第三話 二回目の犯行予告と意外な一面 (3/5)
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二時間目の中頃、教室にやってきた教頭先生を見て、そういえばあの日もこんな風に教頭先生が各教室を回ってたな。とぼんやり思う。
三時間目が自習になったのも先週と一緒だけど、今日は算数の時間だった。
ってことは先週とは曜日が違うって事だよね。
今日は木曜日だけど、前回はえーっと……。
「先週の火曜と同じ感じじゃない?」
「また爆弾予告とか?」
「でも結局どこの小学校も爆弾とか無かったよね」
「俺たちが知らねーだけで、どっかで爆発してたとかあんじゃねーの?」
テレビではそんなニュースは見なかったし、そもそも先週の爆破予告のことだってテレビのニュースにはなってなかった。
世の中の事って、実はあんまりテレビではわかんないのかも知れないなぁ。
そんな事をぼんやり考えていたら、先生が戻ってきた。
前回よりも早い気がする。
算数のドリルはまだ二問目までしか解けてない。
「また、前と同じような予告状が市役所に届いたそうです。どうやら他県でも同じような予告状が届いているらしくて、今日は警察のパトロールと地域の方の見守りが出てくださいますが、下校時刻は変わりません」
沢田先生はいつも通りの声で、一息に説明した。
「やっぱり」とか「またかー」とか「どーせいたずらだよ」といった声でクラスがざわつく。
先生は「下校中、何か不審なものを見かけたら、触らずにすぐ先生や保護者の方に知らせてください」と前と同じような注意をしていた。
今日はせっかくセオルを連れてきたのにな。
放課後残っていたら、先週みたいに注意されちゃうんだろうな。
「爆弾ってどんなのかな」
「原子爆弾だろ!」
「そんなの個人じゃ持ってないよ」
「だってあちこちの小学校で……」
今日は一日中、あちこちで爆弾の話が飛び交っていたけど、不思議と本当に怖がっているような声は聞こえてこなかった。
みんな心のどこかで、自分たちは大丈夫だって、自分たちの学校は選ばれないだろうって思ってるみたいだ。
「でも私も、なぜか皆と同じでそんな風に思えちゃうんだよね。安心だと思っていい理由なんて、どこにもないのに不思議だよね」
帰りの会が終わって、皆が帰っていくのを見送りながら私はそう呟く。
私の呟きに、背中に背負ったランドセルの中からセオルが小さい声で答えた。
「それは、正常性バイアスと同調性バイアスのせいだね」
「セージョーセー……なに?」
少し遅れて、咲歩の三組からもぞろぞろと人が出てくる。
私は人が途切れるのを待ってから、咲歩のところに向かった。
「どちらも心が自分を守るための正しい機能だよ。予告状くらいたいした事じゃない、と危険や不安を過小評価することで安心しようとするのが正常性バイアス。誰も爆弾が怖いって逃げ出さないから、皆同じように授業を受けてるんだから自分も大丈夫だと安心させてくれるのが同調性バイアス」
「面白い話をしているんですね」
咲歩の隣まで行くと、咲歩は嬉しそうにそう言った。
「そう言われたら、確かに……。本当は、爆弾が仕掛けられてる可能性があるなら、すぐ学校から帰るのが良いんじゃないのかな」
「その通りだよ。さすがはマイレディ。バイアスに惑わされる事なく、よく正解に気付いたね」
ランドセルの蓋を開けると、セオルが決めポーズっぽいポーズで私に向かって手を差し伸べてきた。
「きゃーっ、セオル様のそのポーズは! 真実に辿り着いた時のポーズ!!」
「えっ、なに? ポーズにもいちいち名前がついてるの?」
「そうですよっ。私は全シリーズ全ポーズコンプリートしてますからねっ」
そういう収集要素があるんだ……?
咲歩はちょっとドヤ顔してるみたいだ。
「ふふ、ありがとう。咲歩さんはボクの事を本当によく知ってくれているね」
セオルに微笑まれて、咲歩が激しく動揺している。
「そそそそんなっっ、わ、私なんて、まだまだですぅぅっ」
確かにゲームのセオルはイケメンかも知れないけど、このセオルぬいぐるみはランドセルに六人くらいは詰め込めそうなサイズだし、ぬいぐるみなだけあって顔は丸っとしている。
それでもそんなにときめけるって、恋する乙女はすごいなぁと思う。
……これは、千山くん負けちゃうんじゃないの?
このちっこいぷにっとしたセオル様に。




