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22. 『彼の自己紹介』

「つっても、何から話すか」


 啖呵を切って話すと言ってしまったが、いかんせんアルトの身に起きた出来事やら状況やらが現実の範疇を超えているので、口を開こうにも自然と口籠ってしまう。

 女神と会っただったり、時間を戻っただったりそんな常識外れなことを言って信じてもらえるのだろうか。


 ………。


 いや、なんだか信じそうだ。こちらに向けられたキラキラした彼女の瞳は疑心さというものを忘れたかのような目つきに思える。


「何々?もしかして何から言えばいいかわからない感じ?あ、じゃあ私から質問する!」


 と、口をつぐんでいるアルトに対しリーネルが「はーい!」とニコニコまぶしい笑顔で元気よく手を挙げた。

 それから並べるように口を開いて、


「まず、アルトって何者なの?なんでこの村にいるの?どこから来たの?それに、いきなりこの村に現れたと思ったらなんか牛悪鬼と戦うし、魔法使えない子だし。どこ出身の子?」


「…………」


「どした?私は聞いたよ?教えて!教えて!アルトのこと知りたい!」


「お前は真っ直ぐな奴だな。」


「真っ直ぐなやつ?私今褒められた?」


「何でもねえよ。お前の人間性に同情しただけだ」


「何で憐れまれてる⁈」


 まっしぐらに質問攻めをするリーネルに対し、アルトは呆れたように嘆息する。

 これだけ一方通行に言葉を捲し立てるとは、さすがに身侭にも程がありはしないだろうかか。

 この女性と関わる者達は苦労しそうだ。


「ふえぇぇ」


 一方、リーネルはといえば「好きな人に悲しい目で見られたぁ!」と嘆いて泣き目の様子を浮かべている始末。思いっきり肩を落としている。


「うう、なんか今のは心えぐられた……」


「なんで今日一落ち込んだ表情してんだ……。まあ、いい。そんなのはどうでもいいが、まず俺が何者かってとこからか」


「うわあ。女の子が落ち込んでるのにどうでもいいって……。アルトって毒舌なとこあるよね。いやでも、そこら辺はこれから私が優しい手ほどきで教えてあげれると思うと……あ、ちょっと楽しみ」


「不安心をかきたたせること言うな。てか、話変えてんじゃねえ。」


「あはは、ごめんちょ。んじゃ、アルトはどこの誰様だい?」


「イルエス王国って知ってるか?」


「………ん、あ、ん?何?」


 唐突に地方の名称が出てきたことにリーネルはキョトンと首を傾げる。眉を寄せながらアルトの言ったことについて「えーっと」と思考を巡らした。それから、言葉を紡いで、


「んんと…?イルエス王国?イルエス王国って……なんか聞いた事があるかも。えっと確か、結構大きな国だよね。まあまあ、街も盛んなとこじゃなかったっけ?それがどうしたの?」


「俺はそこの王族だ」


「え?ああ。……うん?」


「イルエス王国セリージャ王の一人息子。俺の名前はアルト・セリージャ。肩書を言うなら俺はイルエス王国の王子だ」


「何を急に言ってるの?」


 アルトの言に未だ目を見開いたままのリーネル。急な彼のそのような自己紹介に頭が追いつかなかった。

 次いで、リーネルは虚げに眼を丸くさせながら、アルトヘと指を指して、


「王子?」


「そうだ。」


「アルトが?」


「あぁ」


「何で、そんな、嘘言うの?」


「嘘じゃねえわ、馬鹿野郎」


 澄み渡った綺麗な瞳でリーネルはアルトの言うことに眉根を寄せる。

 それから「うんん?」と額に手を当てながら嘆息し、


「王子?一国の王子?え?てか、この世界に王子様って存在するの?絵本の中だけかと思ってた」


「お前の知識はどこで潰えてんだ」


「何者なの?って聞いたけど、まさか王子とか言ってくるとはこれにはお姉さん予想外。え、本当なの?そこまで勿体ぶって言ったくせに、これが嘘だったら頬っぺたつねるからね?」


