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ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


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100/100

100 まるをつけるちゅうもんひょう

――まるをつけるちゅうもんひょう――


お店で売りたい料理が、少しずつ決まってきた。


温かいスープ。


柔らかい丸パンのバーガー。


厚切りベーコンを挟んだパン。


それから、希望するお客さんには卵も追加できるようにしたい。


でも。


選べるものが増えると、その分だけ注文も複雑になる。


誰が何を頼んだのか。


卵を追加するのか。


追加するなら、どんな焼き方がいいのか。


全部を頭の中だけで覚えるのは、きっと大変だ。


ぼくは、さっき思いついたことをもう一度考えた。


前に屋台のお手伝いをしたときには、注文を紙に書いてもらっていた。


あの方法なら、今度のお店でも使えるかもしれない。


「……よし!」


ぼくは、持っていた荷物から紙を一枚取り出した。


「おじさん!」


「ん? どうした?」


行商人のおじさんが、こちらを向いた。


ぼくは、紙を広げて見せる。


「おきゃくさんにね、ほしいものへ、まるをつけてもらうの!」


「……丸を?」


「うん!」


「それで?」


「それをみながら、つくるの!」


「……なるほど」


おじさんが、紙を覗き込んだ。


「注文を全部覚えようとするんじゃなくて、紙に残すわけか」


「そう!」


「確かに、それなら間違いも減らせそうだな」


「えへへ!」


ぼくは、紙を置いて、書くものを取り出した。


まずは、料理の名前。


バーガー。


ベーコンサンド。


スープ。


それから、卵を追加するかどうか。


目玉焼き。


オムレツ。


スクランブルエッグ。


それぞれの横に、丸をつけられる場所を作る。


最後に、注文する数を書く場所も付けた。


「……できた!」


ぼくは、書き終えた紙を持ち上げた。


「みて!」


「おっ、もう書いたのか?」


「うん!」


行商人のおじさんが、注文票を受け取った。


「ふむ……」


おじさんは、上から順番に目を通した。


「欲しい料理を選んで、卵を追加するなら焼き方も選ぶ。それから数量を書くわけだな」


「そう!」


「なるほど。これなら、注文を聞くたびに覚えておかなくても済む」


「うん!」


ぼくは、屋台の作業台を指差した。


「ちゅうもんをもらったら、ここにおくの!」


「……ここ?」


「うん!」


作業台の端。


料理を作る邪魔にならず、紙が汚れにくそうな場所。


そこに、注文票を置いておく。


「それでね!」


「おう」


「つくりおわったら、こっち!」


今度は、少し離れた場所を指差した。


「……なるほど」


行商人のおじさんが頷いた。


「まだ作ってない注文と、作り終わった注文を分けるわけか」


「そう!」


「それなら、同じ注文を二回作ったり、作り忘れたりすることも減らせそうだな」


「えへへ!」


「注文が重なったときにも、順番を確認できる」


「うん!」


おじさんは、感心したように紙を見つめた。


「なかなかいいじゃないか」


「やった!」


でも。


そのときだった。


「……ちょっと待てよ」


雑貨屋のおじさんが、横から注文票を覗き込んだ。


「ん?」


「それ、本当に間違えずに使えるか?」


「……?」


ぼくは、首を傾げた。


「どういうこと?」


「じゃあ、俺が客になってやる」


「……おきゃくさん?」


「ああ。試しに注文してみるぞ」


「うん!」


おじさんは、少し考えてから言った。


「バーガーを二つくれ」


「うん!」


「ただし、一つには目玉焼きを追加してくれ。もう一つは卵なしだ」


「わかった!」


ぼくは、注文票に丸をつけようとした。


バーガー。


数量は二つ。


卵は……。


「…………あ」


手が止まった。


バーガーを二つ。


でも、目玉焼きを追加するのは一つだけ。


この紙だと、卵を追加する方と、しない方を分けて書けない。


「……あれ?」


ぼくは、注文票をじっと見た。


「ははっ! どうした?」


雑貨屋のおじさんが笑った。


「……わからなくなっちゃった」


「だろ?」


「……むぅ」


せっかく作ったのに。


これでは、注文を間違えてしまうかもしれない。


すると、行商人のおじさんが笑った。


「いいじゃないか。さっそく問題が見つかったな」


「……いいの?」


「ああ。お客さんから本当に注文を受ける前に気づけたんだからな」


「……そっか!」


ぼくは、もう一度紙を見た。


同じ料理でも、卵を追加するものと、しないものがある。


それなら。


一つずつ、分けて書けばいい。


「……あっ!」


ぼくは、新しい紙を取り出した。


「じゃあね!」


「おう?」


「ひとつずつ、かくの!」


「……一つずつ?」


「うん!」


今度は、一行に一つの料理を書くことにした。


一行目。


バーガー。目玉焼き追加。


二行目。


バーガー。卵なし。


三行目。


スープ。


こんなふうに、一つずつ分けて書く。


「……できた!」


ぼくは、新しい注文票を見せた。


「これなら、どう?」


雑貨屋のおじさんが、じっと見つめた。


「……なるほど」


一行目を指差す。


「こっちのバーガーには目玉焼き」


「うん!」


二行目。


「こっちは卵なし」


「そう!」


三行目。


「それから、スープが一杯か」


「うん!」


「……これなら分かるな!」


「やった!」


ぼくは、嬉しくなって笑った。


「ははっ! さっきよりずっといいじゃないか!」


行商人のおじさんも頷いた。


「同じ料理をいくつ頼まれても、一つずつ書けば間違いにくいな」


