがりのはらぺこ双子姉妹に先をゆずった。切り身、練り物、野菜などいろいろな具材が入っており食欲をそそる。スープがすごく美味しそうだ。
(この星は時間やら気候が地球と似ているんだ。だから過ごしやすいのかな。食べ物も似てるから違和感なかったけど、ここは異世界なんだよな……)
異世界を感じさせない異世界に改めて感心する勇也。そんな勇也の前に、具だくさんの小鉢が置かれる。マリアが取ってくれたのだろう。とても美味しそうだ。
「それじゃあ。冷めないうちに食べようぜ」
「うん! いただきまーす!」
そう言って海鮮鍋を食べ始めると、海の幸と野菜のダシがふんだんに出たスープが勇也を満足させる。そこに狙いをすませたかのようにウエイトレスがやってくる。
「……失礼いたします。〆の食材はどれになさいますか?」
「えっ! そんなのあんの?」
「……はい、当店ではランダ諸島名産の『米』、小麦のみで練った『麺』、すり身を練りこんだ『さかな麺』と三種用意しておりますが」
「米が食えるのか! じゃ…」
そう言いかけて勇也は思いとどまる。マリアとアリスの意見を聞いていなかったからだ。しかし二人は、
「米って食べたことなーい!」
「そうね。さかな麺は昼に食べたものね……」
と、勇也に賛同してくれる様子である。
「……じ、じゃあ『米』で」
かしこまりましたと一礼してウエイトレスが下がる。
「まさかタミールで『米』が食べられるなんて…。最悪ランディまで行かないとダメだと思ってたからスゲー嬉しいわ」
ランディとは『ランダ諸島連合』という国の首都である。ゲーム中でランディに米を使った回復料理が多数あったため、『米』の存在自体は知っていたのだ。しばらくすると先程のウエイトレスがワゴンに乗せて運んできた。
「…来た」
「これが米かぁ~。どばーっとお鍋にいれちゃうの?」
米を見ると勇也のよく知るジャポニカ米ではなくインディカ米に近い種のようだ。スープ系には合いそうだ。しかし勇也はさびしそうな表情をしていた。
「…どうしたの?」
「……ユーヤの知ってる米はこれではないの?」
不思議そうに首をかしげる二人。問題は米ではなく別にあった。
「……ごが」
「ほえ?」
「…『たまご』が付いてねえええええ!」
日本なら間違いなく付いてくる『たまご』がなかった。異世界ではたまごをいれないのだろうか。勇也の叫びにアリスも首をかしげる。
「…たまごって、何に使うの?」
「ひょっとして、スープにたまごとか入れないのか?」
「……普段は焼いて食べるわね」
一応ゲームでも卵料理があったので、存在自体はあるはずである。だが文化は日本とはやはり違っっていた。もともとそんなに食べないと言うのだ。たまごが大好きな勇也にとっては由々しき事態である。
「…貰ってくる」
「いや、いいよマリア。そこまでし…」
遠慮しがちな日本人。それは異世界でも変らない。しかし遠慮しない少女の前には全くの無意味であった。
「えー、気になるからマリア貰ってきて~」
そう問答している間にすでにマリアは厨房へと行っており、しばらくして戻ってくる。もちろんカゴに入ったたまごを持ってである。
「……貰ってきた」
「ユーヤ。どうするの?」
「こうするのさ」
何の気無しに片手でたまごを割り、ちゃかちゃかととき卵を作る勇也。密かにマスターしている料理スキルが発動しているのだ。マリアとアリスは勇也の鮮やかな手並みに驚く。
「まあ、まずは米にスープをかけただけのものを食べてみてくれ」
そういって勇也は卵無しの雑炊を渡す。
「ん、おいしいよ」
「…これが米なのね」
「今度はこっち」
半熟に煮た卵入りの雑炊を渡すと、ふたり?は風味の違いに気付いたようで、
「ん、こっちもおいしいよ」
「…さっきよりやさしい味ね」
「わはは。そうだろそうだろ」
あっという間に食べつくした三人はレストランを後にし、部屋に向かう。そのときに勇也は、
(久々の雑炊スゲーうまかった。う○こホテルなんていってごめんな…)
と、心の中でホテルコンチワに謝るのであった。
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部屋は三人一緒の部屋である。
部屋に戻った勇也は、早速燃料やサーベルタイガーの牙などの素材を仕込もうと準備するのだが、先程からなぜか双子がそわそわとしている。一体どうしたのだろうか。
「ん、どうしたんだ? 早く寝た方がいいぞ。俺は仕込みしてから寝るから、遠慮なく先に寝ててくれ」
そう促すのだが、マリアもアリスも俯きがちになっている。
「…具合でも悪いのか?」