「嘘じゃねえっつってんだろ。それに何で俺がそんな仕打ちをおまえから受けなきゃいけねぇんだ。」


「妻として、夫の虚言は怒ります!」


「段階が飛んでやがる」


 なぜすでに婚儀が済んでいるのか口出ししたいところだが、拉致が開かないと思ったのでこれ以上は割愛。


 アルトは「はあっ」と肩をすくめながら嘆息し、


「まずここで嘘を言う理由がないし、そもそもこれはれっきとした本当の話だ。」


「んんー……、本当って、そんなこといきなり言われてもちょっと受け入れるのが難しいよ。なんか細かいとこから説明してくれないと。」


「まあ、そう来るわな。」


 怪訝な様子を浮かべるリーネルを見て、ごもっともな反応だとアルトは肩を竦める。

 それから、付随するように彼女に説明してやり、


「イルエス王国第一王子、まあ第一つっても国王の息子は俺だけだが、とにかく俺はその国で生まれた。さらに言えば、その国の騎士団にも所属していたのが俺だ。」


「おおっと?騎士団?また、新たな言葉が…」


「剣術や戦闘時での身のこなしは王宮で身につけた。その騎士団にいたからな」


「はえー、けんじゅちゅ…、そうなんだねー。」


「ある程度、そこで魔法も習い、剣術も磨けれた。でも、今は魔法が使えねえみたいだけどな……」


「わあー、すごーい。パチパチパチ…」


 真剣に話すアルトに対し、リーネルは笑みを浮かばせながら聞いている様子。けれども、それは様子だけだ。

 彼女は口をポカンと開けながら虚げに拍手をするくらいであり。


「お前、…聞いてんのか?」


「聞いてるよー。私はアルトの言うこと聞き逃さないもん。」


「………。」


 そう言い、微笑んだ表情を見せるリーネル。


 しかし、アルトの説明に対して軽く棒読みで返答されていることに少し懸念さを感じざるを得なかった。

 なんだか、ぼーっとしているようなそんな感じで、


「…いや、まあ、いいや。今は理解してくれりゃぁそれで」


「……でもまあ正直、聞いたけど」


「あん?」


「聞いたけど、全然わかんなかったかな。テヘッ、」


「意味ねえじゃねえか。」


 コツンと自身の頭をつつき、ぺろりと舌を出してリーネルは苦笑い。

 そんな彼女にアルトは半目でジトリと応じ、

 

「お前が説明しろっつったのに、なんで理解してねえんだよ」


「いやいやでも、聞かれさる側のことも考えて?急に王宮やら騎士団やらってなんの話さ?こんな小さな村に住んでる私にそんなこと言われても頭の中はてんてこ舞いだよ。」


「そりゃ、そうかもだけど、本当のことだから仕方ねぇだろ。」


「そそ、そこそこ。本当っぽいのが驚きなんだけどね。」


 アルトの言に対してリーネルは眉根を寄せながらもぴっと指を立てて微笑する。


 だが、彼女はそこで「うん」と柔らかく頬を緩めてうなづき、彼に対して口を開く。


「なんだか奇天烈な話だよ。本当のことだなんて言われてもピンとこないし、正直信じれるような話じゃないや。でも、うん!アルトの言ったことだから、アルトだから信じてあげる。アルトは嘘なんてつかなそうな男の子だと思うし。まず大好きな人の言うことだもん、大好きだから疑わない。」


「そーかよ。なんかもういいやそれで」


 クシャリとした笑みを浮かばせるリーネルの好意に、もはや反骨心を持つこともかったるくなり、アルトは彼女の言葉を受け止める。


 と、そこでリーネルが「うーん」と眼を落としながら首を捻り、


「いやでも、王子、王子ね。私はアルトだったから信じたけど、普通ならでたらめ言ってるしか思えないことだよ?そんな身分の人がこんな小さな村にいるのもよく分かんないし。仮に、それを村のみんなに言っても信じるかなー、なんて。」


