34話
冒険者ギルドへと救助者確保の現物を届けた流れは、ある意味もう慣れた感のある顛末なので割愛しよう。
二次災害的な魔物の掃討で出動した冒険者の大半が帰還してないとか、流石に今回は遭難癖のあるお嬢さんでも死の危険が大きかったろうな安堵の度合いとか、些細な部分の変化は有るが、魔導国内の冒険者ギルド存亡の危機とやらは凌げたようなので。
とりあえずは大団円。
ほら、他の例でもその他大勢の生死とかよく無視されるし。
終わってみればこの事件、時間にして半日程度で済んだのだから、もしかしたらこの地方では良くある規模のトラブルなのかも……と後から考えてみたり。
時刻は夕方近くになったが、当初の予定だけは済ましとこう。
とは言っても、冒険者ギルドの男子寮退寮時に必要な手続きの確認だけだ。特に前準備等も無く、出る時に受付で身分証を提示すれば良いと知る。
面倒なくて助かる仕様。
今日のトラブルが無きゃもっと助かった気分なのに。
……そう言えば。
ルビアルテの寮部屋の手続き、放っぽいといて来たのを思い出し……。
いや、思い出して無い。あれ、何だっけ? 俺、何か記憶に欠落が出たような。
さて、今回の緊急依頼は参加してましたの手続きだけの確認で、報酬関係のは後日の予定。
まだ参加者全員が帰還してないので当然の話。
連中が回収してくるだろう素材などの換金分配も加わるので、結構時間はかかるらしい。
既にミラテルは専門の看護隊に渡してあるし、これから別の依頼を受けような時間でも無い。まぁ、部屋に戻って魔術の自主練か、素直に寝るかな感じか。
流石に呑みに出る気力も無いし。
ただちょっと時間が半端なんだよな。
そんななので、引っ越しの準備は終わってますの報告な感じで魔術士ギルドへと足を伸ばしてみた。
ふむ、此方は長閑だねぇ。
最近、玄関フロアの一角でとある魔道具の商談の様子が常態化している以外は、職員の大半が何も無い宙をボーっと見てる振りして寝てるか、自称天才魔道具作成者の有象無象が下手な売り込みコンペを一蹴されてるだけの日常。
実に平和。
受付さんにルキシス女史の予定を聞いて、開いてたら面会をと申し込む。
一応、私塾の案件も聞いときたいし。
面会できなきゃ此方の言伝だけ頼んで、場所が開いてたら攻撃系魔術の鍛錬でもしようの気分。
やっぱり、実戦で使いこなせれる魔術の必要性が高くて。
属性の一つだけでも自在にしときたい精神で。
ボッチ行動に固執するなら苦労は無いが、他人の視線の中でも困らない程度は必須とも感じた。今回の人命救助は緊急性が低いからこそ精神的余裕も有ったし。
これが秒を争う状況で失敗や嫌な結果になる事態に直面したとかだと、確実に俺の精神が病む気がするし。
……不思議と、戦場や抗争って環境だと案外綺麗に線引きできるんだがなぁ。
ルキシス女史はもう少しで空き時間が取れるという連絡が来たので時間潰し。
そのまま暇をしている受付さんとの雑談に。
その中で「そう言えば今日、魔術士のミラテルって人が――」と話題を振ったのが、ちょっとした失敗。
なんと彼女、魔術士ギルド内でも有名人だったようで。
魔物に捕食され……の段階で内容が暴走しかけて、もう終わった救出劇が再びな感じに。
慌てて最後までの顛末を伝えて状況終息。
何故か怒られる。完全に八つ当たりだが。
その後に彼女関係の未公表情報っぽいものがグチグチと語られたが……今は割愛しとこう。プライベートな内容過ぎる。
と言うか、どうして女子の話題は聞いちゃいけない内容まで普通に世間話に載るのだか。
ついでに言えば、ミラテルの実家は貴族らしいので、語られる部分に俺が聞いちゃ絶対ヤバいようなもんもチラホラ。
なんで世間に公開済みみたいに語るんですか?
