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18. 『見えたもの』

ーーーーーーーーーーーーーーー


 なんだ?


 どうなってるんだ?


 俺は今どうなってる?


 脳内に雷が落ちたような感覚がした。痛みに耐えていて、わけわからなくなって意識が飛んだのは分かる。分かるけど、この状況は一体なんだ?


 前の光景が見えた。意識が飛び、何だか身体も思考もあやふやとなっている状態なのだが、ただ眼で前が見えていた。


 …それに、何だこれは?


 周りが異様に赤い。背景が、目に映る光景が少し赤く染まっている。


 前を見ると、牛悪鬼の猛攻をリーネルが必死に防いでいるのがわかった。


 そうだ、俺は今、庇われている。早く彼女を助けにいかないと。


 ………?


 けれども、そんな切羽詰まった状態だというのになぜか身体が動かなかった。

 いや、動かなかったというよりはまずそもそも感覚がないというか、


 両手、両足、頭、胴体、それらが自分の身にあるという感じが今はしなかった。


 いや、感覚でいえば一つだけ感じることができた。


 紅く、紅く光るこの左眼がある感覚だけはよく感じられた。


 今思えば、俺は今この左眼だけが機能している。


 あとの四肢や胴やらはなんだか感覚から朦朧としていてまともに動かせそうではない。


 ……いや、今はそれでいいんだ。


 俺はこの状態をなんの疑心もなく受け入れた。

 特に今は必要なかった。左眼だけが動いていればそれで良いのだと分かっていた。


 前に目を向けるとリーネルの真紅の長髪がたなびいているのが見えた。彼女の後ろ髪はとても美しく凛々しいと分かる。

 牛悪鬼が剛爪をかき立てているのが見えた。奴は所々に火傷を負ってはいるのだが、それでもなお痛む様子を見せてはいない。


 左眼で見えるその光景、情景は赤く染められていた。軽く周りを見渡すと青く生茂る木々もオレンジ色に燃えゆる炎も崩れ落ちた黒き民家の残骸も、この左眼で見ると赤く染められていた。


 ……今は、何をするべきだ?


 そう考えを巡らせて、俺は牛悪鬼をこの眼で見つめた。


 ああ、今はあいつを倒さないといけねえんだ。

どうやってとどめを刺す?そりゃ、この短刀で首を斬るしかないだろう。


 ………ん


 ふと、黒き怪物を見つめると、何か強く光る赤い線が見えた。それは道筋のようにも見え、真っ直ぐに牛悪鬼の心臓の部分へと続いている。


 …………。


 それが見えた瞬間、唐突に体が動いた。落ちている短刀を軽く握りしめる。俺は何も考えず、その場から地を蹴った。

 リーネルと牛悪鬼が対峙しているところに向かって駆ける。


 ただ、今のこれは無意識で行っている行為だ。感覚もなく頭もろくに働いてない状態なのだ。


 ならばなぜ、そんな状態なのに今の俺は動けているのか。


 はっきりとしたことは分からない。けれども強いて言うのならば、


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それは、その事実は何となく直感で感じた。


 まるで、総身の支配権を左眼に奪われているような感じだ。自分の意思ではなく勝手に身体を動かされているような感覚。


 ……けど、俺はそれに抵抗しない


 直感で分かったのだ。このまま、この状態のままいけば牛悪鬼を倒せることができると、


 ……見える


 見える、その輝く光が見えた。俺はその光をなぞって動くだけでよかった。


 光の道筋のままに牛悪鬼の心臓の元へ向かう。

 あっという間に奴の懐に入り、ただ光の道筋の終点を見つめる。


 近くまで来るとよく分かった。黒き硬質な体表面に微かな綻びがあるということを。さらには牛悪鬼の胸筋が見えた、胸骨が見えた、ドクドクと拍動している黒き怪物の心臓が見えた。


 もう、やることは分かっていた。体表面の綻び部分へ刀を刺す、胸骨の隙間に刃を通す、牛悪鬼の心臓へとこの刃を届ける。


 クシャリ、とした感覚が伝わった。同時に牛悪鬼が力のない奇声を発した気がした。


 けれども、俺はそこで左眼が熱くなるのを感じてから何か熱い液体が眼から飛び出たことに気づいた。


 そこからのことはあまりよく覚えていない。







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