9
「一体、どこへ行くんだ?」
気がつけば、辺りは見知らぬ土地へ来ていた。都会特有の、建物同士の詰まった感じは無くなっている。
「ああ、もう少しかかるよ。寝てたって構わないぞ。職業柄あんまり眠れないだろう」
「まあな」
しまの言う通り、貞夫は体質的に不眠であったが、そもそもこんな状況で眠れるはずもなかった。内心、おかしくなりそうな心に、平穏さを保とうとするので精一杯だ。
「なあ、本当に監禁しているのか?」
「本当に決まってる。まさか、怖いのか?」
しまは鼻で笑いながら言った。そんな態度にも、いまいち腹は立たなかった。
「まあ、実際見てみれば恐怖なんて一切消えるさ。子供の頃もそうだったろ?見る前はドキドキしたもんだが、見てみたら結構イケるもんだったろう」
そうこう会話をしているうちに、目の前の視界は質素な景色に変わっていった。質素というよりは不気味というのが正しいかもしれない。そこは同じような建物が整列している団地であった。団地の中の狭い道を通り、一角の駐車場に、車は停まった。
「着いたぞ」
しまが運転席から降りる。続けて貞夫も車から降りた。
「もう、近くだから」
しまと二人で白い錆びた建物と商店街や小さな公園の横を歩いた。きっと最初にここが出来た頃、ここら一帯は綺麗で住民ものびやかに生活出来たに違いない。今は少々錆び付いていて、人気もなく、傍から見れば余り住み心地は良く見えない。それでも、住民にとってはここは居心地のいい土地なのだろう。まるでダビングしたビデオを永遠に巻き戻すかのように、生活が出来る。
しまの背中をついて、ゆっくりと歩いていく。背の曲がったお婆ちゃんが一人通りすがった。通行人は余り見かけない。年寄りが多い雰囲気だ。辺りに並ぶ店舗もどこか侘しく、掲げた看板も茶色く錆び付き、『よしむらケーキ』の『ケ』の文字が半分剥げている。




