第一話 消えた写真と私のヒミツ (4/4)
***
「もしもし、お電話かわりました」
「あっ、さーちゃん、ごめんね急に電話して」
「いえ、それはかまいませんが……。どうしたんですか?」
「それが……」
電話を切って十分もしないうちに、インターホンが鳴る。
咲歩の家はうちのマンションの隣の隣のマンションだ。
この辺りは背の高いマンションがたくさん建っていて、小学生もまたたくさん住んでいた。
「お邪魔します」
「さーちゃんいらっしゃい。ごめんね急に呼び出しちゃって」
「いえ、それはかまいませんが……。どうしたんですか?」
うん、こんな会話さっきもやった気がする。
「えっと……」
どこから話したらいいんだろう。
魔法の針の話?
咲歩はぬいぐるみが動いて喋ったら、怖いと思うかな……?
「やあ咲歩さん、いつもみことと仲良くしてくれてありがとう」
「こちらこそ、みことさんにはお世話になっていて……」
私が悩んでいると、ぞうさんが先に声をかけた。
玄関で靴を揃えていた咲歩が振り返る。が、そこには誰もいない。
「もう少し下だよ」
咲歩の目が、足元に立つぞうさんを捉えた。
と、思ったけれどそこからさらにキョロキョロと声の主を探し始める。
「話をするのは初めてだね。僕はみことの最初の友達で、みことには「ぞうさん」と呼ばれている象のぬいぐるみだよ」
「このぬいぐるみ、中にスピーカーが入ってるんですね」
咲歩はひょいとぞうさんを持ち上げる。
「わぁ」
ぞうさんの声に、咲歩はにっこり微笑んで「すごいですね、センサーも入ってるんでしょうか、とても自然なリアクションです」と言った。
な……っ、なるほど!?
確かに、今どきこのくらい喋って動く高性能なぬいぐるみも売ってるんだろうなぁ。高そうだけど。
「みこちゃんは私にこれを見せようと、呼んだのですか?」
咲歩が振り返ると、いつの間にか私の背中によじ登っていたうさぎちゃんが飛び出した。
「あたしもいるよーっ」
「きゃっ」
可愛い悲鳴をあげつつも、咲歩はうさぎちゃんを受け止める。
「えへへ、あたしも咲歩ちゃんとずっとお話ししたかったんだぁ」
うさぎちゃんは咲歩の腕の中でぴょこぴょこ飛び跳ねた。
「もう一つあったんですか? こちらはぞうさんよりもコンパクトなのに、重量も軽くて、すごいですね」
「一つって言い方はちょっと傷ついちゃうなぁ。ひとり、じゃなくてもいいから、せめて一匹とか一羽にしてくれない?」
「そ、そうですよね、ごめんなさい」
「あたしは、みこちゃんにうさぎちゃんって呼ばれてるよ。咲歩ちゃんの事はなんて呼んだらいい?」
「私のことはそのまま……いえ、うさぎちゃんのお好きに呼んでください」
咲歩の口元が微笑む。もしかして咲歩はうさぎちゃんの対応を試してるのかな。
「うーん、じゃあ、さほっちとか? さほさほも可愛いなー。あ。みこちゃんみたいにさーちゃんって呼ぶのもいいかもっ♪」
咲歩がポカンと口を開ける。
「す……すごいですね……」
私は咲歩の反応に、ホッとしたような残念なような微妙な気持ちをいだきつつ、口を開いた。
「えっと、それでね、さーちゃん」
「はい?」
「さーちゃんのぷっぷちゃんも、こんな風に動くようにさせてもらってもいいかな?」
「えっ!?」
だ、だめかな、やっぱり。ランドセル横でぴょこぴょこされたら目立つもんね。
「できるんですか!? ぜひお願いしますっっ」
咲歩は私にずいっと詰め寄ると手をぎゅっと握って言った。
「あ、えっと、ただ、ぷっぷちゃんの中を見たりとか……そういう事はしないって約束してくれる?」
「極秘技術と言う事ですか……」
咲歩は真剣な声でそう言った。
「そ、そうじゃないんだけど、ええと……」
「咲歩さん、僕たちは科学の力で動いてるわけじゃないんだ」
ぞうさんの言葉に咲歩が腕の中のぞうさんを見る。
「だから、こんな風にむぎゅっとされると、ちょっと苦しいんだよ」
「あっ、ごめんなさいっ」
咲歩が慌ててぞうさんを床に下ろした。
「ではいったい……お二人はどういった原理で動いてるんですか?」
咲歩がぞうさんとうさぎちゃんを交互に見る。
ぞうさんとうさぎちゃんは、私を見つめた。
咲歩も私を見る。
私はごくりと唾をのんで、咲歩にまっすぐ向き合った。
「誰にも言わないって、約束してくれる?」