俺の常識が違うだけじゃないよな。
だって、周囲の人口密度が激減したもんさ。
誤解騒動で集まった他の職員とか客とか、皆聞いちゃいけないって走って逃げてんじゃねーか。
俺を道連れにすんなぁの精神で。
その後。
ルキシス女史が登場して雑談が終わるも、俺の様子が異様だった事もあって又も件の内容を繰り返し。
今度は聞くのがルキシス女史一人な事もあってパニックは起きなかったが、妙に神妙な対応を取られたので……それはそれで何か怖い反応に感じたり。
そしてやっぱり、「その情報は冒険者ギルドの対応前に欲しかったな」と、やんわり注意も貰ったり。
……そりゃそーだよねぇ。
それはともかく、私塾への案内の段取りも進んだようで。向こうの受け入れの返事次第では二日と経たずに引っ越しという算段になった。
ルキシス女史の案内も有るが場所の地図も貰ったので移動に困る事は無い。
師匠になる方が御年配の女性って事なので、手土産として甘味でも用意しとくかね。
今作り置きが有るのは飴玉とかペロキャンなんで子供向きだし、大人が喜びそうなもんでも自作しとくか。
んー……。
簡単なもんとしては、プリンとかか。
実は錬金用の素材でゼラチンの確認はしてるし、タマゴは普通に有るし。
この国でもニワトリ以外の卵なのは確かだが、味や食感は変わらないので其処は気にしない精神にて。
麦芽糖もあるからカラメルも作れるし。
[万色の調味能]も最低限の仕事で再現できるだろう。
地味に必須なのは容器かな。
小鉢よりも小さいのとか余り見ないし。
純洋風だとカップ自体で蒸し焼き前提。だから磁器や陶器のカップ価格も込みで高いのも納得。
日本だと安価なプラカップでリーズナブルだが、此方の世界には当然、無い。
紙コップも同じ理由で無し。ガラスカップなど磁器以上に高価だったり。
俺定番の素焼き鍋での提供は……、バケツプリン以上に無いわ。
例え先方に喜ばれても、俺の感性が許さんわ。
……これが茶碗蒸しな味だったら許すかもなとこが我ながら妙な拘り。
……あれ、なんか闘志が湧いて来たか?
何でプリン用のカップ作るのにこんな無駄なやる気が……。
まぁいいか。
ちょっと生活系と錬金系の魔術も頑張ってみたい気分も有るし。
えーっと水晶素材は鉄板として、構造強化の添加物って何だったっけ。塩とか鉛? いやそれ透明度を上げるとか色を付けるのと勘違いしてるっぽいな。
ああ、そう。加熱と急速冷却とかか。
確かその工程で素材の圧縮効果を付けて被破壊強度を上げるとか。
[加熱]と[冷却]なら既存の生活系魔術の範疇で充分だし、その手間に気を付ける意識が無い分、素材の構成に時間が使える。
単純に水晶の形状をカップ状に変形とかだと、天然の密度がスカスカで中身が漏れるとか聞いたしな。ちょっと前世の組成関係での知識で頑張ってみようか。
……やっぱりチートは助かった。
冷却での強化の塩梅に微妙に苦労したが、一度した失敗は二度としない学習能力の度合いに自分でも驚き。
失敗で自壊する時の「正に粉々」な現象も面白いので、それはそれで別の何かに活用したい。
俺基準によるグイ呑みサイズのガラスカップが何十個と出来た後に、サクッと作った中味を詰めて蒸しプリンへ。生活環境での耐熱性も充分なので、これからはマイグラス等も用意したい。
ビールは無いが、大ジョッキで乾杯とかいいよね。
調子に乗ってフルーツドロップの素材活用なフルーツゼリー風も作成してみたり。
味関係はチート頼みの難点はあれ、形から入ってな現代菓子の再現がちょっとレベルアップした気分。




