10 見窄しい女の真実
【① とある国王の懺悔】
ワシは判断を間違えてしまった。
我が息子は愚か者で国王など務まる能力を一切持ち合わせていなかった。
しかし、親心というものは恐ろしい。
ワシは我が息子可愛さにこの国でもっとも優秀であった令嬢を愚かな息子の婚約者としてしまった。
令嬢の名はマーガレット。
学園に通う間ずっと主席と優秀な令嬢であった。
彼女が隣にいてくれれは愚かな息子でも国王として務まる。
ワシは息子に勘違いさせないように息子に愚かさを認識させるようにした。
その事が余計に息子の心をねじ曲げてしまったのかもしれない。
結果、ワシは結んだこの婚約は令嬢を苦しめるものとなった。
愚かなワシは判断を誤った。
この婚約が令嬢をここまで苦しめるものになろうとは思いもしなかった。
5年間もワシは彼女の事を苦しめてしまった。
彼女とは第二王子であるカイルと婚約を結ばせるべきだったのだ。
カイルはグレイブと違って優秀であった。
王となる器をもっていた。
カイルとマーガレットならばこのアルオニ国をより素晴らしい国へと導いてくれたに違いない。
それをワシはグレイブ可愛さに判断を間違えてしまった。
判断を間違えたのは私だけではない。
我が妻も同じであった。
妻は令嬢から再三告げられていた。
だが、妻は黙殺したのだ。
要因はただ辺境伯の娘という爵位に不満をもっていただけであった。
たったそれだけの理由で妻は彼女を苦しめていた。
よくよく考えれば妻は爵位しか持ち合わせていなかった。
だから納得いかなかったのかもしれない。
だが、その結果が今回の歪みの原因となった。
歪みの原因であった者を許す訳にはいかない。
妻とは離縁する事にした。
最後まで喚いていたが、妻の罪は重い。
赦す訳には行かなかった。
虚言を吐いた文官の娘を処分する事にした。
表向きはクビだが、王太子の婚約者を貶めたのだ。
クビだけで赦せるはずがない。
文官長をクビにした。
この男がしっかりと仕事をしていれば違った未来があったはず。
この男の罪も重い。
だからこの男の爵位も剥奪する事にした。
そして、愚息であるグレイブを処分しなくてはならない。
だが、予想外な事が起きた。
グレイブ自ら王太子の地位を返還すると申してきた。
そしてカイルを陰ながら支えていく旨を伝えて来た。
愚かな息子は愚かなりに成長していた。
ワシが行った事は全く無駄ではなかったようだ。
マーガレット嬢の損失を考えると愚息の成長など採算が合わない。
だが、ワシは喜ばずにはいられなかった。
ここに来てまでワシは親馬鹿のようだ。
本当に老害はタチが悪い。
一番の罪人であるワシは退位する事にしよう。
歴史にしっかりと残さなければならない。
『歴史上、もっとも愚かな王』として。
それがワシの贖罪なのだから。
【② 幼き日の思い出】
「きみ、なにしているの?」
「ほんをよんでいるのよ?」
「きみ、いつもほんよんでいるよね?」
「ほんをよむといろいろなことをしることができるわ」
「いろいろなことをしってどうするの?」
「しょうらいのだんなさまといっしょにおしごとをするためよ」
「どうして?べつにきみがしごとをするひつようはないよね?」
「だって、いっしょにしごとをしたほうがよりおおくのしごとができてゆたかにすることができるじゃない」
「それじゃあさ、ぼくがりょうしゅになったらいっしょにしごとしてくれる?」
「う~ん、べつにいいわよ」
「やった!やくそくだよ」
だけど、彼女はこの日以降、マグーシュ領に来る事がなくなった。
翌年、自国の学年に通う事になったらしい。
そして、卒業とともに王命により王太子の婚約者となってしまった。
「ラルカン、オールド公爵の令嬢から婚約の申し出が来ているのだが・・・」
「解りました。一度お会いしてみます」
会った令嬢は爵位だけの令嬢であった。
共に歩もうとする令嬢ではなかった。
私が望む令嬢はもう手に入らないのだろう。
ならば、このまま一人でも構わないと思い令嬢には今回の話はなかった事にして貰った。
「マーガレット嬢と王太子が婚約破棄をした!?」
アルオニ国の王宮で行われたパーティーに参加していた父上から告げられた言葉に驚いてしまった。
こうしては居られない。
直ぐに婚約を申し出ないとまた他の者に奪われてしまう。
「父上、隣国のマホーニー辺境伯邸に行ってまいります」
「待つのだ。少し待て!」
「待ってなどいられません!悠長に構えていたら再び他の者にとられてしまいます」
「そのような心配はないはずだ。だから今すぐ行くのは良くない。これはマーガレット嬢のためを思っての事だ」
父上のマーガレット嬢を思っての事だと言うので言う事を聞く事にした。
一月ほど待ち商人に変して伺う事にした。
マホーニー辺境伯には下話あった。
ああ、やっとこの日が来た。
マーガレットに会える。
マーガレットと婚約する事が出来る。
10年も待った夢が叶えられる。
『最愛な者と一緒に政務を行う』という夢が。
そして私はマホーニー辺境伯邸の扉を叩く。
「ラルク商会の代表をしておりますラルクでございます」