「そう!」


「少し紙は使うが、注文を間違えるよりはいい」


「うん!」


最初に作った注文票は、もう使わない。


でも。


無駄だったとは思わない。


実際に注文してもらったから、直した方がいいところが分かったんだ。


「……えへへ」


すると、肉屋のおじさんが腕を組んだ。


「なあ、坊主」


「ん?」


「その紙、字が読めない客はどうするんだ?」


「……あっ!」


そうだった。


町の人が、みんな文字を読めるとは限らない。


読めても、書くのが苦手な人だっているかもしれない。


でも。


それなら、簡単だ。


「そのときはね!」


「おう」


「ぼくがきいて、まるをつけるの!」


「……なるほど!」


肉屋のおじさんが笑った。


「客が自分で書けなくても、坊主が代わりに書けばいいわけか」


「うん!」


「それなら、誰でも注文できるな」


「そう!」


文字が読める人には、自分で丸をつけてもらう。


読めない人には、ぼくが聞いて書く。


小さな子供なら、料理の名前を指差してもらうのもいいかもしれない。


そのためには、簡単な絵を描いておくと分かりやすそうだ。


「……えへへ」


また一つ、やってみたいことが増えた。


「それにしても、坊主」


行商人のおじさんが、注文票を手に取った。


「ん?」


「これ、使い終わっても捨てるなよ」


「……どうして?」


「営業が終わった後で、数えられるだろ?」


「……かぞえる?」


「ああ」


おじさんは、注文票を指差した。


「例えば、バーガーが何個売れたのか」


「うん!」


「ベーコンサンドが何個売れたのか」


「うん!」


「スープが何杯売れたのか」


「うん!」


「それから、卵を追加した客が何人いたのか」


「……あっ!」


ぼくは、目を見開いた。


そうか。


注文票を残しておけば、後から全部数えられる。


それに。


目玉焼き。


オムレツ。


スクランブルエッグ。


どれが一番多く注文されたのかも分かる。


「……すごい!」


「だろ?」


行商人のおじさんが笑った。


「前にも販売記録の話をしただろ?」


「うん!」


「これなら、注文を受けるだけで記録が残る」


「そうだね!」


前に屋台を手伝ったときにも、何がどれくらい売れたのかを数えていた。


でも。


今度は、注文を受けた紙をそのまま残せる。


後から思い出して書く必要もない。


「……えへへ!」


「しかもな」


行商人のおじさんが続けた。


「ん?」


「その記録は、次に材料を買うときにも役に立つぞ」


「……どうして?」


「例えば、何日か営業して、バーガーの方がたくさん売れたとするだろ?」


「うん!」


「そうしたら、次は丸パンや挽肉を少し多めに用意した方がいいかもしれない」


「……あっ!」


「反対に、ベーコンサンドがあまり売れなかったら、細長いパンやベーコンは少なめにしてもいい」


「なるほど!」


八百屋のおじさんも頷いた。


「卵も同じだな」


「ん?」


「追加する人が多ければ、その分だけ多めに仕入れる必要がある」


「うん!」


「逆に、あまり注文されないなら、最初からたくさん買わなくてもいい」


「そう!」


ぼくは、注文票を見つめた。


ただ、料理を間違えないようにするための紙。


そう思っていたけれど。


それだけじゃなかった。


どんな料理が人気なのか。


どんな材料が、どれくらい必要なのか。


それを考えるためにも使えるんだ。


「……でもな」


行商人のおじさんが言った。


「ん?」


「一日や二日売れた数だけで、決めつけるのはよくないぞ」


「……どうして?」


「雨の日と晴れの日じゃ、客の数が違うかもしれないだろ?」


「……あっ!」


「それに、たまたまバーガーが好きな客ばかり来る日だってある」


「うん!」


「だから、何日か記録を取って、少しずつ考えるんだ」


「わかった!」


おじさんは、満足そうに頷いた。


「そうすれば、勘だけで材料を買うより、無駄を減らせるかもしれない」


「うん!」


ぼくは、新しく作った注文票をもう一度見た。


最初は、ただ丸をつけてもらうだけの紙だった。


でも。


実際に注文してもらったら、書き方を変えた方がいいと分かった。


そして。


使い終わった後も、大切な記録になると教えてもらった。


「……えへへ」


なんだか、この小さな紙が、とても大事なものに見えてきた。


「いいじゃないか、坊主」


行商人のおじさんが笑った。


「ん?」


「小さな店ほど、こういう工夫が役に立つんだ」


「そう?」


「ああ。覚えなくていいことは紙に任せれば、その分だけ料理や客のことを考えられる」


「なるほど!」


「もちろん、実際に使えば、また直したいところも出てくるだろうけどな」


「うん!」


「そのときは、また考えればいい」


「そうだね!」


ぼくは、注文票を大切に持った。


まだ、お店は開いていない。


料理も作っていない。


でも。


お客さんが来たときに、どうやって注文を受けるのか。


その方法が、一つ決まった。


「……えへへ」


ぼくは、四輪屋台を見上げる。


小さな屋台。


でも、そこには少しずつ、いろいろな準備が増えている。


料理を作る道具。


材料を仕入れる相手。


そして、注文を間違えないための紙。


まだまだ、考えないといけないことはたくさんある。


それでも。


一つずつ決めていけば、きっと前に進める。


「……よし!」


ぼくは、注文票をそっとしまった。


試験営業の日に、これを使ってみよう。


そして、また何か困ったことがあったら。


そのときに、考えればいい。


そう思うと、なんだか少しだけ、お店を開く日が近づいたような気がした。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
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