第二話 魔法の針と新たな仲間 (1/6)
「秘密の技術なんですね、わかりました。決して口外しないと約束します」
咲歩がキリッと返事をしてくれる。
「それと、ぷっぷちゃんなんだけど、もしいらなくなったりした時には、わたしにゆずってもらってもいいかな」
「え? それは……構いませんけど、ぷっぷちゃんは私が初めて自分で作った大切な子なので、ずっと一緒にいたいと思っていますよ」
咲歩はテーブルの上に置いてあったぷっぷちゃんを両手で大切そうに持ち上げた。
うさぎちゃんは咲歩の肩に座っている。
咲歩がにっこり笑ったのが、皆にも分かった。
「そっか、それを聞いて安心した」
リビングに咲歩を待たせて、私は部屋から小さな箱と糸を持ってくる。
小さいけれど美しい装飾が施された、見た目よりもずっしり重い箱。材質はプラスチックでもなければ、木でもなくて……何でできてるのか分からない。
箱を開けると、深い紫のツヤのある布の上にピッタリ針一本分のくぼみがあって、そこにピカピカ輝く金の針が入っている。
「わぁ、キレイですね」
咲歩がほうっとため息をついた。
「キレイなだけじゃなくて、この針は、魔法の針なんだ」
「魔法……ですか?」
「うん。魔法の針でぬうと、ぬいぐるみに命がやどるの」
「いのち……」
「だから、命をうみだすときには、その子を絶対最後まで大事にするって約束しないとダメなんだ。さーちゃんは、ぷっぷちゃんを最後まで大事にしてくれる?」
咲歩は背すじを伸ばして、しっかり答えた。
「はいっ」
私は金の針をそうっと箱から取り出すと、ぷっぷちゃんの体の色に合わせて選んできた白い糸を、まっすぐに針穴へ通す。
その瞬間、針からキラキラの魔法があふれて、糸を伝って私に届く。
心臓が、どきんと大きく鳴る。
このドキドキが、私は最高に好きだ。
白いフェルトで作られたぷっぷちゃんは、元々ぽっぽちゃんという鳩のキャラクターの作成キットで作られていた。
同じ形に切られた二枚のフェルトの内側にわたを詰めて縫い合わせただけのシンプルな作りなのに、不器用な咲歩が作った初めてのフェルトマスコットは本来のぽっぽちゃんとは程遠い見た目になっちゃったんだよね。
咲歩はこれではとてもぽっぽちゃんとは呼べない。と言いながらも、ぽっぽちゃんには及ばないがイマイチでぺっぺ……いやイマニでぷっぷちゃんと呼ぼう。と初めての手作りマスコットにぷっぷちゃんという名前をつけて可愛がっていた。
私はあの頃の咲歩の言葉を思い出しながら、手を動かす。
お腹側のほつれた糸は、結んで内側に入れ込んで、ほつれた部分の前後を含めて丁寧にブランケットステッチでぬい合わせた。
フェルトの間で玉結びをして、結び目をぷっぷちゃんの内側に隠すと、糸を引きながらハサミで切る。
「すごいです。さすがみこちゃん、とってもお上手ですね。あんまりきれいでぬい目がキラキラしてるような気が……」
私の手からふわりと浮き上がったぷっぷちゃんは、ぬい目から広がったキラキラに全身を包まれながらくるくる回っている。
このスキに、私は手早く糸を抜くと金の針を拭いて箱に戻した。
ぴこぴこ、と尾の先が動いて、ぎゅっと全身を捻ってから、ぷっぷちゃんは私の広げた両手の中に見事に着地………………したんだけど、パタン。と倒れてしまった。
仕方ないよね、平たい感じのフェルトマスコットだから。
「ぷっぷちゃん、大丈夫?」
立ててあげると、ぷっぷちゃんは「ぷぅ」と鳴いた。
……うん?
「ぷっぷちゃん、目覚めてすぐで悪いんだけど、聞きたいことがあるの」
私は気を取り直してぷっぷちゃんにたずねる。
ぷっぷちゃんはキリッとした顔で答えた。
「ぷっ」
えっと、もしかして、これ……。
私が嫌な予感に引きつっていると、今まで黙っていた咲歩が「ぷっぷちゃん!」と飛びついてきた。
私の手からぷっぷちゃんをさらった咲歩が、ぷっぷちゃんを見つめて言う。
「すごいです! 本当の本当に、これは魔法ですっ!」
「魔法の針だからね」
「ではこちらのぞうさんとうさぎちゃんも、みこちゃんがこんな風になさったんですか!?」
「うん、去年から一緒に過ごしてるんだ」
「去年から!?」
「あ、その……ごめんね、今まで内緒にしてて……」
「いえいえ、そんな。こんな秘密の技術ですもの、話してくれて嬉しいです」
咲歩の言葉にホッとして、力が抜ける。気づかないうちに緊張してたみたいだ。
「よかった……。人に話したのは、さーちゃんが初めてなんだ」
「そうなんですか!? わ、私、絶対、誰にも言いませんからっ!」
いつも落ち着いている咲歩がこんなにこうふんしてるのってめずらしいな。
私がくすくす笑っていたら、咲歩が真剣な顔で小さく首を傾げた。
「ですが、どうしてまた、急に私に話す気になったんですか?」