【③ この世界の真実】
とある世界にアルオニ国という国があった。
この国の国王は優秀であったが息子である第一王子のグレイブは愚かであった。
しかし、我が子可愛さに国王はアルオニ国で一番優秀だとされた令嬢を婚約者とした。
令嬢の名はマーガレット・マホーニー。
マーガレットは優秀であった。
だが、優秀であるマーガレットが本来行いたかった仕事はグレイブが行う仕事ではなく文官達が行う仕事であった。
そこでマーガレットは同級生で文官として務めていたフレアに職務の交換を申し出た。
しかし、マーガレットがグレイブの公務を代わりに行う事は王命であった。
それを代わりに行うなどと断るフレアを脅しマーガレットは無理矢理に公務を交換させた。
二人が公務を交換して5年間。
アルオニ国に繁栄が訪れた。
フレアは学園ではマーガレットに一度も叶う事はなかったが、それでも上位に位置する成績を残すほどの優秀であった。
そのため、マーガレットの代わりにグレイブの代わりの公務を行うフレアは順調に仕事をこなしていた。
一方、マーガレットも優秀さを発揮し、海港税の根拠や陳情書の素案を完璧にこなしていた。
マーガレットとグレイブが婚約を結び5年後のある日。
王宮では盛大なパーティーが行われる事となっていた。
そのパーティーでは最後にマーガレットとグレイブの婚姻を発表する予定であった。
しかし、グレイブ殿下によってマーガレットの人生は転落するものとなった。
「グレイブ・バーンズはマーガレットとの婚約を破棄し、ここにいるフレア・フルーレと婚約を結び直すとする」
「どうしてですか殿下?」
「貴様は王命であった私の政務の補佐を放棄していた。5年間、私を助けてくれていたのは隣にいるフレアだ。王命を背く者が王妃になどもってのほかだ」
騒ぎを聞きつけ国王は騒ぎの元凶である者達を会場から退場させた。
そして、5年目にして初めて国王は知る事となった。
マーガレットが王命に背いていた事を。
王命に背いたマーガレットを擁護する事は出来ない。
よってマーガレットはグレイブとの婚約は解消され王命を背いた罪で貴族牢に入れられた。
そしてフレアとグレイブの婚約は無事に結ばれる事となった。
牢の中で文官の政務を行うマーガレットの元にフレアとグレイブの婚姻式が行われる事を知った。
マーガレットは時々、同じ夢を見るようになった。
まだ幼き頃、隣国の子と交わした約束を。
そして目覚め現実に戻される。
「おい、『見窄しい女』食事の時間だ!」
貴族牢に入れられたマーガレットの姿は高貴な貴族とは思えない程の姿をしていたため、皆から『見窄しい女』と囁かれるようになった。
此がこの世界の真実。
この世界の真実は別の世界の者が考えたシナリオであった。
【④ 見窄らしい女が足掻いた事は1つだけ】
「・・・」
「・・・」
「・・・」
学園卒業間際のマーガレットは前世の記憶を取り戻した。
フレアに階段から突き落とされた衝撃で取り戻したのだ。
記憶を取り戻した私はこの世界の真実を知る。
そして私の置かれている立場はあまり宜しくなかった。
既に王命によりグレイブとの婚約が下されていた。
マーガレットの夢は共に公務を行い二人で協力しながら領地を豊かにしていく事であった。
なので、無能で任せっきりなグレイブとの婚姻など勘弁して欲しい。
しかし、王命には逆らえない。
しぶしぶ、王宮へ向かうが、今のマーガレットはグレイブ殿下の代わりに公務を行っていた。
フレアと交渉し王命を放棄する事はしなかった。
マーガレットが行った悪足掻きはそれだけであった。
その悪足掻きで話が変わっていった。
最初は些細な事であった。
文官が提出した書類を指摘したら文官が睨んできた。
そして文官達が次々と公務を放棄してきたのだ。
私はこれを利用する事にした。
文官達の公務を行い時間がない事を理由に睡眠時間や食事の時間をわざと削った。
鏡に映る姿を見て自信が湧いてきた。
(こんな姿の者が王妃に相応しい訳がない)
私は一つだけ気を付ける事にした。
グレイブが行うはずの公務である。
この公務を怠ける事は決してしてはいけない。
そのため、グレイブの公務は最優先で行ってきた。
『見窄らしい女』とグレイブから言われるようになった。
世間からも噂が広がるようになった。
予定通りだ。
そして予定通りに婚約も破棄された。
後は、どうやって隣国の彼に会いに行くかであった。
ただ、不安が残る。
あの子とマーガレットは同じくらいの年齢であった。
なので既に結婚していても可笑しくない。
最低でも婚約を結んでいる可能性が高い。
それに私の噂も既に耳に入っているかもしれない。
見窄しいと言われた令嬢となど結ばれたいなどと思わないはず。
私は諦めようとした。
だが、まさか向こうから訪れるとは思わなかった。
彼は知らない。
私が最初から気付いていた事を。
私が忘れる訳がない。
彼の微笑んだ時の癖や黒子の位置を。
私は教えてあげない。
彼の為に『見窄しい女』と罵られる事を覚悟していた事を。
『見窄しい女』が異世界の小説の中の話だという事は私だけの秘密にした。