「そんなの言われても、事実なんだ。信じる信じないは聞いた側が勝手に決めろ。俺は嘘は言わねえ主義だ」


「おお、言い切る感じ男らしい。子供っぽいとこもあると思えば、今のはちょっとギャップ萌え。さすが、私の惚れた男」


「その返答は不本意だ」


「んっふふー!そういう照れたとこも大好き!」


「照れてねえ」


「あうっ!」


 満面の笑みでリーネルが抱擁しようとしたところをアルトはデコピンでそれを封殺。同時に痛みに耐えかねたリーネルが小さく悲鳴。


「ううぅ、先は長い」


 と、泣き目を浮かばせながらリーネルはスリスリと赤くなった自分の額をさする。

 それから泣き目のままアルトの方へと顔を向けて、


「んとー、でもさ、アルトが一国の王子様だったらさ、私はお妃様になるの?あらやだ、リーネル大出世!これが玉の輿というやつ?」


「一人で話を突っ走んな。くだらねえ妄想しやがって」


「いやあ、でも私を救ってくれた時のアルトはそれはそれは王子様みたいだったけど、まさかモノホンだったとは。そっか。私は一国の王子様と結婚するんだ。いや、そこで物怖じしてはダメよ私。この想いはいつだって本物。恋に身分なんて関係ない。私は一人の女性としてアルトが好き!」


「…………」


「えへへぇ、でも、そっかー。そっかそっかー。私お城に住むのかな?毎日、豪華な服とか着ちゃうのかな?絶品料理とか食べれるのかな?あぁ、将来が明るすぎて妄想が止まらない!」


「もう、話すの辞めるわ」


「あぁー⁈ごめんごめんごめん!ごめんって!アルトォ、機嫌直してぇ」


「不憫か」


 機嫌を損ね、プイッと顔を背けたアルトに対し、リーネルは駄々をこねるかのように彼の裾を引っ張り泣きじゃくる。

 ここだけ見れば、リーネルの方が子供みたいに思えた。あれだけ揶揄われたことも相まって、今彼女に軽くマウントをとれていることにアルトは充足感を覚える。


 なんだか彼女に対し優位性を持てた気分だ。悪くない。説き伏せるなら今か。


「ちゃんと聞くんなら、それで妄想止めるんなら、話してやるよ。」


「ちゃんと聞きます!妄想は辞めません!私はアルトの奴隷です!」


「……。……もう、突っ込まねーからな」


 もはや彼女の言うこと為すことに付き合うのも億劫だとアルトは長いため息を吐く。


 それから彼は語り続け、


「とりあえず、俺はそういう身分の人間だ。イルエス王国のセリージャ王、俺はその王の息子。で、ある程度、牛悪鬼と渡り合うことができたのもその国の騎士団に所属していて戦いの作法をみっちり鍛えさせられたからってこと」


「それだけ聞くと、すごい肩書きだよね。でも、そんな人がなんでこんな辺境の地に?」


「ここにいる経緯はそれもそれでややこしいことなんだが」


 リーネルの問いにアルトは答えようとするも、どう言えば良いのか分からず、図らずも言葉に詰まってしまう。説明しようにも適した答えが見つからなかった。

 なぜならつまるところそれは、世界を戻り、時を戻されたことについての内容になってくるのであるから。


「………」


 そもそも、そのことは打ち明けるようなものなのだろうか。


 魔帝に負けた?女神に会った?時を戻った?