ふるふると首を横に振る二人。明るいアリスももじもじとしているようだ。意を決したようにマリアが口を開いた。
「…ほーしって……。その……」
「ん? 星?」
ぶんぶんと首を振るマリア。今度はアリスがはっきり口を開いた。
「ねえ、ユーヤ…。夜の奉仕って、あたしたちなにをすればいいの?」
アリスの発言に呆然とする勇也。一体二人になにがあったのだろうか。
「ほ、ほ、奉仕って? なんでいきなりそんなことを?」
「……だって、連れてってくれる条件なんじゃないの?」
「ど、奴隷の…、女の子は、いつも夜に奉仕するんだ…って聞いたから……」
二人の様子を見るとどうも大真面目であり、茶化しているわけでもない。しかし勇也的にはナンセンスだ。二人はまだ子供でもあるし、勇也はもっとはっきりとしたプロポーションを持つ女性が好みなのだ。
(そもそも神様が見てるし、幼児性愛者じゃあるまいし子供相手はなあ……。まあ、俺もドーテーだけど……)
顔を真っ赤にしているマリアの頭をそっとなでる。
「……子供がそんなことしなくていいよ。今日はもう寝ろ」
「……いいの?」
二人はほっとした…、と言うよりも拍子抜けした様子である。
「……そもそもお前たちは俺の奴隷じゃないぞ。変な勘違いすんな」
「うん…」
「ん…」
うなずく二人。今度はほっとした表情をしている。やはり不安だったようだ。
(この子達は随分思いつめていたみたいだ…。先に『仲間だ』って言っておけばよかったかな…。どうしたもんか…)
そう勇也は心の中で反省するが、これは勇也の勘違いである。数日前まで普通の日本暮らしの勇也にはまだ惑星ユニシスの世界を理解できていない。
ここトキーノ大陸は他の大陸と比べ、魔獣も弱く比較的安全な方であるが、それでもサーベルタイガーのような魔獣はいる。
この惑星は日本と違い日々魔獣の危険に晒されているのだ。
例えば、怪鳥ラードンなどは人間の子供を好んで食べる魔獣であり、家族でピクニックに行って、親の目の前で子供を咀嚼されるのを見た家族が何組も存在する世界でもあるのだ。
勇也が日本人であるからこそ二人は見捨てられず助かったのであり、これが勇也でなければあっさりと奴隷にされていたであろう。惑星ユニシスの人間界はそんな世界なのである。
勇也は日本人的な理念で動き、二人はユニシスの行動理念で動いているため、どうしても微妙な齟齬が生じてしまうのだ。
だが日本人である勇也はそんなことを知る由も無く、考える。
(やっぱりショックでかいよな……。親が亡くなったなんて、俺だったらその場から動けねぇよ。この世界の子たちってみんなたくましいのかな……)
勇也は二人を見てそう感じていた。これからも二人はついてくるのだろうか聞いてみる。
「なあ、二人ともホントに俺についてくるのか?」
うなずく二人。勇也は更に続ける。
「俺のこの武器ってさ。トキーノ遺跡のごみから部品集めて作ったんだ。俺、ごみ山で怖がられるような男なんだけどそれでもいい?」
ごみから武器を作ったと聞き、驚いたマリアとアリスはお互いの顔を見合わせ、そしてうなずいた。 勇也は更に更に話を続ける。
「俺、この武器を使ってもっと強い魔獣を狩るつもりなんだ。すごい危険なんだけど、それでもついて来るか?」
アリスが口を開いた。
「あたしも魔獣を狩りたい。あたしはあいつら許せないもん。そのユーヤの持ってる武器があれば、あたしでも狩れると思う。あたしもその武器が欲しい。だから一緒に連れてって欲しいの。お願い! あたしたちを弟子にして! ね、マリア!」
マリアもうなずき、口を開く。
「……私も魔獣を狩って、私たちみたいな思いをする人を減らしたい。ユーヤが私たちを連れて行けないなら、せめてサーベルタイガーを狩るときだけでも私たちを連れて行って欲しいの。あとはユーヤの家の世話でもなんでもやるから……」
その話を聞いてはっとした勇也は双子から強烈な闘志を感じ、おもわず気圧されて考え込んだ。
(……ふうむ。二人は連れて行かなくても、このままだと武器を盗って魔獣を狩りに行くかもしれないな。そうなったら二人が危ない。メンテできるのは俺だけだしな。武器もバレたし、やっぱり連れてった方がいいかもしれないな。俺も正直ゲームでのことしか知らないから、情報は欲しい…な…)
あごに手を添えて考え込んでいる勇也へ、更にマリアが付け加える。
「……あと、ユーヤはなんか他の人とは違う……。うまくいえないけど、不思議な感じがするの……だから……」
勇也はそのマリアの一言に、運命的な何かを感じ取る。決心は付いた。
「よし、わかった。じゃあ、俺の話を聞いてくれ」
勇也は立ち上がり、
――ポケットからスマートフォンを取り出した。