 客観的に考えてもこれは現実の外側の話になってくるのは分かる。

 実際に自分で体験したことではあるのだが、未だにあの時の自分は想像を絶するものを経験したという自覚があるのだ。

 

 あんな俄かには信じ難い経験をした人間など、アルト以外にはそうそう居るまい。


「……アルト?」


「いや、」


 こちらに声を掛けてきたリーネルに対し、言葉をこぼして軽く応じる。

 それから、「えっとだな」と、言葉を加えてから、


「何でここにいるのかは…まあ、また時が来たら話すよ。てか、俺も何でここにいんのかはっきりとは理解してねえってのもあるが」


 そもそも、なぜあの女神がアルトをこの村へと飛ばしたのかなんて、てんで見当もつかない。何か理由があってここに飛ばしたのか、はたまた偶発的にアルトはここに飛んだのか。

 しかし今さら女神の思惑など知る良しも無いわけでもあり、それこそ神のみぞ知るというやつか。

 

「んん?アルトも分かんないの?自分の経緯なのに?」


「まあ、細けとこまでは俺もよく分かんねえな。こっちもいきなりで必死だったし。」


 女神に会ったこと、時を飛んだこと、それらを避けながら彼ははなけなしにリーネルへとそう言葉を紡いだ。


 魔帝と戦い敗北し、女神の元へ招かれ、そこで話をして、今アルトはここにいるという事実自体はあるのだが。

 やはり、これはあまり公にするようなことではないとアルトは胸中で結論づける。


 それから彼はリーネルに出来る限り隠すように説明し、


「結局、飛んでて目え覚めたらここにいた。ってしか言えねえな」


「およ?なんか急に曖昧な言い方?」


「なんか戦ってどっちゃんばっちゃんして、ビュンて飛んで起きたらここにいた」


「なんか曖昧すぎる言い方⁈」


 「なにそれ⁈全然分からん!」とリーネルは目をまん丸くして驚嘆する。

 そんな彼女の様子を目にし、驚く様も騒がしいやつだとアルトは軽く嘆息した。


 まあ、確かに今のはさすがに適当すぎる説明だったと自省するが。


「うーんっと?てことは?」


 と、ここでリーネルが考えを整理するように顎に指を添えては少し視線を上にあげ、


「えっと、じゃあアルトは、イルエス王国の王子様で。それで騎士団に所属していて。そんな人が今日目が覚めたらこの村にいたと?んんと、でも結局アルトがここにいる理由が分からないけど。」


「だから、飛んで目え覚めたらここにいたんだって」


「飛んでって表現が何?そこが全く分からない!」


 時を飛んだの意味なのだが、まあそれは言わない方向なので説明は省く。

 

「そのうちそこら辺はまた言うから。多分、おそらく、きっと。」


「信憑性がない!」


「文句垂れんな、んじゃ、俺の話終わり。これで満足か?」


「話の終わらせ方がものすごく癪なんだけど、まあアルトのこと知れたからいいや。でも、も一つ聞きたいことあるよ。」


「なんだよ。まだあんのか」


 終了宣言をしたアルトに待ったをかけ、リーネルは指を一本立たせる。

 次いで「えっとねー」と微笑を浮かばせながらそう言うと、


「うん、てゆうか結局さ、アルトがしなきゃならないことって何なの?私の告白を振るほどの理由とは一体全体何なのですか?なんか切羽詰まってそうな感じだったけど」


「お前を振るのは決定事項だ。……つってもまあ、そのことか」


「ケッテイジコウ?はてはてー?」


「………」


 ふざけた彼女の言葉にアルトはジト目で睨むように応じておく。


 それからリーネルの問いにアルトは少し瞳を落として黙し、それから目線を横に投げて、耽るように嘆息した。


「まあ、それは俺の目的でもあってだな」


 そしてアルトは瞳に鋭さを増してから、自身の歯を噛みしめる。横目になんともない場所を睨みつけながらアルトはゆっくりと口を開き、


「…それは、俺の」


 短く、虚げにそこまで言い、彼は頭の中で思いを馳せた。

 前の世界の、自分の生涯の終わり方に









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